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〇〇は『藍色の湖』に行くそうです その5

 おかしいな……。湖に落ちたはずなのに、どうして息ができるんだ?

 俺は竿さおにぎったままだったため、湖の底に引きずり込まれていた。

 なぜ息ができるのかはなぞだったが、強い探究心と得体の知れない何かを釣り上げたいという欲求の影響で竿を持つ手を離せずにいた。

 それにしても深いな。いったいどこまで続いているのだろう。

 そう思っていると、目の前に『巨大な影』が出現した。

 それは、へびというにはあまりに大きすぎた。へびというよりりゅうに近い存在であった。

 湖の中だということを一瞬、忘れてしまうくらい、その姿ははっきりと見えた。

 体長はよく分からなかったが、全身には藍色あいいろうろこが規則正しく敷き詰められていた。

 そいつの目は黒く、数秒に一度見せる舌はピンク色だった。

 俺がその巨大なへびらしきものを観察し終えた時に思ったことは……われるかもしれないということである。

 こんな巨大な生物が目の前に現れたら、まず喰われるだろう。

 映画で見た『ア〇コンダ』よりも大きい気がする。いや、間違いなく大きい。(そのへびはいつの間にか、釣り針とエサを吐き出していた)

 残念ながら、美少女の膝枕ひざまくらで死にたいという俺の小さな願望は叶いそうにないらしい。

 俺は腹をくくると、水中で大の字になった。

 さあ、煮るなり焼くなり好きにしやがれ!


「こんにちはー」


 ん? 今、声が聞こえたような……って、気のせいだよな。まったく、おどかすなよ。


「あのー、人間さん? 聞こえてますか?」


「うるさいな。誰だか知らないが、俺がせっかくへびのエサになってやろうとしてるんだから邪魔じゃまするなよ」


「ひどいなー。私は人を食べたりなんかしませんよ」


「こんなでかいへびが人を食べないだって? 冗談はよせ。げんに今、俺は喰われかけているじゃないか」


「それは誤解ごかいです。私はあなたをここに連れて来るために運んできただけですよ?」


「そうか……。けど、俺はこの湖で生まれた亀以外、ここに住んでいるやつのことなんてまったく知らないぞ?」


「まあ、そうでしょうね。それでは、これからお教えしましょう」


「なに? それは、いったいどういう……」


 その時、白き光が辺りを照らし始めた。

 あまりのまぶしさに、俺は両目を両腕でおおった。

 な、なんだ! この光は! いったい、何が起きているんだ!

 数秒間、それは辺りを照らし続けた。

 その光は藍色あいいろの湖を、少しの間ではあったが、神秘的しんぴてき幻想的げんそうてきなものにした。

 それがむと同時に目を開けると、そこには腰まである藍色あいいろの長髪と黒い瞳と、スクール水着が特徴的な美少女……いや美幼女がいた。

 その子は、にっこり微笑ほほえむと俺の背中に手を回して抱きついた。


「お、お前は、誰だ! 俺に何の用だ!」


 クスクスと笑いながら、その子はこう答えた。


「私はさっきまであなたの目の前にいた『巨大なへび』ですよ?」


「はあ? いやいやいや、そんなわけないだろ。こんな幼女がさっきのへびなわけ……」


 その子は俺が言い終わる前に、耳元でこうささやいた。


「……私は『インディゴファースネーク』といいます。一応、この湖のぬしですが、『四聖獣しせいじゅう』の一体である【玄武げんぶ】のいもうとでもあります」


「そ、そうなのか?」


 彼女は、こちらに視線を合わせると、こう言った。


「はい、そうですよ。ところでお姉様との旅はどうですか? 快適ですよね? まあ、私のお姉様ですから、そんなの当たり前ですよね?」


「も、もしかして、本当にミサキの妹……なのか?」


「はい、そうですよ……って、お姉様の昔の名前は『メタルタートル』という名前だったはずですが。あっ、もしかしてあなたがそんな素敵な名前をつけてあげたのですか? どうもありがとうございます!!」


 な、なんでだ? ミサキは妹の話なんて……。その時、俺は思い出した。

 この世界で『四聖獣しせいじゅう』と呼ばれている存在は、俺の世界では『四神ししん』という名であることに。

 そして、その一体である【玄武げんぶ】は、亀と蛇がセットで描かれていることに……。

 それを思い出した瞬間、なにか嫌な予感がした。


「あのー、よかったら、私も、ご一緒させてもらえませんか?」


 予想的中……。俺の嫌な予感は見事に当たった。

 まったく、こんな時だけ勘がいいというかなんというか。まあ、仕方ないか……。

 そう考えていると、その子が顔を異様に近づけてきた。


「あー! もうー! 分かった! 分かったから! それ以上、顔を近づけるのはやめろ!」


「わーい、お姉様と一緒だー!」


 縦横無尽じゅうおうむじんに水中を動き回る……もとい泳ぎまくる彼女のスピードは、普通ではなかったが、無邪気な女の子にしか見えなかった。

 おっと、こんなことをしている場合ではなかったな。早く帰らないと。


「なあ、早く地上に戻してもらえないか?」


「ん? ああ、そうでしたね。では、参りましょうか」


「ん? というか、どうやって上がるんだ?」


「えーっと、じゃあ、私の右手を握ってください」


「お、おう」


 俺は言われるがまま、彼女の右手を握った。

 い、意外とやわらかいんだな、この子の手。

 手を握った感想を心の中でつぶやけるほど、俺の精神は安定していた。

 彼女は俺が右手を握ったのを確認すると、上を向き、バタ足というよりドルフィンスイムで上がり始めた。(この場合、スネークスイムかな?)

