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〇〇は『紫煙の森』に行く? その6

 ____しばらく進むと、先ほどまで誰かが居座いすわっていたかのような【小さな広場】にたどり着いた。

 切り株が二つ。

 地面には『バイオレットウガラシ』の種や汁が付着ふちゃくしている。

 食べ方が荒々(あらあら)しい……いや、こういうのはお行儀が悪いと言った方が妥当だな。

 それにしても、あんな辛いものを好きこのんで食べるやつって一体どんな……。

 その時、俺はハッとなった。

 主に調味料として使用される『唐辛子とうがらし』。

 しかし、もし、それ以外に使い道があるとすれば?


「……みんな。俺たち以外に生命反応があるのか分かるか? ただし、モンスターの生命反応は除いて」


 俺はそれを頭の中で言う前に、みんなに向けて言っていた。

 なんとなく嫌な予感がしたからではなく、俺の中の何かが働いて俺にそんな行動をさせたのだと思う。


「わ、私の耳で確認します!」


 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)。


「なら、私はその耳を私の固有魔法で強化します!」


 ツキネ(変身型スライム)。


「私はこのへんを飛んでみます!」


 チエミ(体長十五センチほどの妖精)。


 ツキネの固有魔法で強化されたマナミの耳はヒコヒコと動き始めた。

 これは周囲に何があるのかをさぐるためである。

 チエミは森の木々よりも高いところを飛んで、周囲を捜索そうさく中……。

 ____数十後。俺のいやかんは当たった。

 俺たち以外に人間がいることが分かったからだ。

 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)とチエミ(体長十五センチほどの妖精)の情報によると、この先をまっすぐ百メートルほど進んだ先にいるらしい。

 俺はそれを聞くと、みんなにその場に残るよう伝えた。その後、全力で走り始めた。

 イノシシと戦っていた時から、体が妙に軽いな。

 おそらく、くさりの力を何度か使用したせいだろう。

 ズボンのポケットから、金色きんいろで【卒業記念】と書かれた『白いお守り』を取り出し、光っているかを確かめた。

 反応……あり。やはり、この近くに俺の高校時代の同級生がいる。

 ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の周囲には不可視の結界が張られているため、俺たちの姿は外から見えない。

 黒沢が俺の存在に気づいたのはきっと……いや確実にこの『白いお守り』を持っていたからに違いない。

 ちなみに俺のお守りはその時まで俺の世界から持ってきた荷物の中だった……。

 待ってろよ! 今、助けに行くからな!


 *


 こ、ここは、どこだ? 私は生きて……いるのか?

