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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その119

 ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の脱皮は無事終了したが、ミサキの本体つまり俺のそばで寝息を立てているミサキはかなり疲労している。

 そのため今日はもう先に進むことはできない。

 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)の固有魔法でアパートをミサキ(外装)の頭部まで移動させたところまでは良かったが、そのあとシオリが眠ってしまったため甲羅の上に戻すことができずにいる。

 さて、どうしたものかな……。


「あ、あの!」


 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)が声を発した瞬間、俺は彼女が何を言うのか分かった。


「マナミ、それはいくらなんでも無理だ」


「え? いや、あの、私まだ何も言ってないのですが」


「お前が言いたいことは分かる。お前の固有魔法で俺たちとアパートをいっぺんに甲羅まで移動させるつもりなんだろ?」


「あっ、はい、そのとおりです」


 たしかにそれはいい考えだ。

 だが、マナミの固有魔法は一日一回限定。

 建物の移動なんかに使うようなものじゃない。

 いざという時に使うものだ。


「お前の固有魔法なら移動させるのは容易だ。けど、それはいざという時のためにとっておいてほしいんだ」


「切り札……奥の手ということですか?」


「まあ、そういうことだ」


 俺は彼女の猫耳が垂れるのを見逃さなかった。


「だから、その……なんだ。気持ちだけは受け取っておくよ。ありがとな」


 彼女の耳がピンと立つ。

 良かった、あやうくマナミを傷つけてしまうところだった。


「い、いえ! そんな! 感謝されるようなことは言ってないですよー!」


「いや、お前なりになんとかしようとしてくれたのが嬉しかったからさ」


「そ、そうですか」


「ああ……」


 まあ、いつまでもこのままってわけにはいかないよな。

 さて、どうしようか。

 俺があごに手を当てて考えているとコユリ(本物の天使)がこんなことを言った。


「マスター、全員で移動させるというのはどうでしょうか」


「え? このアパートを頭部から甲羅までみんなで運ぶのか? それはいくらなんでも無理があるだろ」


「ここにいるのはだいたい力持ちです。頭部からアパートを投げる係とそれを甲羅で受け止める係を決めれば、なんとかなると思います」


 アパートを移動させるのはキャッチボールみたいに簡単じゃないんだが。

 うーん、まあ、できなくはないな。

 このアパート、例の空中要塞より軽そうだし。

 でも、あれも結局シオリがいなかったら、とんでもないことになってたよな。

 シオリ……こいつは敵に回したくないな。

 まあ、ここにいる誰かが敵になった時点でほぼ勝ち目がないのだが……。


「うーん、さすがに無理があるな。ミサキとシオリが起きるまで待機するのはダメなのか?」


「まあ、ダメというわけではありません。しかし、マスターの命を狙うやからがいつ、どこから現れるのか分からない状況でいつまでもこんな崖っぷちに住居を設置しておくのは危険です」


 うーむ、一理あるな。


「それもそうだな……。じゃあ、こうしよう。俺が影で分身を作って運ぶ。これならなんとかなるだろ?」


「マスター、それはミカンに任せた方がいいと思います」


「ミカンに? いや、でもな……」


 天使型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 四のミカン。

 彼女が放った羽は自分の分身になる。

 まあ、一定のダメージを受けると消滅してしまうのだが。


「ナオト、タマニハ、ワタシヲ、タヨッテ」


「ミカン……。よし、じゃあ、こうしよう。俺とミカンでこのアパートを運ぶ。あとのみんなはアパート周辺で誘導係をする。以上!」


『了解!』


 こうして俺とミカンと俺たちの分身体でアパートを甲羅まで運ぶことになった。

 ミカンは天使だから飛べる。

 俺はチエミ(体長十五センチほどの妖精)から風の加護を受けているから飛べる。

 飛べるようにしておいて良かったー。

 じゃなきゃ、こうはならなかった。

 さてと、それじゃあそろそろ始めようか!

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