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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その117

 ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)の様子がおかしい。

 朝ごはんを食べている時、部屋でゴロゴロしている時、体操をしに外に出ていこうとする時、それら全ての行動がぎこちなかった。

 なんというか、ずっとそわそわしている。

 まさかとは思うが、大人のおもちゃを使って……いやそれはない。

 あいつはこの世界の生き物だから、そんなものは知らないはずだ。

 知らない……はず……。

 うーん、でも気になるな……。

 はぁ……仕方ない。

 本人に直接……いたっ!

 服を作っている時に考えごとをするものじゃないな。針で指を刺してしまった。


「はぁ……ダメだ。集中できない」


 俺が針を刺してしまったせいで出血してしまった指を舐めようとすると、ミノリ(吸血鬼)がそわそわし始めた。


「ミノリ。お前、もしかして……」


「ち、違うの! これはその……ただの生理現象というか、本能というか……と、とにかく! 吸血衝動を抑制するのは難しいの! だから、その……それ、舐めさせて。お願い」


 こ、こういう時のミノリって、なんか色っぽいよな。そんな目でお願いされたら断れないじゃないか。


「ああ、いいぞ。ほれ」


「ありがとう、ナオト。それじゃあ、いただきます。はむっ」


 な、なんだろう。ミノリに血を与えているだけなのにいけないことをしているような気分になる。

 これは動物にエサをやるのと似たようなもの。だから別にいけないことではない。

 それなのに、どうしてこんなに心臓がドキドキするんだ?

 わけが分からない。

 ミノリ(吸血鬼)が血を吸い終わると俺はあることに気づいた。

 ミノリ(吸血鬼)のそわそわと今朝のミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)のそわそわはなんとなく似ているということに。


「ちょっと用事を思い出した。ミノリ、少し席を外すぞ」


「あっ、うん」


 ミノリ(吸血鬼)は物欲しそうに指をくわえて俺を見ていたが、今はミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)の元に行かないといけない気がしたため俺は駆け足でミサキの元に向かった。


「おーい、ミサキー。いるかー?」


「ご、ご主人! え、えっと、僕に何か用かな?」


 ミサキはお茶の間でそわそわしていた。

 やっぱり様子がおかしい。


「えっとな、朝からずっとお前がそわそわしてるから気になってな」


「あー、やっぱりバレちゃったか。できるだけ我慢してたんだけどなー」


「いいから全部話してくれ。ほら、早く」


「わ、分かったよ。でも、絶対笑わないでね?」


「笑うもんか。ほら、いいから話せ」


「う、うん」


 あまり気乗りしない感じだったが、彼女は自分の身に何が起こっているのかを話してくれた。


「は? 脱皮?」


「そ、そうだよ。亀だって爬虫類だからね、脱皮くらいするよ」


「じゃあ、今朝からずっとそわそわしてたのは」


「うん、そうだよ。甲羅が脱皮しそうでムズムズしてたからだよ」


 なるほど。そういうことだったのか。


「そうか。なるほどなー。で、甲羅は今どんな感じなんだ? 今すぐ脱皮したい感じか?」


「まあ、そこそこ危険な状態だね。このアパートと合体してから脱皮したことなかったから」


「そうか。なら、一度このアパートをお前から切り離さないといけないな」


「まあ、そうなるね」


 よし、じゃあシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)の力を借りよう。


「分かった。じゃあ、俺は今からシオリを呼んでくるからお前はここで……」


「待って、ご主人。なんか、全部話したら急に力が入らなくなっちゃった。だから、その……そばにいてほしい、な。ダメ、かな?」


 な、なんでそんなに目をウルウルさせるんだ?

 俺がお前をいじめてるみたいじゃないか。


「いや、別にダメじゃないぞ。じゃあ、ここからシオリを呼ぶことにしよう」


「呼んだ?」


「うおっ! いや、まだ呼んでないけど、まあいいや。シオリ、お前に頼みがある」


「ナオ兄が私に? 何かなー?」


 俺はシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)に全てを話した。

 シオリはうんうんとうなずきながら話を聞いていた。


「なるほど。事情は分かった。でも、それをするには一つ条件があります」


「条件? まあ、俺ができる範囲でならいいけど」


「大丈夫。そんなに難しくないよー。ナオ兄、耳貸してー」


「お、おう」


 シオリが俺の耳元でささやいた条件は……。

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