 ものすごい速さで泳ぐ彼女に、俺はこう言った。


「なあ、お前はその名前、気に入ってるのか?」


「いいえ。この世界のモンスターは誰かが勝手につけたものがほとんどですから、私の名前も仮の名前です」


「そうか……なら、お前は今から『コハル』だ」


「コハル……?」


「ああ、そうだ。みずうみあおと書いて、『湖青こはる』だ」


「そうですか。コハル……。それが私の名前……。いい名前をつけていただきありがとうございます! 一生、大事にします!」


 別に物をプレゼントしたわけじゃないんだが……まあ、いいか。

 気に入ってくれたのなら、それで……。

 さて、もうそろそろかな?

 いつのまにか、太陽の光が見えてきたため、そろそろ地上に着くということがわかった。

 俺たちは湖から出る前に、湖の魚たちに別れを告げた。


「とうちゃーく!」


「うわあああああ! お、おい! コハル! 高く飛びすぎだ!」


 コハル(湖の主)は、イルカショーのイルカをはるかにしのぐほど高く飛んでいた。


「あっ!」


「どうした? まさか着地できないとかいうんじゃないだろうな?」


「……テヘペロ♪」


「う、うそだろおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ここから地面まで約三十メートルはある。

 ここから落下して助かる確率は……いや、今はそんなことに頭を使っている場合じゃない!

 何か! 何かないか! この状況を打破だはできる方法は!

 ……あっ、そうだ! ミノリ(吸血鬼)の固有武装こゆうぶそうとコユリ(本物の天使)なら、俺たち二人を支えられるかもしれない!

 けど、あの二人が協力して何かを成し遂げることができるのか?

 俺はそれが気になったため、咄嗟とっさにこんなことをコハルにいてみた。


「なあ、コハル。女の子って男になんて言われたら断れなくなるかな?」


 こんな状況の中、コハルは冷静れいせいに答えた。


「うーん、そうですね。私なら、デートの約束ですね。『俺を助けてくれたら、あとでデートしてやるよ』とかです」


「そうか、ありがとう」


「いったい、何をするつもりですか?」


「なあに、ただのけさ」


 俺は大きく息を吸うと、湖の近くにいるであろうミノリとコユリに向かってこう叫んだ。


「ミノリーーー! コユリーーー! お前たちが協力して俺たちを助けられたら、次の目的地でデートしてやるかもしれないぞおおおおおおおおおお!」


 その声があたり一帯に響き渡る前に、ミノリとコユリは競い合いながら、俺たちの方に飛んできた。


「あたしがナオトを助けるから、あんたはみんなと待ってなさい!」


「いいえ、あなたのようなバカには任せられません。マスターは私が助けます!」


「あたしよ!」


「私です!」


「二人で協力しないと、さっき言ったことは無しにしちゃうぞおおおおお!」


 その声に反応した二人の目つきは、良い方に変わった。


「……今回だけだからね」


「……当然です」


 ____こうして俺たちは無事、地上に降りることができたのである。

 俺が何かをするたびに、ややこしい事に巻き込まれている気がする。

 まあ、それも旅の醍醐味だいごみだから仕方ないよな。(『キ○の旅』を思い出した)

 ____コハルの紹介をしている時のみんなの表情は、なんとも言えないものだった。

 全員が、また、新しい子を連れてきたんだね……この浮気者! と言ってきそうな顔をしていたからだ。

 これはまずいと思った俺は、みんなと一緒に釣りをした。(一人一匹釣れるまで、帰れなかった)

 ミノリ(吸血鬼)は、ピョンピョンと飛び跳ね、マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)とシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)は、耳をヒコヒコと動かし、ツキネ(変身型スライム)は、クルクルと回転しながら喜んでいた。

 コユリ(本物の天使)は、静かに微笑ほほえみ、チエミ(体長十五センチほどの妖精)は、俺の頭の上で踊っていた。

 カオリ(首から下を包帯で覆っているゾンビ)は、魚を釣るなり、なまで食べようとしていた。

 シズク(左目に眼帯をつけているドッペルゲンガー)とルル(目の下にクマがある白魔女)は、それぞれのアホ毛をピンピンと動かしながら、俺の周囲を走り回っていた。

 コハル(湖の主)は、魚を釣るとうろこを一枚一枚()いでいた。(もしかしたら、彼女はドSかもしれない)

 あまり長居すると周囲の人に勘違いされそうだったので、釣った魚をアパートに持って帰り、冷蔵庫(チルド室)に入れた。

 ちなみに俺が使っていた竿さおはルル(目の下にクマがある白魔女)がこっそり持ってきた『魔法の釣り竿(マジック・ロッド)』だったらしい。

 つまり、コハル(湖の主)はへびの姿だと、十トンくらいあるということだ。(重すぎる)

 やることがなくなった俺は湖に行って、夜までゆっくりすることにした。

 今日はぬしを釣ったから、もうあまり大物はかからないと思うが……ひまだから、もう少しここにいよう。


「何か釣れるかなー」


「となり、よろしいですか?」


「ええ、どうぞ、どうぞ」


 となりに座ったその女性は白いパーカーに付いているフードをかぶっているせいで顔が隠れていたが、なんとなく懐かしい感じがした。

 身長は百六十センチほどで、白というより銀に近い美しい髪。(髪型は多分、ショート)胸はC〜Dカップくらい。(俺はどこを見ているんだ……)

 白い運動靴うんどうぐつと、白い靴下くつしたと、白いスカートを身にまとっている。

 どこかで見たような服装だな。うーん、まあ、いいか。俺は、その人のことは特に気にせず、釣りを再開した。

 ……あなたには悪いけど、少し調べさせてもらうわよ、ナオト……。(こうして、アイ先生の作戦が始まった)

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