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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その123

 自分だけが影を操れると思うなよ!


「行け! 俺の影! そいつを押し倒せ!!」


「何を言ってるんだ? お前に俺と同じようなことができるわけ……」


 お前が知っているのは例の大会に参加した時の俺。

 その時の俺だったらくさりの力を使ってなんとかしていただろうが今の俺は違う。


「な、なにいいいいいいいいいいい!?」


 俺の影は目の前にいる賞金稼ぎ『影使いのシャドウ』が俺の足元の影めがけて投げた小太刀こだちを手に持つとやつの足元の影めがけてそれを投げた。


「し、しまった!!」


「あれれー? 俺より強いはずの賞金稼ぎが自分の武器で動けなくなってるぞー」


「く、くそ! まさか、お前も影使いだったとはな」


「いや、俺は別に影使いじゃないぞ」


「はぁ? じゃあ、なんで俺と同じ技を使えるんだ?」


 あれ? そういえばそうだな。

 なんでだろう。


「あー、それは多分あれだな。最近、針と糸を使って布をう作業をやってるから……」


「な、なにい! ふざけるな! 俺の技を習得できたのは裁縫さいほうの応用だとでも言うのか!」


「そんな感じじゃないかなー。まあ、詳しいことは分からないけど。さてと……これからどうしようかなー」


 そいつは急におびえ始める。

 あー、そうか。狩る側がいつのまにか狩られる側になったことに気づいたのか。


「や、やめろ! こっちに来るな! 俺はまずいぞ! 腐った魚よりまずいぞ!」


「いやいや、そんなことないだろ。というか、俺は別にお前を食べたりしないぞ?」


「な、何? それは本当か?」


「ああ、本当だ。というか、お前は俺のこと何だと思ってるんだ?」


 そいつはガタガタと体を震わせている。


「こ、この世の全てを自身の毒で汚染し、それで生き物が息絶えていく様を見ながら嘲笑あざわらう血も涙もない残酷なモンスターだと思っている」


「おいおい、なんでそうなるんだよ。まあ、俺の体内には神様でも死んじまうほどの毒があるけど、それは俺が制御してるから別に危なくないぞ?」


「う、嘘だ! 一旦安心させておいて俺が油断した瞬間に使うんだろ!」


 なーんでこいつはこんなに俺のことを警戒しているんだ?

 まあ、あの大会でミノリ(吸血鬼)が来てくれなかったらこの世界を滅ぼしていたかもしれないからな。

 この反応は正常だろう。


「そんなことしないって。だから、そんなに警戒するなよ」


「黙れ! お前は人の形をした悪魔だ! あるいはこの世界にわざわいをもたらす邪神だ! 今すぐ俺の前から消えろ!」


「はいはい、分かりましたよー。じゃあなー」


 俺がそいつの言うことを聞くとそいつは俺を呼び止めた。


「ちょ、ちょっと待て!」


「なんだよ」


「そ、その……お、俺をこのままにしておくつもりか?」


「まあ、そうなるな。今すぐお前の前から消えないといけないし、なんか警戒されてるみたいだし」


「え、えーっと、その……せ、せめて俺を解放してからにしてくれないか?」


「はぁ?」


「あー! ごめんなさい! ごめんなさい! やっぱりいいです!」


 こいつ、本当に賞金稼ぎなのか?


「はぁ……仕方ないな。ほら、解放してやったぞ。これでお前は自由だ。おとなしく故郷に帰れ」


 俺が例の小太刀をシャドウの足元にある影から引き抜くと、シャドウは小声でこう言った。


「ない」


 ん?


「俺には……故郷なんてない」


「そうか……。じゃあ……うち、来るか?」


「……え?」


 俺がシャドウに手を差し伸べるとシャドウは一瞬、躊躇ためらった。が、恐る恐る俺の手を握った。

 なんか男の割に妙に手が柔らかいな。

 女性ホルモンが多いかな?

 まあ、いいや。

 俺はシャドウと共に自分の部屋に入った。

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