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〇〇は『藍色の湖』に行くそうです その4

 ____二時間後。俺たちは『藍色あいいろの湖』に到着した。

 地図で確認すると、食べ物の枇杷びわのような形をしている。まあ、たしかにそれも『びわ』なんだけど。(滋賀県民に怒られるぞ)

 ミノリ(吸血鬼)とルル(白魔女)にかけられた固有魔法『反闇の閃光(アンチダークネス)』をコユリ(本物の天使)が解除すると、二人とも目の前に置かれたトマトジュースを夢中になって飲み始めた。

 この世界の吸血鬼は本当にトマトジュースを血と勘違いするということが分かった。(ルルは吸血鬼と白魔女のハーフ)

 釣り道具はうちにもあったが、長く使っていなかったせいか、使い物にならなくなっていた。

 そのため、俺たちは仕方なく、湖の近くにあるであろう釣具ちょうぐ屋でりに使う道具を買うことにした。

 とりあえず二班に分けようか? と提案したが、全員が首を横に振ったので、全員で一緒に釣りをすることになった。

 湖の近くに行くと、釣り道具を売っている店を発見した。(店は丸太でできている)

 店の中に全員で行くと迷惑めいわくになるため、唯一ゆいいつ、お金を持っているルル(白魔女)と一緒に中に入ることにした。(どこに持っていたのかは不明)

 ミノリたちには、しばらく遊んでおけと言った。

 ミノリ(吸血鬼)は少しムスッとしていたが、できるだけ『かっこいい釣り竿ざお』を買ってやると言うと「やったー!」と言いながら、草原を走り始めた。

 ミノリ(吸血鬼)が単純たんじゅんでよかった。ルルは小声で「チョロいねー」と言っていた。

 店の中に入ると、見たこともない釣り道具がたくさん置いてあった。

 自動追尾機能じどうついびきのうが付いたものや、魚がどの辺にいるかを音で知らせてくれるもの、そしてその中で一番すごかったのが、十トン級の魚も楽々釣り上げることができる『魔法の釣り竿(マジック・ロッド)』であった。(そんな魚が湖にいるとは思えないが……)


「なあ、ルル。どれがいいと思う?」


「うーん、私は『普通の釣り竿』でいいと思うよー」


「そうか? ミノリだったら絶対『魔法の釣り竿(マジック・ロッド)』を選びそうだぞ?」


「どんなにすごい聖剣を持っていたとしても、それを使いこなせなければ、ただの棒切れと同じだからねー。あまり意識しない方がいいよー」


「そ、そうか……。なら、『普通の釣り竿』にするか」


「うん。そうしよう、そうしよう」


 ルルが店員のところまで釣り竿を持って行くと、お金ではなく何かを見せた。

 すると、店員はその場で両膝をつき、ルルに祈りを捧げ始めた。

 ルルはそれを見ると、コクリとうなずいた。

 その後、クルリと回れ右すると、こちらに戻ってきた。

 何が起こったのか理解できなかったため、俺はルルに今起こったことについていてみた。


「なあ、ルル。お前、店の人に何を見せたんだ?」


「んー? あー、それはねー」


 黒いローブの胸元に手を突っ込むと、先ほど店員に見せた『何か』を取り出した。

 それは『白いバッジ』だった。

 それには、三本の剣に左から、ララ、ルル、ロロ、と書かれている。(三〇矢サイダーのマークに似ている)

 なんだこれ? 何か意味があるのかな? うーん、分からん。本人に直接、こう。


「なあ、ルル。これはいったい何なんだ?」


 ルルは少し得意げに、こう言った。


「ふっふっふ。これはね、世界に三人しかいない、とある有名な育成所の副所長たちにだけ与えられる特別なバッジだよー。ちなみに、これを見せれば、この世界の全ての物を買うことができるんだよー」


