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〇〇は『藍色の湖』に行くそうです その2

「何度もすまないな。疲れるだろ?」


「いえ、マスターのお役に立てるのなら、これくらい朝飯前です」


「……そっか。でも、ありがとな、コユリ。頼りにしてるぞ」


「はい、マスター」


 その場所に着くと、仰向あおむけで倒れているその人の体を観察し始めた。

 黒いローブに腰まである白い髪。

 身長はシズクと同じぐらいで(シズクは百三十センチ)目の下にはクマができていた。(なぜか裸足はだし

 ノ○ノラのシ○みたいな子だな。というか、生きてるのかな?

 俺がその子のほっぺに触れようとすると、その子の右手が俺の右手首をギュッとつかんだ。

 も、ものすごい握力あくりょくだ……。まったく、人は見かけによらないな……。

 コユリがその子の手を離そうとしたが、瞬間接着剤で固定されているのかのごとく、まったく離れなかった。

 俺たちは仕方なく、そのままの状態でアパートに戻ることにした。

 アパートに戻ると全員に事情を説明した。

 ミノリたちが開いた三十秒ほどの会議の結果……その子を布団に寝かせてもいいことになった。(許可いるか?)

 俺がその子を見ている間、ミノリたちは掃除や空気の入れ替えをしていた。

 うーん、もしかしてこの子もモンスターチルドレンなのかな?

 でも、もしそうだとしたら、まずコユリが気づくはずだよな? なら、この子はいったい……。

 その時、その子が小声で何かを言ったが、聞き取れなかったため、俺はその子の口の近くまで耳を近づけた。


「私の……抱き枕は……どこ?」


「だ、抱き枕? うーん、困ったな。うちには、ないんだよな」


 その声に反応したのかはわからないが、その子は先ほどと同様……いや、それ以上の握力で俺を布団に引きずり込んだ。


「うわっ! ちょっ! 離せよ! くっ! な、なんて握力だ! びくともしない!」


「んふふー♪」


 俺は、こんな満足そうな顔で寝ている子を起こすわけにはいかないよな……と思ってしまったため、そのまま一緒に眠ることにした。しかし……。


「おい、マスター。こんな朝っぱらから浮気とはいい度胸どきょうだな」


 その声で、一気に青ざめた。俺が声のした方をゆっくり振り返ると、そこにはカオリ(ゾンビ)が俺を見下すように立っていた。


「よう、いいご身分だな。マスター?」


「カ、カオリ!? ち、違う! 俺はこの子の抱き枕にされているだけで、自分からしたくてしたんじゃないんだ!」


「ふん、そんなことはわかってるよ。というか、あたしはただマスターのとなりで寝たいだけだ」


「……はぁ?」


「マスターの布団にチエミ以外で、誰が入るか毎晩のように議論するくらいだからな……。少しでもすきがあれば、あたしはグイグイいくぜ?」


「そ、そんなこと今日、初めて聞いたぞ!」


「ふん、今はそんなの関係ねえんだよ! えいっ!」


 カオリは俺の背中に抱きつく形で横になった。

 ま、まずい。このままではいずれ全員が集合して、また身動きが取れない状態になってしまう! なんとかして、この状況を切り抜けなければ!

 何か……何かないか! いい方法は!!


「魔力が……足りない……」


「おい、カオリ。今なんか言ったか?」


「ん? あたしは何も言ってねえぞ?」


「じゃあ、今の声はいったい……」


「……いただきまーす」


 その直後、たしかにハムッ! という声がした。

 声がした方を見ると、そこには寝ているはずの少女が俺の右手の人差し指を両手で持って、それを加えながら血を吸っていた。(目を閉じたまま)


「痛った! くっそ! 離せ!!」


 俺は必死にその子の手を離そうとするが、握力がすごすぎて、びくともしない。

 カオリ(ゾンビ)が異変に気づき加勢かせいするが、それでもまったく動かない。


「ごちそうさまー」


 その声と同時に、俺はやっと解放された。俺は勢い余ってゴロゴロと転がったが、カオリが止めてくれた。


「あ、ありがとう、カオリ」


「いいってことよ。それより見ろよマスター。あいつ起きたぞ」


「ん? ああ、やっと起きたか。やれやれ」


 女の子座りのまま背伸びをする少女は、シズク(ドッペルゲンガー)とは違った可愛かわいさがあった。

 右目をこする仕草しぐさ、赤紫色の瞳、シズクのより短く太い、アンテナのようなアホ毛。

 半開きの目からは、やる気のなさが伝わってくる。こ、この子は、いったい何者なんだ?

 こちらに気づいたその子は、右手で手招きをした。


「おい、呼ばれてるぞ、マスター」


「……うん」


「うん、じゃねえよ。早く行ってやれよ」


「あ、ああ……」


 俺はしぶしぶ、その子のところに行くと正座をした。


「えっと……はじめまして。俺は、ナオト。本田ほんだ 直人なおとだ。草原に倒れていたきみを勝手に運んだのは申し訳ないと思っている……だから」


「知っている」


「えっ?」


「私は君のことを知っている」


「そ、それはいったいどういう……」


「そのままの意味だ。私は、とある人物から君を守るように言われた」


「とある人物?」


「名前は言えない。だが、私の名前くらいは教えておこう」


「あ、ああ」


 その子は右手を自分の胸に当てながら、名乗った。


「私は『最後の白魔女(ラストホワイト)』とも呼ばれている、この世界では知る人ぞ知る存在だ。異名の由来は私が最後の白魔女だからだ」


「え、えーっと、本名は?」


「おっと、私としたことが本名を言っていなかったな。では改めて……。私の名は……ルル=メタル=ホワイト。使える魔法は金属系魔法と白魔法だ。よろしく」


「…………」


「どうした? 何かおかしかったか?」


「いや、その……」


「はっきり言ってくれなきゃ分からないぞ?」


「ああ、いや、その……見た目で、そのしゃべり方はどうかなって」


「ふむ、さすがだな」


「えっ?」


「私は元々、こんなしゃべり方はしない。もっと、気だるそうに話す」


「そ、そうなのか?」


「ああ、そうだ。それに、あまりおどおどしているとロリコンとかいうやつらに目をつけられるそうだからな。その対策だ」


「おいおい、誰からそんなこと教わったんだよ」


「もちろん、とある人物からだ」


「じゃあ、やめてもらっていいか?」


「なんだと?」


「これから一緒に旅をするのなら、俺はお前を家族として迎えたい」


「か……ぞく?」


「ああ、家族だ。ミノリたちがお前をどう思うかは別として、共に行動するなら家族ということにしておいた方が後悔こうかいしないと思うぞ?」


「家族とは……いったいなんだ?」


「ん? そこからか……。えーっと、うちのを例にすると……」


「例にすると?」


「あたしたちがなんですって?」


 声がした方を振り向くと、いつからそこにいたのかは知らないが、ミノリたちが俺の後ろに集まっていた。

 ちなみに、あたしたちがなんですって? はミノリ(吸血鬼)が言った。


「お、お前ら、いつからそこに?」


「あんたが、その子に話しかけた時からよ」


 俺がカオリ(ゾンビ)に目をやると、俺に親指を立てていた。

 なるほど。ミノリたちを呼んだのは、あいつか。

 けど、念のため、全員集合させたぜ! みたいな顔をされても困るんだよな……。

 俺は苦笑くしょうしながら、その子をミノリたちの方に移動させた。

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