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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その109

 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)がメイン(綿の精霊たちの女王)をなぐさめたことで彼女はようやく落ち着いた。


「えっと、メイン」


「なあに? お兄ちゃん」


「いや、その……そろそろ帰りたいんだけど」


「へえ」


 あれ? もしかして何をしてもここから出す気がない感じなのかな?


「俺はさ、お前のことが嫌いってわけじゃないんだよ」


「知ってるよー」


「え、えっとな、俺を待ってるやつらがいてだな」


「何が言いたいの?」


 メインは俺の腕にしがみつく。

 骨が折れそうなくらい強く。


「あー、その、つまり……」


「あー! もうー! イライラする! ナオト! とっとと帰るわよ!!」


 ミノリ(吸血鬼)が俺の手をつかむ。


「ダメ! お兄ちゃんは私のものなんだから、ここにいないとダメなの!!」


「ナオトはあんたのおもちゃじゃないのよ! 早くナオトから離れなさい!!」


「ヤダ!!」


「離れて!!」


「ヤーダー!!」


 あー、これはもうどうにもならないなー。

 というか、二人とも。

 そんなに腕を引っ張ったら……。


「……あっ」


 彼の両腕がついに千切れた。

 真っ赤な液体が真っ白な世界を自分色に染め上げていく。


「あっ……ご、ごめん。私、そんなつもりは」


「……大丈夫よ。ナオトはこれくらいじゃ死なないから」


「えっ? そ、そうなの?」


「まあ、そうだな」


 彼がメインの元まで芋虫のような動きで近づく。


「でも、それがないと不便だから返してくれ」


「あっ、うん、分かった」


 彼女が彼に腕を返す。

 すると、それは飛び散った真っ赤な液体と共に彼と合体した。


「よし。ちゃんと元に戻ったな。おーい、ミノリー。そっちまで行くのつらいから、俺の腕こっちまで持ってきてくれー」


「はーい」


 ミノリ(吸血鬼)が彼にもう片方の腕を返すと、それも飛び散った真っ赤な液体と共に彼と合体した。


「よしよし、こっちも異常なしっと。えーっと、それで何の話だっけ?」


「精神年齢幼児くらいの女王様がナオトは自分のものだから手放したくないって言い出したせいで困ってるって話よ」


「ぶ、無礼者! 私はこの世界の女王なのですよ! やろうと思えば、お前なんか!!」


「まあまあ、二人とも。とりあえず落ち着けよ」


 うーん、いったいどうすれば二人につらい思いをさせずに済むんだろう。


「えっと、メインはここじゃないと生きられないのか?」


「え? いや、別にそんなことはないけど、誰かのぬくもりを感じていないと弱体化する……と思う」


 こいつはおそらく、ここから出たことがない。

 外の世界は怖い。恐ろしい。

 そんなイメージが強いから、俺をここで守ろうとしてくれているんだろうな。


「なるほどな。うーん、なら、一度外の世界を見に行かないか?」


「だ、ダメだよ! お外は危ないよ! お兄ちゃんの命がいくつあっても足りないよ!」


 あー、これはあれだな。箱入り娘だな。

 誰だ? こいつにそんなこと吹き込んだのは。


「あんたに外の世界はとても恐ろしいところだって吹き込んだのは、おそらくあんたがここから出ていくのを阻止するためよ。あんたの教育係は誰?」


「……はにゃ?」


 ん? これはもしかすると……そう思い込んでるだけなのかもしれないな……。


「メイン。とりあえずお前がイメージしている外の世界のことをゆっくりでいいから教えてくれないか?」


「いいよー。えっとねー、お外にはねー、モンスターがたくさんいてー、人間たちはそれを倒すために必死だから私みたいな精霊がその世界を見に行ったら魔物と勘違いして襲ってくるから、ここから出ちゃダメだって思ってるよー」


 ふむふむ。


「でもー、ぬくもりがないと私たちは生きていけないからー、たまにお外から人間を連れてきてー、ぬくもりを分けてもらうんだよー」


「なるほどな。つまり、外の世界に干渉しすぎると酷い目にうって思ってるだな?」


「そうそう」


 これは……あれだな。少しずつ外の世界を見てもらわないとダメなやつだな。

 ナオトはミノリ(吸血鬼)にそのことを伝えた。

 二人はしばらくの間、そのことについて話し合っていた。

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