 その直後、俺はルルにこう言った。


「じゃあ次から、それは使うな」


「えー、別にいいじゃん」


「えー、じゃない。いいか? 俺たちはらくして旅がしたいわけじゃないんだよ。俺はこの世界の知識はほとんどないが、社会の仕組みは、だいたい分かる。お前は知らないかもしれないが、俺の世界ではお金がないと何も買えないんだよ。所得税、消費税、酒税などの税金だって払うことができない。だから、お前が大きくなって、お金が必要になった時、困らないように、これからは自分たちでかせいでいくことを覚えていかないといけないんだよ……。だから、次から、それは使うな。分かったか?」


 ルルは少しうつむくと、こう言った。


「分かった……次からは使わない」


 俺はルルの頭を撫でながら、こう言った。


「分かればいいんだよ、分かれば。よし、じゃあ、みんなのところに戻るぞ。ルル」


 ルルは顔を上げて「うん!」と言いながら、俺のあとに続いた。

 そのあと、俺は店の人にお辞儀じぎをして、店を出た。(ルルも俺のマネをして店を出た)


 *


 全員に釣り竿を渡すと、ミノリ(吸血鬼)はカオリ(ゾンビ)と。

 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)はシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)と。

 ツキネ(変身型スライム)はシズク(ドッペルゲンガー)と。

 チエミ(体長十五センチほどの妖精)はルル(白魔女)とペアを組んで、一斉にスタートした。(釣り大会?)

 結果。俺は、一人になってしまった。ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)が外に出られたら、俺も誰かと一緒に釣りができただろうに……。

 まあ、いいか。早く釣ろう。

 俺は一人(さび)しく湖の近くに座ると、エサ(店の前にあった無料の『ネズミミズ』)を付けてから、釣り糸を水面に垂らした。

 その時、俺のそでを引っ張ったものがいた。それは……コユリだった。


「マスター、私のこと忘れてましたよね?」


 コユリ(本物の天使)が誰ともペアを組んでいないことを知らなかった俺は。


「そ、そんなことないぞ! ほ、ほら、早く座れよ」


 咄嗟とっさに、ごまかしてしまった。ごめん、コユリ。なんとなく忘れてた。

 コユリは俺の右隣みぎどなりに座ってから、釣り糸を水面に垂らした。


「さすがは私のマスターです。お楽しみは、あとにとっておくということですね」


「ま、まあ、そういうことだ」


「何か釣れるといいですね」


「あ、ああ、そうだな。あははははは」


 どうしよう、いまさらコユリの存在を忘れていたなんて言えない……。

 俺はそんな罪悪感ざいあくかんに、さいなまれながら、魚が釣れるのを待った。

 ちなみに『ネズミミズ』とは、頭がネズミで体がミミズの生物である。

 ネズミの頭は相手を威嚇いかくするために進化しただけで鳴くことはない。(表情は変わる)

 土を効率よく食べられるため、普通のミミズよりいい土を作れる。

 胴体どうたいではなく、ネズミのはなに針を通すと、そのまま、スイスイ泳いでいくぞ!

