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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その108

 綿の精霊たちがいる世界の女王様は自分の姿をいつわっていた。

 出会った時は成人女性だった。

 けれど、それはいつわりの姿。

 本当はおさない女の子だったのだ。

 彼女はナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)にそのことを知られたくなかった。

 しかし、現実は残酷だ。

 ミノリ(吸血鬼)と戦い、敗れたせいで理想の外見にする魔法が解けてしまった。

 しかも彼に自分の本当の姿を見られてしまったのである。


「なあ、女王様。俺、いくつに見える?」


「え? そ、そうですね……十歳くらいに見えますね」


「まあ、外見だけはそうだな。けど、残念ながら俺は今年で二十八歳になるんだよ」


 綿の精霊たちの女王様は目をパチクリさせた。


「そ、そんなことって」


「あるんだよ。まあ、俺が二月の誕生石の力を使っちまったせいだけどな」


「ということは、あなたも私と同じ……」


「一緒にするな。俺のは自業自得だが、あんたのはただの虚飾きょしょくだ」


「えっと、私の食欲の話ですか?」


 ん? なんか会話が噛み合ってないぞ。

 ナオトが反応に困っていると、ミノリ(吸血鬼)が女王様にこう言った。


「あんたが想像してるのは食をこばむ方の拒食でしょ? ナオトが言いたいのは見た目をいつわる方の虚飾よ」


「そ、そうなのですか。すみません。不勉強で」


「大丈夫よ。誰にだって知らないことがあるんだから」


 ミノリ、お前……。


「たまにはいいこと言うんだな」


「いつもいいことしか言ってないわよ? あたしは」


 そうかな?

 まあ、いいや。とりあえず女王様を立ち直らせよう。


「まあ、要するに……。あんたはあんたのままでいいってことだよ」


「こんなおさない体に欲情する人なんていませんよ。今までここに連れてきた人間たちはみんなそうでした」


「まあ、いきなりその姿で出てこられたら反応に困るだろうけど、別に悪くないと思うぞ?」


 彼女は彼の顔をじっと見つめ始める。


「な、なんだよ。俺の顔に何かついてるか?」


「いえ、その……そんなこと今まで誰にも言われたことがなかったので」


「それはあれだろ? 今まで誰にも優しくされたことがないから……耐性がないから、そんな恋する乙女みたいな気持ちになってるだけだろ?」


 恋……。これは恋……なのでしょうか?


「ちょっとー。まだ話終わらないのー?」


「うーん、まあ、そうだなー」


「あっ、そう。じゃあ、終わったら呼んで」


「おう」


 ミノリ(吸血鬼)はその場で横になった。

 まあ、ナオトの方に背を向けた状態で話を聞いているのだが。


「女王様ー。大丈夫かー? 生きてるかー?」


 彼が彼女の目の前で手を振っていると、彼女ははっと我に返った。


「あっ、すみません。ぼーっとしてしまって。えっと、私は今のままでいいという話でしたっけ?」


「ああ、そうだ。まあ、あんたは多分、甘える方が向いてるから、甘えたくなったら俺を呼んでくれ」


「甘える……。で、では、今甘えても、いいですか?」


「ああ、いいぞ。ただし、一つだけ条件がある。俺の前では、その丁寧な口調をやめてくれ。なんかあんまり嬉しくないから」


「分かりま……分かった」


「よしよし。じゃあ、おいで」


 彼はその場にあぐらをかいて座ると両手を広げた。彼女は一瞬、躊躇ためらったが彼に自分の体を預けた。


「あなたの心臓の音を聞いていると、すごく落ち着きま……落ち着く」


「そうか? 別に普通だと思うけどなー」


 というか、俺の心臓じゃないし。


「そんなことないよ。すごく落ち着くよ。ねえ、あなたのこと、お兄ちゃんって呼んでもいい?」


 ミノリ(吸血鬼)は「ダメよ!」と言いそうになったが、彼女はそれを腹の中に押し込んだ。


「ああ、いいぞ。あっ、そういえば、あんたの名前知らないな」


「そういえば、言ってなかったね。まあ、名前なんてものはないんだけどね」


 え? ないのか? まあ、この世界の女王だから名前なんてなくても困らないだろうが。


「そうなのか。じゃあ、俺があんたに名前をつけてやるよ」


「本当? じゃあ、お願い」


「おう! 任せとけ!!」


 ……綿……コットン……女王……クイーン。

 うーん、なんか違うな。白……ホワイト……。


「……うーんと……じゃあ……メイン、とかどうだ?」


「メイン? なんて意味?」


「えっと、おもな、とか重要な……って意味だ。女王様はこの世界にとって重要な存在だから……って安直すぎるかな?」


「ううん、それでいいよ。ありがとう、お兄ちゃん。大好き」


 彼女は彼の首筋に優しくキスをした。


「ど、どういたしまして」


「終わったー?」


「まだだよ。せっかちさん」


「はぁ? あんた、ケンカ売ってんの?」


「今、お兄ちゃんは私とイチャついてるんだから邪魔しないで」


 ナオトが首を横に振っていなければ、彼女は女王様を殴っていただろう。


「えへへへ、お兄ちゃーん」


「おー、よしよし。メインは可愛いなー」


「えー、そうかなー? そうかなー?」


 ミノリ(吸血鬼)は彼女に手を出さなかった。

 彼女が満足するまで、ぐっとこらえていた。

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