 身体が……動かない。何かに締め付けられているかのようだ。

 彼女はゆっくりと目を開け、周囲を見回した。

 白衣びゃくい緋袴ひばかま、白い足袋たび草履ぞうり

 赤い布紐ぬのひも蝶々(ちょうちょ)結びにした黒髪ポニーテールは腰のあたりまである。ちなみに目も黒い。

 そんな巫女みこ装束しょうぞくまとっている彼女は、足元に自分の刀(紅色べにいろさやに収められたかたな)があることに気づいた。

 彼女は必死でそれを取ろうとしたが、木に生えている紫色のいばらが体を縛っていたため、身動きが取れなかった。

 こんな人気ひとけのない森に誰かが助けに来てくれるわけがない。

 そう思った矢先やさき、目の前に体長三メートルほどの『巨大なイノシシ』が現れた。

 わけの分からない森の中で、しかも身動き一つ取れない状態でイノシシに遭遇そうぐうするとはな。

 はぁ……私の人生はここで終わりか。最期さいごナオト(あいつ)の顔を見たかったな……。

 しかし、彼女の願いは、一匹のイノシシによって粉砕されようとしていた。

 地面を前足(右足)でガリガリと引っかき、鼻息をブオオッ! と出しながら、こちらに狙いを定めている。

 ____そして、その時はやってきてしまった。


「ウオオオオッー!」


 猪突猛進ちょとつもうしん

 なんの躊躇ためらいもなく、イノシシは彼女に向かって突き進む。

 彼女は自分の最期さいごさとり、そっと目を閉じた……。

 しかし、そのピンチに駆けつけたものがいた。


「俺の仲間に……手を出すなああああああああああああああああああああああああ!!」


「こ、この声は! まさか!」


「『大罪の力を封印する鎖トリニティバインドチェイン』!!」


 そのものは森の中から突如とつじょとして姿をあらわした。

 彼女が目にしたのは、十本のくさりを背中から生やし、歯を食いしばりながらイノシシにこぶしを打ち込んでいる、白い髪と赤い瞳が特徴的な美青年だった。

 イノシシはその一撃いちげきで森のどこかに飛んでいってしまった。

 何事もなかったかのように立っているその人物の顔を再び目にした時、彼女はとてもなつかしい気持ちになった。

 その、こちらに気づいたその美青年がいばらくさりで切ってくれた。

 自由になった彼女は、そのものに礼を言おうとしたが、くちびるに人差し指を押し当てられてしまったため、それができなかった。

 しかし、その直後、その美青年が彼女に話しかけてきた。


「おいおい、もしかして俺のこと忘れたのか? 俺だよ、ナオトだよ」


「お、お前! 本当に……本当にナオトなのか!」


「ああ、そうだ。俺は『本田ほんだ 直人なおと』だ」


「あ、ありえない! どうしてお前はそんなに若いんだ! それに、背中のそれはなんだ!」


「ああ、これか。まあ、色々あってな。……じゃあ、そろそろもとの姿に戻るか」


 ナオトがくさりを体内にしまうと同時に髪や目の色も元どおりになった。


「これで俺だって分かっただろう? 小宮式こみやしき剣術けんじゅつの使い手である『小宮こみや ひかり』さん?」


「わ、私の名前……まだ覚えていたのか」


「お前だって、そうじゃないか」


「しかし、私は一瞬いっしゅん、疑ってしまった。それに……」


「それに?」


「……た、助けに来てくれるとは思ってなかった」


「まあ、そうだよな。俺もお前ほどのやつが、こんなところでイノシシに殺されそうになっているなんて、これっぽっちも思わなかったよ」


「か、かたなが使えなかったのだ! 仕方ないだろう!」


「お前、そのかたな、まだ持ってたのか?」


「あ、当たり前だ! このかたなが今もこうして使えるのは、お前が付けてくれた【鉄華丸てっかまる】という名前があるおかげだ! そう易々(やすやす)と、捨てられる物ではない!」


「……そうか。大事に使ってるんだな」


「当然だ!」


「……ところで体は大丈夫か? どこもケガしてないか?」


「相変わらず心配症だな。問題ない。自分で立てる」


 ヒカリはスッと立ち上がると、ナオトの顔を見た。何年経っても、ナオトはナオトだな。

 ナオトの母親が言った結婚条件がなければ、すぐにでも結婚できたというのに……。


「どうした? 俺の顔に何か付いてるか?」


「いや、何でもない。それより早くここから出よう」


「ああ、そうだな。じゃあ、まずはここからまっすぐ百メートルぐらい進もうか。そこで俺の家族が待ってるはずだから」


「家族? お、お前……結婚したのか?」


「いや、してないぞ。だけど、みんな俺のむすめ兄妹きょうだいみたいなものだ」


「……そうか。なら、早く合流しよう。私がお前の家族にふさわしいかどうか、見定めてやる」


「それは勘弁かんべんしてくれよ。お前が相手だと、みんなビックリするから」


「そうか。なら、自己紹介ぐらいはしておこう」


「それは別にいいけど、くれぐれもみんなをこわがらせないでくれよ?」


「努力しよう」


「そうしてくれると助かるよ」


 それからマナミたちと合流したあと、お互いの自己紹介をしながら森を抜けて、他のみんなが待つアパートに戻った。(チエミが風の力で俺をアパートまで運んでくれた)

 ミノリたちにもヒカリを紹介したあと、俺たちが持って帰った『マシュマロ・ボア』と『バイオレットウガラシ』で晩ごはんを作った。(俺が倒したイノシシをチエミが発見して、そのまま持って帰った)

 それから色々すると、その日は早めに眠った……。

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