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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その72

 雨が降っている。

 しばらく止みそうにない。

 そのため、ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)たちは部屋の中でのんびりしている。


「あれ? シズクがいないな。おーい、シズクー! いるかー!」


 ナオトがそう言いながら、お茶の間や台所に行っているとミノリ(吸血鬼)が彼の元にやってきた。


「シズクなら、外にいるわよ」


「外? 外で何してるんだ?」


「さぁ? なんかずっと雨を見てたわよ」


「そうか。ありがとう、ミノリ。助かったよ」


「どういたしまして」


 彼が玄関の方に向かったのを見計らうと、ミノリ(吸血鬼)はその場に膝をついた。


「あたしは本能に負けたりしない……。吸血衝動なんて気合いでどうにかしてみせ……」


 その時、彼女の頭にチョップしたものがいた。


「ちょ、何すんのよ! あたしは今、危険な状態なのよ!」


 彼女が振り返ると、そこにはコユリ(本物の天使)がいた。


「マスターと少し話しただけで吸血衝動に襲われるなんて、あなたらしくないですよ」


「う、うるさい! あんたには関係ないでしょ!」


「いえ、関係あります。あなたが吸血衝動のみで行動するようになったら、マスターが悲しみます。私はそんなマスターの顔を見たくありません」


「あっ、そう。じゃあ、一人にさせてよ」


「それは無理です」


「どうしてよ」


「それは……まあ……あれですよ。とにかく吸血衝動が収まるまでは、そばにいてあげます」


「別にあんたに心配されるほど苦しいわけじゃないけど、まあ少しはマシになるかもしれないわね。えっと、じゃあ、背中(さす)ってもらえる?」


「はい、分かりました」


 それからしばらくの間、コユリ(本物の天使)はミノリ(吸血鬼)の背中をさすっていたそうだ。


 *


「よう、シズク。何してるんだ?」


「え? あー、まあ、雨を見てるだけだよ」


「そうなのか?」


「うん、そうだよ」


「そうか」


「……ねえ、ナオト」


「んー? なんだ?」


「私の名前をナオトが付けてくれた時も雨降ってたよね?」


「え? あー、そういえば、そうだったな」


「私ね、その時のことを思い出してたの」


「へえ、なんかいいな。そういうの」


「そうかな?」


「ああ、そうだとも。自然の音を聞くと心がいやされるし、体も休めることができるから俺は嫌いじゃないぞ」


「そう。じゃあ、私と一緒に雨の音、聞こうよ」


「え? ここでか? 少し寒くないか?」


「大丈夫だよ。ここで座って身を寄せ合えば寒くないよ」


「それは……まあ、そうだが」


 そんなことをナオトとシズク(ドッペルゲンガー)が話していると、ルル(白魔女)がスススーッとやってきた。


「二人とも何してるのー?」


「え? いや、別に何も……」


「今からナオトと一緒に雨の音を聞くんだよ。ルルちゃんはどうする?」


「もちろん参加するよー。ほら、ナオト。早く座ろうよー」


「お、おう、分かった」


 結局、こうなるのか。


「ついでにナオトの血を吸わせてもらうよー。いいよねー?」


「どうせダメって言っても吸うんだろ?」


「うん、吸うよー」


「ルルちゃんは欲望に正直だね」


「褒め言葉として受け取っておくよー。それじゃあ、いただきまーす」


 ルルは白魔女と吸血鬼のハーフであるため、たまにナオトの血を吸う。

 ルルは彼の首筋を一度ペロリと舐めた。

 その後、優しく彼の首筋に噛み付いた。


「ナオト、私のこと抱きしめてー」


「え? あー、いいぞ。片腕しか使えないけど、いいか?」


「うん、いいよー」


「分かった」


 彼がシズクを抱き寄せると、シズクはとても幸せそうな顔になった。

 雨はまだ止まない。

 いつ止むのかは分からない。

 しかし、いつかは止む。

 止まない雨などないのだから。

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