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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その110

 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はメイン(綿の精霊たちの女王)にこんなことを言った。


「なあ、メイン。俺たちと一緒に来ないか?」


「え?」


 ミノリ(吸血鬼)は情報が少なすぎて困っているメインに補足説明をした。


「あー、つまり……あんたの願いを叶えたいのは山々なんだけど、こっちにもこっちの事情があるから外の世界で一緒に暮らそうってことよ」


「えっと、ここで一緒に暮らすのはダメなの?」


 メインは彼のひとみをじっと見つめる。

 なんか体の中を見透かされているような気がするな。

 うーん、まあ、とりあえず本当のことを伝えておくか。


「ああ、ダメだ。俺の体が二つになるんだったら話は別だけど、残念ながらそれはできない」


 一応、影の力で分身を作れるけど、全身真っ黒な俺と一緒にいてもな……。


「……あー、そっか……。ということは、お兄ちゃんが二人いればいいんだね」


「え?」


 彼女は彼をギュッと抱きしめる。


「お、おい、メイン。いったい何をし……」


「……ちょうだい」


 え?


「お兄ちゃんの種、ちょうだい!!」


「え? いや、あの、それはちょっと……」


 ミノリ(吸血鬼)は彼女の首をつかむと、地面に叩きつけた。


「ちょっとあんた! 何考えてんのよ!! あんた、ナオトの子どもが欲しいの?」


「違うよ。お兄ちゃんを作ろうとしたんだよ。綿の力を使えば、性格も記憶も体も複製できる。そのためにはお兄ちゃんの体の情報が必要なんだよ」


 だからって……いきなりあんなこと。


退いて。私はこれからお兄ちゃんと一つにならないといけないんだから」


「そんなことさせない。そんなことあたしが許さない」


 ナオトはミノリの肩に手を置く。


「ミノリ」


「何よ。邪魔しないで」


 言葉が通じてもちゃんと理解してもらえるかは分からない。

 それはよく分かった。

 仕方ない。本当はやりたくなかったが、この方法で納得してもらうしかない。


「……ミノリ。俺にいい考えがある」


「いい考え?」


「ああ、そうだ。俺の心臓がどれほど危険なものなのかをメインの心と体に刻み込む……ただ、それだけだ」


「そんなことしたら、こいつ死ぬわよ?」


 死なないさ……。

 こいつの俺に対する気持ちが本物なら。


「それはメインの頑張り次第で決まる」


「……まあ、それは……そうだけど」


 メインがミノリ(吸血鬼)を蹴り飛ばす。

 メインは彼を押し倒すと馬乗りになった。


「さぁ、お兄ちゃん。私と一つになろう」


「残念だが……それはできない」


 彼は心臓に宿る蛇神じゃしんの力を解放した。


「どうして……どうしてできないの? 私のこと嫌いになった?」


「黙れ、小娘」


 あれ? お兄ちゃんのにおいがしなくなった。


「お前は何も分かっていない。我の恐ろしさを」


「い、いや! やめて……痛いのはいや


 彼女はその場から逃げ出す。

 その直後、彼は自身の毒を散布した。

 それは白い世界を確実に汚していった。

 負の感情の集合体のような黒で。


「あ、あれ? 動け、ない」


 彼女は無意識のうちに転んでいた。

 目眩めまい麻痺まひ。倦怠感が彼女をむしばむ。

 それと同時に今まで感じたことのないような痛みが彼女を襲った。


「や、やめて! 私、まだ死にたくない! もっと生きたい。だから、お願い。私を……殺さないで」


「なら、誓え。お前は今から……。メイン。俺は今からお前をさらう。ごめんな、他にいい方法が思いつかなかったんだ」


 何をする! ここからがいいところなのだぞ!

 うるさい、黙れ。やりすぎだ。トラウマになったらどうする。

 む、むう……。

 分かったら、とっとと深層に戻れ。

 し、しかし!

 聞こえなかったのか? さっさと深層に戻れ! 今すぐに!!

 わ、分かった。言う通りにする。

 彼は彼女を襲っていた毒に失せろと念じた。

 すると、それは彼の体の中に戻っていった。


「……おにい、ちゃん? お、お兄ちゃーん! うえーん! こ、怖かったよー!」


「ごめん。ごめんよ、メイン。本当はあんなことしたくなかったんだ」


 彼女は彼を強く抱きしめる。

 彼は彼女の頭を優しく撫でる。


「ごめんなさい! 私、自分のことしか考えてなかった! お兄ちゃんの気持ちを無視してた! ごめんなさい! ごめんなさい!」


「もういい。もういいんだよ。俺もお前に酷いことをしたんだから」


 ミノリ(吸血鬼)が何事もなかったかのように二人の元に歩み寄る。


「はぁ……まったく。やっぱり、わがまま女王様には分からせないとダメね。色々と」


「そう、だな。けど、もうしたくないな」


 二人は彼女が泣き止むまで、彼女をなぐさめていた。

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