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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その157

 俺が目を覚ますと両隣にマナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)とシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)がいた。二人はスウスウと寝息を立てている。


「……えーっと、俺はたしか二人に俺の血を吸わせて」


「そのせいで意識を失ったのよ、あんたは」


「……ミノリ」


 ミノリ(吸血鬼)は俺が発した言葉を背中で聞きながら何かを作っている。


「まったく、あんたって本当にバカよね。死ぬのが怖くないの?」


「別に怖くはないよ。人はいつか必ず死ぬんだから。でも、それで誰かを悲しませてしまったら死んでも死に切れないだろうな」


「そう。よし、できた。ナオト、これを飲んでおきなさい」


 ミノリ(吸血鬼)は赤い錠剤のようなものを俺に手渡した。


「これ、なんだ?」


「あんたの血で作った造血薬? みたいなものよ。さぁ、早く飲みなさい」


「えっと、ちなみに今まで造血薬を作ったことはあるのか?」


「そんなのないわよ。でも、その中には鉄分がたくさん入ってるから飲んでも大丈夫よ」


「そうなのか? うーん、でも、そもそも造血薬っていうのは赤血球を増やすものだからなー」


「文句ばかり言ってるとあんたの血、吸い尽くすわよ?」


「あー! ごめんなさい! 飲みます! 飲みますから!」


「よろしい。はい、お水」


「お、おう、ありがとう」


 俺は上体を起こすとミノリ(吸血鬼)が持っている水が入ったコップを受け取った。


「いい? ちょっと刺激が強いかもしれないけど、我慢して飲むのよ?」


「えー、マジかよー。もしかして辛いのか?」


「辛くはないわ。ただ、血液が確実にジワーって増えるからしばらく欲が強くなるかもしれないわ」


「えー、なんだよ、それー。なんでそんなもの作ったんだよ」


「なら、今すぐ誰が飲んでも副作用が出ない薬を持ってきなさいよ!」


「あー、ごめんごめん。俺が悪かった。だからそんなに怒るなよ、ミノリ」


「別に怒ってなんかないわよ。ほら、さっさと飲みなさい」


「はいはい」


 ミノリの手作り造血薬、いったいどんな味がするんだろう。俺はそんなことを考えながら、それを水と共に飲み込んだ。すると、全身の血液がハイテンションになった。


「くっ! な、なんだ! これ……!」


 俺が部屋のすみで体を丸めるとミノリ(吸血鬼)は心配そうな表情を浮かべながら俺に近づいた。


「ナオト、大丈夫?」


「近寄るな! こんな俺を……見るな……」


「ナオト、とりあえずこっち向きなさい」


「嫌だ……お前を傷つけたくない」


「いいから早くこっち向きなさい!」


「や、やめろ! 俺に触るな!」


 今、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)の目は真っ赤になっている。でも、それはちゃんと薬が効いているあかし


「やめろー! やめてくれー!」


「あー、こら! 暴れるな! もうー、こうなったら……マナミ! シオリ! 起きなさい! そしてナオトを動けなくしなさい!」


「はい! 分かりました!」


「りょうかーい」


 二人がナオトの動きを封じたあと、あたしはナオトの首筋に噛み付きナオトの血を少し吸った。


「……どう? 少しは落ち着いた?」


「あ、ああ……ありがとう、ミノリ」


「どういたしまして」


「ナオトさん」


「ナオ兄」


「な、なんだ?」


「ご、ごめんなさい! ナオトさんが倒れた原因は私たちがナオトさんの血をたくさん吸ってしまったからですよね?」


「ナオ兄、ごめんなさい。あの時、なんかちょっとおかしくなってた」


「二人とも……。別にいいよ、気にしてないから」


「ナオトさん……」


「ナオ兄……」


 ミノリ(吸血鬼)が大きな咳払いをする。


「あー、ナオト。ちょっといい?」


「なんだ?」


「もう大丈夫そう?」


「え? あー、まあ、そうだな。うん、もう大丈夫だ」


「そう。なら、今日はもう寝なさい」


「分かった。……ミノリ」


「何?」


「その、ありがとな」


「はぁ? 別にあたしは何もしてないわよ」


「いや、しただろ」


「そう? これくらいあたしにとっては雑務よ、雑務」


「そうなのか?」


「ええ、そうよ。だから、いちいち感謝する必要はないわ」


「うーん、そうなのかなー?」


「そうよ。ほら、さっさと寝なさい。はい、おやすみ」


「お、おう、おやすみ」


「二人とも早くこっちに来なさい。ナオトが眠れなくなるから」


「はい!」


「はーい」


「あっ、そうだ。ナオト」


「ん? なんだ?」


「え、えっと、ごちそうさま」


 え? あー、さっきの吸血のことか。


「明日になったら、またいつでも吸わせてやるよ」


「あ、あんまり調子に乗ってると本当にあんたの血吸い尽くすわよ! じゃあ、おやすみ!」


「ああ、おやすみ」


 ミノリ(吸血鬼)はそう言うと二人と共に俺の寝室から出ていった。

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