〇〇は寄り道をするそうです その6
ルル(白魔女)と『黒影を操る狼』は無事だろうか?
いくつもの朱色の鳥居を掻い潜っている中、俺はそんなことを考えていた。
どこまでも続くその一本道には終わりがないように思われたが、そんな『永遠に続く一本道』は突然、終わりを迎えた。
たくさんあったはずの鳥居や今まで走っていたはずの道は、いつのまにか消えていた。
その代わりにあったものといえば立派な社と賽銭箱。それと狛犬の代わりに置いてある【狐の像】であった。
さて、ここまで来たのはいいが、お金はルル(白魔女)が持ってるから、お参りしようにもできないんだよな。うーん、どうしたものかな……。
俺が首をひねりながら考えていると、シズク(ドッペルゲンガー)が俺の袖をクイクイと引っ張った。
「おう、シズクか。どうしたんだ? 腹でも減ったのか?」
俺がそう言うと、シズクは首を横に振りながら、こう答えた。
「ここに来た時から誰かに見られてる気がするんだけど、気のせいかな?」
「ん? あー、そういえば確かに誰かの視線を感じるな。けど、いったい誰のだろう?」
「それは分からない。でも、たしかに誰かいるよ」
視線は感じるが敵意は感じない。しかし、このままここで待っているのも退屈だな。なら、ここは一つ試してみよう。
俺は【狐の像】のところに行くと、それを思い切り蹴った。
すると「イタッ!!」という声が聞こえた。俺はそれに構わず、再び石像を思い切り蹴った。
「だ、誰じゃ! 妾が石像に化けているのをいいことに蹴りを入れてくる輩は!」
俺がそれを無視して三度蹴ろうとした、その時。
「いい加減にせんかー!!」
白い煙の中から両拳を天に向けたまま、五メートルくらい回転ジャンプした後、スタッ! と見事に着地した者がいた。
その子は紅色の袴と、白衣を着ていた。
首には金色の鈴がついた赤い首輪をつけている。
あと、白い足袋と草履を履いている。
『巫女装束』を身に纏っている彼女の頭部にある耳はキツネのようにピコン! と立っている。
というか、いかにもふわふわしていそうなシッポを今すぐ触りたい。(身長は百三十前半くらい)
えー、金というよりハチミツを塗った感じの長髪は彼女の腰まであった。
ちなみに両目は白いハチマキで覆われているため、見えない。
だが、その点を除けば、どこからどう見ても【狐の巫女】であった。
「まったく! 人がせっかく気持ちよく寝ていたというのに無理やり起こすとは、いったいどこの愚か者じゃ!」
プンスカ! という文字が出てきそうなくらいの怒りを露わにしている彼女は、まだこちらには気づいていないようだ。
俺の存在感の薄さが原因か? いや、もしかしたら長年のボッチ生活で習得できるという伝説の『ス○ルスヒッキー』かもしれないな。
……いや、さすがにそれはないな。
これは単に向こうが気づいていないだけであって、俺の影が薄くなっているわけではない。
俺は辺りをキョロキョロと見渡している【キミコ】に話しかけた。(狐の巫女の略)
「おい、そこのキツネの巫女。ちょっとお前に用があるんだが、少しいいか?」
こちらを振り向こうとせずに同じ動作を繰り返している彼女は、かなり怒り気味でこう答えた。
「なんじゃ! 今、妾はとても忙しいのじゃ! 後にせい!」
俺はそれを聞き終わると同時に彼女の耳元でこう囁いた。
「お前を無理やり起こした張本人が、すぐそばにいるというのにか?」
「ふえっ!!」
【キミコ】は数センチ飛び上がると歯をギリギリと擦り合わせながら、こちらを向いた。
「お主か! 妾の眠りを妨げた愚か者は! その罪、万死に値する! ここで葬ってくれるわー!!」
その時、シズク(ドッペルゲンガー)が俺の前に姿を現した。
その後、シズクは両手を広げながら、彼女に対して、こう言った。
「ナオトには指一本触れさせないよ!」
その子は白いハチマキをしているのにもかかわらず、こちらの位置を把握しているようだった。
なぜなら、シズクが話している間、その子はずっとシズクの方を見ていたからだ。
なるほど、目隠しをしていても相手を認識できるほどの実力者なのか。うーん、これは、ちょっとまずいかもしれないな。
しかし、二人の殺る気スイッチが入っていたため、止めようがなかった。
「ナオト! 私の固有魔法の名前は考えてくれた?」
こちらを見ながらそう言う彼女の目は本気だった。あっ、そういえば、まだシズクの固有魔法は見たことなかったな。えっと、確か考えてあったのは……。
タケノコがにょき! と生えるように思い出すと、シズクの固有魔法の名前を本人に伝えた。(固有魔法とは、自分以外の誰かに、その名前をつけてもらえて初めて本来の力を発揮できるモンスターチルドレンの力の一つである)
「シズク!! お前の固有魔法の名前は………………『紫影製の立方体』だ!!」
シズクはそのままの体勢で、こちらに笑みを浮かべながら、こう言った。
「ありがとう、ナオト。さっそく、使わせてもらうよ!」
シズクは正面を向くと、右手を前に出した。
「『紫影製の立方体』!!」
シズクがそう言うと、紫色の影でできた立方体が二人を閉じ込めた。
俺は外に追い出されていたが、中の様子ははっきり見えた。
しかし、俺のことは見えないらしい。その証拠に【キミコ】が「どこだ! 人間!」と言いながら壁を殴っていたからだ。(ビクともしなかった)
無理はするなよ。シズク。俺はシズクを見守ることにした。