 ____一時間後。


「……全然、何も釣れないなあ」


「……そうですね」


「しりとりでもするか?」


「いいですね、やりましょう」


 釣りの特徴その一、釣れない時は本当に何も釣れない。

 待つことも勉強だからいいけど、これ以上は気がもちそうにないから、ここは、しりとりでもして気をまぎらわせよう。

 こうして、魚がエサに食らいつくまでの間、俺とコユリ(本物の天使)は『しりとり』をすることにした。


「じゃあ、俺からな。リンゴ」


「ゴ〇ゴ」


「……ゴリラ」


「ラ〇カル」


「……ルビー」


「イ〇カンダル」


「……瑠璃色るりいろ


「ロ〇ク・リー」


「……イタチ」


「チ〇イカ」


「……カメ」


「メ〇ー号」


「……卯月うづき


「キ〇ア」


「……アリクイ」


「伊勢(か○これ)」


「……正義」


「ギ〇サンダー」


「……アメンボ」


「ボア・ハ〇コック」


「なあ、コユリ、ちょっといいか?」


「はい、なんでしょうか?」


「さっきから俺たちは何をしてるんだっけ?」


「えっと、しりとりですが、何か?」


「いや、『〇ですが、なにか?』みたいに言うなよ。ややこしくなるから」


「そうですか? 私はいたって普通ですよ?」


「いやいや、しりとりで二次元のことしか言わないやつは普通じゃないぞ」


「そんなことはありません。あのバカとやった時は、もっとひどかったですから」


「それって、つまり、ミノリとやったってことか? 普段は仲が悪すぎるお前らが『しりとり』やってるところなんて想像できないぞ?」


「まあ、たしかに普通のしりとりなら、断っていました。しかし、どちらがマスターにふさわしいかを決めるためにおこなうと分かれば、話は別です」


「どうしてそうなったんだよ……」


「成り行きです」


「どういう成り行きだよ。だいたい、どうして……」


 その時、俺の竿さおに反応があった。


「マスター、何か、かかりましたよ!」


「うおっ! ホントだ! こいつは大物だぞ!」


 俺たちはほぼ同時に立ち上がった。

 その後、コユリ(本物の天使)は俺の背後にまわるとそのまま抱きしめ、俺を引っ張り始めた。

 ものすごい力で湖に引きずり込まれそうになるが、俺たちはギリギリのところで耐えていた。

 コユリは天使であるため、そのまま飛んで上空に引っ張ることもできただろうが、今回はとてもそんなレベルではなかった。

 なぜなら、重さが尋常じんじょうではなかったからだ。

 モンスターチルドレンであるコユリの力が加わっているにもかかわらず、そいつは、一向いっこうにその姿すがたあらわさない。

 そこで、俺はコユリに、ある提案をした。


「コユリ、お前はみんなを呼んできてくれ。『大きなかぶ』でお馴染なじみのアレをやるから」


「ダ、ダメです! それではマスターがそのあいだに湖に落ちてしまいます!」


 俺は苦し紛れに、こう答えた。


「俺なら……大丈夫だ! お前が戻ってくるまで、なんとか持ちこたえるから……頼む! みんなを呼んできてくれ!」


 コユリは歯を食いしばりながら、こう言った。


「分かり……ました。では、私が戻るまで絶対持ちこたえてください。約束ですよ」


 極限状態きょくげんじょうたいの中、俺は笑みを浮かべながら、こう言った。


「ああ、まかせろ。俺は、俺にできることをする。だからお前も今の自分にできることを……やれ!」


 コユリは今にも泣き出しそうな声で、こう言った。


「はい……分かりました。それでは天使型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 一、『コユリ』はこれからバカ一人を含めた八名を連れてきます。マスターは、全員が集合するまで、ここで耐えていてください!」


 コユリは天使の翼を広げると、ものすごい速さで飛び立った。


「頼むぞ、コユリ。さてと……俺はもう少し頑張りますか!」


 コユリがいなくなった分、耐えるのがきつくなったが、ここで落ちたら元も子もないと思い、なんとか踏ん張り続けた。

 俺の体力に関係なく暴れるそれは相変わらず、その姿を現さない。

 本当に魚なのだろうか? と思うぐらいの重さだったため、湖に落ちないように踏ん張るのがやっとだった。

 もうダメかもしれないと思ったその時、ミノリたちが俺めがけて全速力で走ってくるのが見えた。

 これでやっと、この得体の知れない何かとの我慢比べが終わると思ったその時、俺は両手に込めていた力をゆるめてしまった。

 俺の体は大地を離れ、三秒ほどちゅうを舞うと、藍色あいいろに染まっている湖の中に頭から落ちてしまった。


「ナ、ナオトおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 落ちる前に聞こえた、その叫び声は間違いなくミノリ(吸血鬼)のものだった……。

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