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〇〇は寄り道をするそうです その7

 その頃『はじまりのまち』では、とある事件が発生していた。『盗賊団による襲撃(しゅうげき)』である。

 それも十人程度ではなく、約五十人。

 このまちは、つい最近モンスターチルドレンによって破壊されたが、なぜか元通りになったまちとして有名になっていたため狙われた。


「お前ら! 金目のものは全部奪え!!」


『おーー!!』


 黒い布や服で目以外の全身をおおい、目立たなくする行為こういは珍しくもなかったが、数が多すぎたため、すれ違いざまにうっかり荷物を取られる人もいた。

 どんな世界でも貧富の差は存在する。

 だが、それを言い訳にしたまま改善しなければ、いずれ世界滅亡の鍵となる。

 彼らのような者たちをられたのち、彼らにふさわしいばつを与える組織はたしかに存在していた。

 しかし『五帝龍ごていりゅう撃退後げきたいごは、まったくその姿を見せなくなり、いつのまにか、その組織はなくなっていた。

 だが、そんな者たちを成敗するものが突如として、この地に降臨こうりんした。


「闇に染まったその心……。私が成敗してみせよう」


「き、貴様きさま! いったい何者だ! 名を名乗れ!」


「ふん、貴様きさまらにいちいち名乗る必要などない。なぜなら、今から全員、私が殺すからだ」


「かかれーーーー!!」


『うおーーーーー!!』


 白い(よろい)……いや、そんな一言で言い表される代物しろものではなかった。

 よろいというよりもロボットスーツに近いそれは、まったく質量を感じさせないものだった。

 それは装着者そうちゃくしゃの身体能力を大幅に向上させると同時にしのびのようなスピードで敵を速やかに倒すことができる。

 ちなみに、それを着たものは、一晩で国を十個壊滅(かいめつ)できる力を得るという……。


白銀の機鎧(ホワイトスノー)


 冷気を力に変えるそれは彼女の心が水のように静かであればあるほど、さらに性能をす……。

 ……彼女は、たった一人で『盗賊団』を全滅させた。

 それにかかった時間はなんと……五分。五十人ほどいた盗賊たちは、一人残らず皆殺しにされた。

 彼女の名は……『加藤かとう 真紀まき』。

 加藤式忍法の継承者けいしょうしゃであり、里で唯一ゆいいつ生き残った忍者でもある。

 ちなみに彼女もナオトの同級生である。

 その時、蒼髪ショートの妖精型モンスターチルドレンが彼女の肩に乗った。


「雪だって血を浴びれば赤くなる。しかし、お前だけは違った。一度染まってしまったものを……この呪われたよろいさえも、本来の姿に戻してくれた。だから、早くお前に会いたいよ、ナオト」


 彼女は民家の屋根の上で、それを身につけたまま、アンパンを食べ始めた。(ア○セルワールドのように)

 だが、その姿はどこかさびしげであった。


 *


 気がつくと、どこまでも広がる草原の上に立っていた。ここはいったいどこなんだ? そんなことを考えていると、黄緑髪ショートの妖精モンスターチルドレンが右肩に乗っていた。

 な、なんだ? こいつ……。まったく気配を感じなかったぞ。

 うーん、まあ、見たところ武器は持っていないみたいだから警戒しなくてもいい……かな?


「ここから一番近いまちは、ここから真っ直ぐ五キロ進んだところにある『はじまりのまち』というところです」


 しゃ、しゃべった……。本物の妖精がしゃべっているところを見るのは初めてだったため、彼は少し泣きそうになった。

 おっと、感動している場合じゃないよな。えーっと、とりあえず『はじまりのまち』に行けばいいみたいだな。

 ……ここから真っ直ぐ五キロか。うーん、五分あれば十分だな。彼は準備体操をしながら昔のことを思い出していた。

 高校の同級生の中で、一番あいつが印象に残っている。卒業して十年ほど経った今もそいつの勇姿ゆうしが目に浮かぶ。

 今はどこで何をしているんだろうな……。さて、そろそろ行くとするか。


「そろそろ行くぞ。妖精さん」


「私は妖精型モンスターチルドレンの八番です。『ハッちゃん』でもなんでも、お好きなようにお呼びください」


 モンスター、チルドレン? なんだそれ? まあ、いいか。細かいことは気にしない!


