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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その102

 ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の中にある植物園に綿の木があることを知ったナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はミノリ(吸血鬼)とツキネ(変身型スライム)と共にその木がある場所に向かった。


「これが綿の木かー。てっきり向日葵ひまわりくらいでかいのかと思ってたけど、意外と小さいんだな」


「まあ、そうね。さて、それじゃあ収穫しましょうか。ツキネ、出番よ」


「はーい!」


修復と(リペア)強化が可能な聖水(ブーストウォーター)』。

 ツキネの固有魔法であるその水は傷を治したり、身体能力を強化したり、さまざまなものを成長させることができる。

 彼女が綿の木にその水をかけると黄色い綿の花が咲いた。その後、モコモコした白い物体が現れた。


「これが綿花めんかか……。いや、正確には種子かな」


「まあ、そうね。さて、それじゃあ収穫するわよ。あー、あとツキネ。あんたはあたしたちが収穫している間、他の綿の木にも例の水をかけていきなさい。分かった?」


「はーい! 分っかりましたー!」


 ツキネはそう言うと、クルクルと回転しながら例の水を綿の木にかけ始めた。


「……ナオト、今日は一着分だけでいいから、あたしがいいと言うまで収穫しなさ……」


 ミノリ(吸血鬼)が先ほどまでナオトがいた場所に目を向けると、そこにナオトはいなかった。

 ミノリは彼と合流して、ここに来て白いモコモコが現れるまで彼とずっと手をつないでいた。

 だから、彼の居場所が分からなくなるわけがないのだ。


「ナオトー、どこにいるのー? かくれんぼでもしてるの?」


 返事はない。彼の気配すら感じない。

 さっきまで一緒にいたはずの存在が突然、姿を消した。

 まるで神隠しのように……。


「ん?」


 ミノリは彼がにぎっていた方の手の中に何かがあることに気づいた。


「これは……綿わた? 変ね、あたしまだ収穫してないのに……」


 彼女はそこでようやく気づいた。

 目の前にある綿の木が彼をさらったかもしれないということに。


「わざわざヒントを残したのはなぜ? あー、でも今はそんなことどうでもいいわ。ねえ、ナオトを返してよ。あたしの……あたしたちのナオトを返しなさいよ!!」


 ミノリ(吸血鬼)が殺意と憎悪ぞうおき出しにすると、それを制するかのように彼女の肩に手を置いたものがいた。


「ミノリちゃん、少し落ち着きなよ。ご主人は綿の精霊に招待されただけなんだから」


「綿の、精霊?」


 ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)は少し歩いて白いモコモコに触れる。


「うん、そうだよ。彼女たちは誰かを……何かを包むために生まれてくる。けど、たまに誰かに包まれたくなるらしいんだ。で、気に入った人間を少しの間、さらってその欲を満たすんだよ」


「何よ、それ。めちゃくちゃ迷惑じゃない! あたし、その精霊に文句言ってくる!」


「無駄だよ。彼女たちに招待されていないものは決して彼女たちの元に辿たどり着くことはできないんだから」


「なら、どうすればいいのよ! ここで指をくわえて待ってろってこと? あたしはそこまで無能じゃないわ!」


「ミノリちゃん、彼女たちは別に他人に害を与えるような存在じゃないんだよ。精霊の中には相手の生命力をらいくすようなやつもいるけど、彼女たちはそうじゃない。ただ、誰かのぬくもりを感じたいだけなんだよ。ミノリちゃんにだって、ご主人に甘えたくなる時があるでしょ? それと似たようなものだよ」


「なるほどね。はぁ……じゃあ、ここでおとなしく収穫してればナオトは今日中に帰ってくるってこと?」


「彼女たちの気が済んだら、返してくれると思うよ」


 ミノリは起こってほしくない未来を想像したが、そんなこと起こるわけがないと否定した。

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