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〇〇は『藍色の湖』に行くそうです その3

「話は聞かせてもらったわ。あたしがここにいるみんなの代表として、ここにいていいかの有無うむを言い渡すわ」


「なあ、ミノリ。ちゃんと、みんなの意見は聞いたのか?」


「大丈夫よ。ちゃんと多数決で決めたから」


「……多数決ねぇ」


「ナオトは黙ってて」


「……はい」


 ミノリ(吸血鬼)は、一歩前に出ると、コホンと咳払いをしてから、ルルにこう言った。


「……あんたはここに目的があって、やってきた。それは間違いないわね?」


「ああ」


「ああ、じゃない」


「……はい」


 ミノリ(吸血鬼)は、ため息をくと、再びルル(白魔女)に話しかけた。


「で、あんたの件だけど……多数決の結果、ここにいていいことになったわ」


「良かったな、ルル。ここにいていいんだってよ」


「本当に……いいのか?」


「そのしゃべり方をどうにかしたら……だけどね。というか、今からあたしたちの家族の一員になるんだから、遠慮えんりょする必要なんてないのよ?」


「たまにでいいから、少しは遠慮えんりょしてほしいなー」


「ねえ、ナオト。また、あたしに血を吸われたいの? もしそうなら、今度は首筋くびすじに噛みつくけど、どうする?」


「ごめんなさい、吸わないでください」


「よろしい……。というわけで、あんたはここにいて良し! 一件落着! 全員、目的地に到着するまで解散!」


 ミノリがそう言うと、その場にいた俺とミノリ(吸血鬼)とルル(白魔女)以外の全員がその場から離脱りだつした。(行動が早いな……)


「ねえ、ナオト。私は本当に、ここにいていいの?」


 俺はルルの頭を撫でながら、こう言った。


「ああ、いいぞ。今日からお前も、うちの家族の一員だ」


「わーい、やったー」


「なんか棒読みに近いしゃべり方ね。まあ、さっきのよりかはいいけど……。これからよろしくね、ルル。分からないことがあったら、なんでもいてね」


「うん、そうするー」


 良かったな、ルル。でも、俺の血を吸って魔力を回復したってことは……。

 そう思った矢先やさき、ルルは自分の秘密を俺とミノリに話し始めた。


「私は吸血鬼と白魔女のハーフだから時々、ナオトの血をいただくよー。あと、君たちモンスターチルドレンの薬の元になった『五帝龍ごていりゅう』のウロコをくだいて、液状になるまで溶かしたのは私だよー。そして、モンスターチルドレンになった子たちを元に戻せる薬の材料は、もうこのうちにあるよー」


『……えっ?』


 ちょ、ちょっと、待て。い、今、ルルはなんて言った?

 最初のと、カオリ(ゾンビ)が言っていた、とある白魔女がルルだっていうこともいいとして、ミノリたちを元に戻せる薬の材料がもう、()()()()()だって!

 これには、さすがのミノリも動揺を隠せなかった。

 こいつがこんなに驚くとはな……。しかし、今の発言には、それだけのものがあった。

 だが、本当にそうなのか? ルルの言うことが本当だと仮定すると、俺たちの旅はここで終わってしまう。

 けど、それこそが、ルル……もしくはこの世界の誰かのさくだとしたら?

 ルルは俺の袖を引っ張りながら「耳貸してー」と言った。(ミノリは頭を抱えてゴロゴロと転がっている)

 ここでルルの言うことを聞かないわけにはいかない。

 だって、俺たちにとって、とても重要なことなのだから。

 俺が耳をルルの口元に移動させると、ルルは静かにこう言った。


「さっき私が言ったことはねえー」


「うん」


「最後のだけ、うそだよー」


「え? そうなのか?」


「うん、そうだよー。でも……」


「でも?」


「ナオトが痛いのを我慢がまんすれば、なんとかなるかもねー」


「な、なんだ、それ……」


「はい、ということでこの話はおしまーい。それじゃあ、そろそろ血を吸わせてもらおうかなー」


「うわっ!」


 ルルは一瞬いっしゅんで俺を布団ふとんに押し倒した。

 ルルは、うれしそうに馬乗りになると、よだれをきながら、こちらに顔を近づけ始めた。

 くそっ! 身体が動かない! 声も出ない! ルルのこの表情はやばい! 俺の血を全部吸う気だ……。なんとかしないと……!