「じゃあ、しっかりつかまってろよ。『ハチコ』!」


「はい。マスター!」


 彼は勢いよく地面をると、両腕りょううでを後ろに回して逆の『Vブイ』の字を作った。

 その後、彼は徐々に加速していった。

 彼の名は、『月影つきかげ 悠人ゆうと』。

 月影式忍法の継承者で、『マキ』とは違う里で生まれ育った。

 また、彼女と同様どうように里を滅ぼされた存在でもある。

 彼も、一族の最後の生き残りであるが彼女とは別の一族で彼女とは別の鎧を着ている。


黒鉄の機鎧(ブラックレイン)


 性能は彼女とほとんど同じだが、その色は黒鉄くろがねのようで、熱気をエネルギーに変える。しかし、雨の日だろうとその性能は落ちない。

 太陽光だけではなく、装着者の気持ちが高ぶれば高ぶるほど、その才能がすからだ。

 ____五分後。彼が『はじまりのまち』に到着した時に初めて見た光景は『白いよろい』のようなものを着た何者かが盗賊を全員殺し終えたあと、幼女からお礼に『アンパン』をもらっているところだった。

 民家の屋根の上にチョコンと座って『アンパン』を食べるさまは、高校時代と何も変わっていなかった。間違いない! あいつだ!

 彼は彼女のいる屋根にジャンプすると、立ったまま挨拶あいさつをした。


「久しぶりだな! マキ! 元気だったか?」


 彼女は、めんどくさそうに、こう言った。


「誰かと思えば貴様きさまか。久々(ひさびさ)の再会に喜ぶのは分かるが、今は静かにしてくれ。『アンパン』に、ホコリがつく」


 彼はその場に座りながら、こう言った。


「相変わらず『アンパン』が好きなんだな。あと、その口調も変わってない。あの頃のままだ」


「うるさい。貴様きさまこそ、空気を読めないのは相変わらずのようだな」


「そうなのか? これでも気を使ってるんだけどな……。それにしても、今日はいい天気だな」


「そうか? 私はどちらかと言えば雨の日の方が好きだ」


「え? そうだっけ?」


「ああ」


「理由は?」


「血のにおいが消えるからだ」


「…………」


「どうした? 同じしのびなら当然だろう?」


 彼は首をブンブンと横に振りながら、こう言った。


「いやいやいや! そんなこと女の子が言っちゃダメだろ!」


 彼女は首をかしげながら、こう言った。


「なぜだ? 同じしのびであるお前に理解できないはずはないのだが……」


「そ、それは」


 彼は一瞬、口(ごも)った。


「あ、あいつも言ってただろう?」


「あいつ?」


「ナオトのことだよ」


「あー、あいつか。また会えるといいな……」


「そうだな……って、そんなことより、雨の話だ!」


「ああ、そうだったな。だが、私はあいつからそんな話を聞かされたことはないぞ?」


「ああ、俺にだけしてくれた話だからな」


「……ふむ。それで? あいつはなんと言っていたのだ?」


 彼は、咳払せきばらいをした。


「これは、とある地域で起こった話でな……。雷鳴らいめいが鳴り響き、まるでやりが降るかのような雨の中、一人の少女が傘もささずに歩いていたそうだ」


「……ほう」


「少女の体は雨に打たれ続けたせいで、すっかり冷え切っていたそうだ」


「……ふむ」


「その時、目の前に大きな黒い影が現れました」


「そいつがロリコンなら、絶対に殺す」


「いいから、最後まで話を聞けよ」


「……す、すまない」


 彼は頭を右手の人差し指でトントンと叩くと、どこまで話したのかを思い出した。


「えー、その黒い影は少女にこう言ったそうだ。『可愛いおじょうちゃん、こんな雨の日に一人でどこに行くんだい?』と」


「…………」


「すると、少女はこう答えた。『おばあちゃんの家に行くのよ』と」


「………………」


「それを聞くと、黒い影は言いました。『なら、すぐに会えるね』と。その直後、少女が『どうして?』ときました」


「……………………」


「すると、黒い影はこう言いました。『それは……お前のおばあちゃんは、とっくに俺が殺したからさ!』その黒い影はそう言いながら、その子も殺してしまったそうだ。それ以来、その地域では雨の日は必ず家で過ごすという習慣が定着したそうだ……」


「……それで?」


「ん?」


「それで、そのあとはどうなったんだ?」


「その地域の人たちか?」


「いや、そうじゃない。少女のことだ」


「ん? いや、黒い影に殺されたって言っただろ?」


「……あいつのことだ。続きがあるのだろう?」


「……ははは、バレたか」


「私を甘く見るな」


 彼は頭をきながら、続きを語り始めた。


「少女は不老不死だったから助かったけど、雨の日になると逆にその黒い影を殺しに出かけるようになったそうだ……」


「……それって、本当にナオトが言っていたのか?」


「いや、俺が今さっき作ったやつだ」


 その時、二人は同時に笑い出した。それは、二人ともナオトがこんな話をするはずがないと思ったからである。

 こうして、二人はそのまちで装備をそろえたのち、共に高校時代の同級生たちを探す旅に出たのであった。(盗賊を倒してくれたお礼として、その日、二人が買うものは全て無料となった)


『みんな待ってろよ! 絶対見つけてやるからな!』


 二人の像が『はじまりのまち』を救った英雄とその付き人として建てられるのは、また別の話である。(屋根の上で話している時の様子)

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