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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その138

 うーん、どうやったらミノリ(吸血鬼)を元に戻せるんだろう。

 いつもみたいにスキンシップをしてやればいいのかな?

 いやあ、でも今のミノリ(吸血鬼)はほぼ闇でできてるから触ると闇に吸い込まれるんだよなー。

 うーん、どうしようかなー。

 そんなことを空中で静止した状態で考えていると、おそらく固有武装が暴走したせいでそんな状態になっているミノリ(吸血鬼)が近づいてきた。

 殺意はない。敵意もない。しかし、不安や恐怖は感じる。それは俺のじゃない。ミノリ(吸血鬼)のだ。

 なあ、ミノリ(吸血鬼)。どうしてお前はそんなにおびえているんだ?

 俺の力が怖いのか? それとも今の自分の力が怖いのか?

 なあ、教えてくれよ、ミノリ。

 俺が彼女に手を伸ばすと彼女はその手を振り払った。それと同時にミノリ(吸血鬼)の闇が俺の手を吸収した。

 すぐ再生するから問題ないが、さわれないのは辛いな。

 どうすれば、この闇を消すことができる?

 どうすれば、ミノリ(吸血鬼)を救える?

 あー! もうー! 考えてるだけじゃダメだ!

 とりあえずハグしてみよう!


「ミノリ、俺は大丈夫だから抱きしめていいぞ」


「……」


「そうか。お前からはできそうにないのか。分かった、じゃあ俺からしてやるよ」


 彼女は俺から逃げようとしたがすぐに中断した。

 おそらく助けてほしいという願望がゼロではなかったのだろう。

 俺が優しくミノリ(吸血鬼)を抱きしめると、俺の体はミノリ(吸血鬼)の闇に吸い込まれてしまった。


 *


 闇。それすなわち重力なり。

 そう、俺の手を二度も吸収したあの現象は単なる吸収ではなかったのだ。

 それは触れた瞬間、人が認知する前に誰にも想像できないような重力をかけることによって吸収されたと思わせるほどのものだったのだ。

 それに気づいたのは闇の底でミノリ(吸血鬼)が膝を抱えている姿を目にした直後だった。


「ミノリ!」


 俺の声に反応したミノリ(吸血鬼)がこちらに目をやる。


「ミノリ! まだ旅は終わっていないぞ! こんなところで終わらせるな! さぁ、早く帰るぞ!!」


「……あたしのことは放っておいて」


「はぁ? ふざけるな! 勝手に巻き込んで勝手に終わらせるのかよ! 勝手に終わらせようとするな! このツンツン吸血鬼!!」


 その時、ミノリの眉毛が少し動いた。


「誰が、ツンツン吸血鬼ですって?」


「お前だよ、お前のことだよ。強欲の姫君」


「その名前であたしを呼ばないで! あたしにはちゃんとした名前が……あんたにつけてもらったミノリっていう名前があるんだから、ちゃんとそっちで呼びなさいよ!」


「ああ、分かったよ! これからはずっとそっちの名前で呼んでやるよ! というか、次からはもっと早く言えよ! 精神と肉体はどっちかに異常があったらどっちも崩壊するようにできてるんだから!」


「そんなの分かってるわよ! バカナオト!」


「バカとはなんだ! バカとは!」


「あたしは事実を言ったまでよ! なんか文句ある?」


「ある! けど、お前に直接伝えるほどのものじゃない! さぁ、早くここから出よう。みんなが待ってる」


 俺がミノリ(吸血鬼)に手を伸ばすと彼女は俺の手を強く握った。


「そうね、そうしましょう」


 ミノリ(吸血鬼)は俺の耳元でこうささやく。


「あんたの血、少し吸わせて」


 俺はこう返事をする。


「ああ、いいぞ。ここから出られるのなら、俺は死んでもいい」


 彼女は強く俺を抱きしめる。


「そんなこと、あたしが絶対させないわ。旅が終わるまで、あんたには生きててもらわないと困るから」


 彼女はそんなことを言ってから俺の血を少し吸った。


「さぁ、帰るわよ! ナオト! あっ、帰ったら固有武装のメンテナンスに付き合いなさい。これはお願いじゃなくて、命令よ!」


「りょーかい」


「よろしい! それじゃあ、行くわよ!!」


 彼女は俺と手をつなぐと、出口を目指して進み始めた。

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