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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その67

『イビルシープ』か。

 モンスター図鑑にはミノリ(吸血鬼)が言ってた通りのことが書いてあったけど、こういうのは戦ってみたやつの意見を聞くのがいいよな。

 でも、時間がてばつほど強くなっていく化け物を倒せるやつなんているのかな?

 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)がそんなことを考えながら歩いていると、何かにぶつかった。


「ん?」


 彼が顔を上げると、黒いローブを身をまとった幼女が立っていた。


「すまない、ニイナ。ちょっと考え事してたから気づかなかったんだ」


「別に大丈夫だよ。それで? ナオトは何を考えてたの? エッチなこと?」


「お前は俺をなんだと思っているんだ?」


「体はショタ。頭脳はピンク色」


「えっと、俺は別に年中発情期なわけじゃないんだぞ?」


「知ってるよ。けど、たまにムラムラする時はあるよね?」


「それは……まあ……そうだけど」


 彼が彼女から視線をらすと、彼女は彼に顔をグイと近づけた。


「な、なんだよ」


「今、エッチなこと考えてたでしょ?」


「そ、そんなことねえよ。ただちょっと気まずくなっただけだ」


「本当に?」


「ほ、本当だよ」


「怪しいなー」


 彼女は彼の首筋まで顔を近づけると彼の血のにおいをいだ。


「……うそじゃないみたいだね。ごめんね、疑ったりして」


 今ので嘘をついているのかどうか分かるのか。

 すごいな、ニイナは。


「いいよ、別に気にしてないから。ところでニイナ」


「なあに?」


「『イビルシープ』ってさ、どんなモンスターなんだ?」


「えっと、まあ、なんというか……あんまり相手にしたくないモンスターだね」


「そんなに強いのか? もしかしてお前より強かったりするのか?」


「私の異名は『殺し屋の中の殺し屋』なんだよ? そんな私より強い羊がウジャウジャいると思う?」


「まあ、たしかにそんなのがウジャウジャいたら、この世界は今頃、そいつらに支配されてるだろうな」


 彼がそう言うと、ニイナはどこからともなくナイフを取り出した。


「倒し方は色々あるけど、私はとりあえず両目をくり抜いてから切り刻むよ」


「うーん、それだとギリギリまで引きつけないといけないな。他には何かないのか?」


「うーん、まあ、つのを折ったり、鼻を切り落としたりしてから倒すっていう方法もあるよ」


「なるほどな。でも、俺はお前みたいにナイフを自在に操れないからな……。他に方法はないのか?」


「えっと、鼻にパンチして……」


「分かった。もういい。なんとなく理解したから」


「そう……。じゃあ、情報料ちょうだい」


「え?」


「えっ? まさか私が何の見返りもなしに情報を提供すると思ってたの?」


「……はい」


「そっか。ということは、今ナオトは無一文なんだね?」


「えっ? いや、別に無一文ってわけじゃ……」


「そっかー。じゃあ、仕方ないねー」


 彼女はそう言うと、彼の左肩に手を置いた。


「ナオト、お金が払えない時は何で払うのが正解なのか分かる?」


「え、えっと……体……かな?」


「正解。じゃあ、あとは……分かるよね?」


 彼は悟った。

 人と吸血鬼のハーフである彼女に何を支払うべきかを。


「はぁ……分かったよ。今回の情報分の血を吸わせてやるから、それで勘弁してくれ」


「うん、いいよ。じゃあ、ついてきて。ここだと、みんなの視線が気になるでしょ?」


「あっ、はい。分かりました」


 彼はそう言うと、ニイナについていった。

 彼がお茶の間に戻ってきた時、彼は少し青ざめていたそうだ。

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