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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その73

 先ほどまで小降りだった雨が大降りになったため、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)とシズクとルルは部屋に戻った。


「もうー! どうして大降りになる少し前に部屋に戻ってこないのよ! はぁ? 雨の音を聞いてた? そんなの知らないわよ! 風邪でもひかれたら、困るのはこっちなんだから、しっかりしなさいよ!」


 ミノリ(吸血鬼)は俺の母親ではないが、たまに俺の母親のようなことを言う。

 あー、まあ、俺の本当の母親なら、俺が雨でずぶ濡れになって帰ってきたら、一緒にお風呂に入ろうとか言い出すから、どちらかと言うと姉だな。

 まあ、俺に姉はいないんだけどな。

 というか、俺は一人っ子だ。俺の記憶が正しければ。


「あー、はいはい、分かったよ。それより、タオルを持ってきてくれないか? 三人分」


「分かったわよ。ちょっと待ってて」


「おう、分かった」


 雨は万物を溶かせる液体だが、気の遠くなるような時間をかけてゆっくり溶かしていくため、塩酸よりだいぶマシだ。

 ミノリが持ってきたタオルでシズクとルルの頭を拭いてやると、二人はずっとニコニコ笑っていた。なぜだろう?


「さてと、それじゃあ、雨が止むまでのんびりしようかな」


 俺が寝室に行こうとすると、ミノリ(吸血鬼)がそれをはばんだ。


「ナオト。とりあえず、お風呂に入ってきて。コハルとキミコが待ってるから」


「え? いや、いいよ。風呂なんか入らなくても風邪なんかひいたりしないよ。小さくなっても免疫力は大人なんだから」


「ダメよ。とにかくお風呂に入りなさい」


いやだ、と言ったら?」


「その時はあんたの全身の血を吸い尽くすわ」


「分かりました。それでは、お風呂に入ってきます」


「よろしい」


 ミノリにはかなわないな……。

 まあ、別にいいけど。


 *


 コハル(ミサキの実の妹)とキミコ(狐の巫女みこ)は浴槽の前で正座をしていた。

 頭を下げたまま、ピクリとも動かない。

 コハルはいつも通り、スクール水着を着ている。

 キミコもスクール水着を着ている。

 いつも巫女装束(しょうぞく)しか着ていないやつが別の服を着ている。

 うん、悪くないな。


「えっと、その……そろそろ頭を上げてくれないか? 気まずいから」


「え? そうなのですか? お姉様はお兄様と一緒にお風呂に入るなら、これくらいしないといけないとおっしゃっていましたよ?」


 実の妹に変なこと教えるなよ。


「それは誤解だ。あと、キミコ」


「なあに? お兄ちゃん」


「お前はモンスターチルドレンなんだよな?」


「うん、そうだよ」


「だったら、普通の水は苦手なはずだよな? というか、弱点とかじゃなかったっけ?」


「えっとねー、これを着てる間は平気なんだよー」


「なんだと? 初耳なんだが」


「魔力制御機能を搭載している白いワンピースを作れるところで作れないものがあると思う?」


「まあ、たしかにそうだな。というか、それはいったい何でできてるんだ? 普通の水着じゃないだろ?」


「それは企業秘密だよ。それより、早くこっちに座って」


「え? あ、ああ、分かった」


 その後、コハル(藍色の湖の主)とキミコ(狐の巫女)は俺の体を洗ってくれた。

 いたずらは特にされなかった。

 なぜだろう、少し期待していた自分がいる。


「二人とも、ありがとう。その……お礼に何かしたいんだけど、何がいい?」


「お兄様」


「なんだ?」


「えっと、その……体を洗ってもらえると嬉しいです」


「あっ、私もそれでいいよー!」


「おう、いいぞ。えっと、それで、どっちからやればいいんだ?」


「それはもちろん、私からです!」


「何言ってるの? 私が一番だよ」


 あっ、これはまずい。


「二人とも、ケンカはしないでくれ。お願いだから」


「そうですよね。私たちが争う必要なんてありませんよね。だって、お兄様には手が二つありますもの」


 ん?


「そうだね。手が二つもあれば、二人同時に洗えるよね?」


 んんー?


「はぁ……分かったよ。やるよ。けど、さすがに髪は同時に洗えないぞ? 俺はそこまでテクニシャンじゃないんだから」


「大丈夫です。髪は自分で洗います」


「だから、お兄ちゃんはそれ以外のところをよーく洗ってね?」


「りょーかい。それじゃあ、始めるぞ」


「よろしくお願いします!」


「しまーす!」


 いつまで旅が続くのか分からないけど、今は自分にできることをやろう。

 というか、キミコが着ている水着って、この世に一着しかないレア装備……とかじゃないよな?

 あー、嫌な予感しかしないな。

 まあ、いいか。

 今は深く考えないようにしよう。うん、そうしよう。

 それから三人はまったり入浴していたそうだ。

 一時間弱ほど。

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