「ムダだよー。私の金属系魔法『体内金属操作メタル・オペレーション』で、ナオトの体内のナトリウムを操ってるからねー」


「お、お前は! ク○イサーか!」


「へえ、数秒の間にかろうじて声は出せるくらいまで回復したんだー。でも、私が血を吸い終わる前に助けは来るかなー?」


「それなら……もう……来た……ぞ」


「んー?」


「『反闇の閃光(アンチダークネス)』」


 その直後、ルル(白魔女)とミノリ(吸血鬼)の動きが止まった。

 二人が動かなくなったのを確認すると、彼女は彼の方にトコトコ歩いてきた。

 天使の翼が背中から生えているのに輪っかがない天使『コユリ』である。


「マスター、お怪我けがはありませんか?」


「ああ、大丈夫だ。でも、やっぱりコユリの固有魔法はすごいな。ルルの魔法の効果もなかったことになるんだから」


 俺はその場であぐらをかいて座ると、スッと正座をしたコユリの頭を撫でた。


「いえ、私はマスターの命令に従っただけです」


「素直じゃないなー。でも、ありがとな」


 コユリは少し頬を赤く染めると同時に、そっぽを向いてしまった。


「い、いえ、私はマスターのお役に立ちたいだけですので……」


 コユリは、かわいいな……。

 さてと、これからどうしようかな。

 俺がこの状況を緩和かんわしようとしたその時、コユリはこちらを向いた。


「では、トマトジュースを置いておきましょう。この世界の吸血鬼のほとんどは、血と勘違いしますから」


「そ、そうなのか?」


「はい。ついでに、そこのバカにもあげましょう」


「バカ?」


「このバカがしっかりしていれば、マスターがこんな目に合うことはなかったはずです」


 どうやらミノリのことらしい。


「まあ、それはそうだが」


「今からそれを実行しますが、それは私なりの二人への罰です」


「そっか。コユリは案外、優しいんだな」


「いえ、これもマスターのためですから」


「そうか」


「はい」


「じゃあ、取りに行くか」


「そうしましょう」


 冷蔵庫にあったトマトジュースをミノリとルルの近くに置くと、コユリはミノリとルル以外の全員にかけられた魔法を解除した。

 みんなにわけを話し終わると、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)には、このまま目的地に向かうよう伝えた。

 ふと時計を見ると、午前九時だった。ミノリに起こされてから、もう四時間も経ったのか。早いな。

 二人とも、目的地に着いたら解除してやるから、しばらく大人おとなしくしとけよ?

 ミサキが言うには、あと二時間ほどで到着らしい。まだ、時間があるな。

 よし、『モンスター図鑑』で勉強でもするか。ついでに、シズク(ドッペルゲンガー)の固有魔法の名前も考えよう。

 マスターじゃなくても自分以外の存在なら、名前をつけられるんだっけか?

 ん? というか、シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)の固有魔法って闇シオリが考えたのかな? まあ、あいつはシオリであってシオリではないから、実はそうかもしれないな。

 まあ、細かいことを気にしすぎると肝心なことを見落とすから、これ以上考えるのはやめよう。

 こうして、俺たちは残りの自由時間を有意義ゆういぎに過ごすことにした。


 *


『長老会』。十六人の大魔法使いで構成された組織であり、この世界になくてはならないもの。

 つまり、この世界を支える大黒(だいこく)(ばしら)的な組織である。(集まりは悪い)


「やつの報告は確かなのか?」


「そうじゃ、そうじゃ。全モンスターチルドレンの中で十人しかいない大罪の力を持つもの以上の力を持つものが、この世界にいるわけがない」


「じゃが、嘘をつくようなやつではないぞ?」


「ふむ。それもそうじゃの。ん? 今日は四人しかおらんのか?」


「ここにおるのは、わしを含めて、アン、サンク、ヌフ、トレーズ。他の十二人は新しくできた温泉の偵察ていさつに行ってくると言っていたが、まったり過ごしているに違いない」


『まったくじゃ』


『長老会』のおきて、その一。それは、【最低四人はお留守番】である。(彼らは円卓がある薄暗い部屋にいて、いつも黒いローブを着ている。というか、いつも黒いフードで顔のほとんどを隠している人たちである)

 老人を相手にするのは何年経っても慣れないわね。なぜ同じことを何度もくのかしら? まあ、老いることのない私には一生分からないわね……。

 あら? もう朝なの? はぁ……久々に『藍色あいいろの湖』にでも行って、釣りでもしましょうか。(通路の壁にあった時計を見たから、分かった)

 クゥちゃん(グリフォン)に頼りっぱなしだけど、今日は休暇きゅうかをとって、あとのことは三人の副所長に任せましょうか……。

 今日の三人の予定は、ララが育成所、ルルが脱走中の大罪の力を持つものたちの捜索そうさく、ロロが『はぐモン軍』の撃退げきたいだったわね。さてと、それじゃあ、そろそろ行きましょうか。

【アイ】はクゥちゃん(グリフォン)を呼ぶと『藍色あいいろの湖』に急いで向かうよう、クゥちゃんに伝えたのであった……。

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