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〇〇が目を覚ますようです

 俺は毎朝必ず部屋に送られてきていたその子を部屋に入れると、その子をじーっと見つめ始めた。

 外見は吸血鬼っぽいが、別に死んでいるわけではない。だが、ただ一つだけ問題があった。


「……こいつ、いつまで寝てるんだ?」


 それは、いつもダンボール箱に入っているこの子が起きているところを見たことがないということだ。

 箱から出て歩いていたり、扉を開ける瞬間に出てきて俺を驚かそうとしたりするなどの行為を見たことがないし、それらの行為をするような気配もなかった。

 この子が何者であるのかはまだよく分からないが、これだけは言わせてほしい。


「……なあ、お願いだから、そろそろ起きてくれよ」


 流石さすがにずっとこのままにしておくことはできない。なぜなら、俺はひまではないからだ。

 明日からまたバイトの日々が続くし、子どもの面倒を見られる余裕は正直言って……ない。

 家賃はそんなに高くはないが、払うのを一日でも過ぎると管理人さんに叱られる……かもしれない。

 このアパートの管理人さんはとても美人である。年齢はおそらく二十代前半だと思われる。

 えっと、名前はたしか……あー、そうそう『橋本はしもと かな子』さんだ。

 俺は管理人さんの名前を思い出すと、いまだに寝息を立てている少女に目を向けて、まだ眠っているかどうかを確かめた。

 しかし、このままこの子を見続けていても時間の無駄だと思った俺は、その子を起こすことにした。


「おーい、起きろー」


 俺は少女の体をねこを起こす時のように少しあらっぽく揺らした。


「…………」


 だが、その子は起きなかった。もう無理だな……と思い、ダンボール箱を抱えようとした、その時、箱の中に何かがあることに気づいた。

 俺は一瞬、自分の目を疑った。そこには、白くて小さい正方形の紙が入っていたからだ。(今までそんな紙は入っていなかった)

 それを箱から取り出してみると小さな文字で何かが書かれている。

 よーく目をらして見てみると、こんな事が書かれてあった。


『この箱に入っている女の子は、あなたのパートナーであり、未来の結婚相手でもあります』


 俺は何かの間違いだと思った。

 その直後、俺はこの少女が自分の結婚相手であり、パートナーであることに対して、激しく動揺した。今までの人生の中で一番動揺した。

 俺の部屋は二階にあるが、下の階の部屋には誰も住んでいない。

 もし、俺の部屋の下に誰か住んでいたら、今頃、クレームが飛んできていただろう。俺はそれくらい激しく動揺した。

 十分くらい経って落ち着いてくると、例の紙の下の方に、先ほどのものとは異なる文字が書いてあることに気づいた。

 俺はそれを手に取ると、続きを読んでみた。それには、こう書かれてあった。


『頭を撫でろ』


 その直後、俺は声に出してこう言った。


「この子はどこかのマッドサイエンティストが作った人造人間なんじゃないのか?」


 いや、人間ではないから人造モンスターか。

 そんな事を考えていたら、目の前の状況をつい忘れてしまっていた。

 今はこの子を起こすことが最優先事項だということを自分に言い聞かせると、俺は活動を再開した。

 この子の頭を撫でると、どうなるのかは分からない。

 だが、物は試しだと思ったため、俺は実行してみることにした。

 まず、箱の中から少女を取り出してみた。

 その後、俺はこの子の頭を撫でることにした。

 ここからは、この子を目覚めさせることだけに集中して他の事は一切考えない、と心に誓って……。

 俺は目の前の少女に手を伸ばした。とてもゆっくりだが、その手は確実に少女の方へと向かっていった。

 そしてついに、俺の手が少女の髪に触れた。

 俺はその子の髪の感触について、いろいろ言いそうそうになった。

 しかし、俺はグッとこらえた。その後、目の前にいる少女の頭を撫でることにした。

 その子の頭を撫でていると、なんとなくなつかしい感じがした。

 それと同時に、俺が幼い頃、お袋によく頭を撫でてもらっていたことを思い出した。

 何か嫌な事や悲しい事があると泣きながら家に帰って、お袋にこう言った。


「……お母さん……頭……撫でて……」


 それから泣き止むまで頭を撫でてもらってたな……。

 そんな恥ずかしくも懐かしい思い出にひたっていると目の前に、今まで頭を撫でていたはずの少女が仁王におうちでこちらを見ていることに気づいた。


「お、おはよう……」


 俺が弱々しい挨拶あいさつをすると、目の前の少女はこう言った。


「ええ、おはよう。というか、もっと早く起こしなさいよ! 放置するのが好きなら犬でもったら? ねえ? 『本田ほんだ 直人なおと』……いや、ど・う・て・い……の方がいいかしら?」


 この時の俺は怒りよりもショックの方が大きく、何も言い返すことができなかった。

 そんな俺の反応が面白かったのか、その子はクスクス笑っていた。


「……ご、ごめんなさい。今のは冗談よ、冗談。貴方あなたのことはあたしが一番よく知ってるけど、そんなに驚くとは思ってなかったから、つい……」


 この時の俺は、先ほどのゴミを見るような目ではなく、明るさと少し大人っぽさを感じるその子の笑顔に夢中になっていた。

 そのあと、その子はバレリーナのようにクルリと一回転したかと思うと、右手を腰に、左手は銃弾をつ構えをすると、左目でウインクしながら、こう言った。


「これからよろしくね! あ・な・た?」


 その時、俺は完全に気絶した。

 重力に耐えきれなくなって倒れていく感覚と、心配そうに俺の名前を連呼する少女の声は薄れく意識の中でもはっきりと分かった。

 この時の俺はこの子と生活することが俺の人生を左右するものだということに、まだ気づいていなかった……。

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