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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その64

 やれやれ、やっと三人分の採寸が終わったな。

 あー、お腹()いたなー。

 今日の晩ごはんは何かなー。

 俺がそんなことを考えながら、お茶の間に行くとミノリ(吸血鬼)が真正面から俺の両肩をつかんだ。


「な、なんだよ」


 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)がそう言うと、彼女はニッコリ笑った。


「良かった。ちゃんと採寸できたみたいね」


「いや、何度もやめようと思ったけど、お前がなかば無理やり」


「なんか言った?」


 ミノリ(吸血鬼)の笑顔の裏に、とてつもなく重い圧を感じたため、俺はそれから先の言葉を言うのをやめた。


「いや、何にも」


「そう」


「おう」


 ミノリ(吸血鬼)は俺から少し離れると、俺の周りを一周した。


「な、なんだよ。俺の体に何か付いてるのか?」


「別に何も付いてないわよ。ただ、少しだけ雰囲気が変わったなーって思っただけよ」


「そうか? 採寸しかしてないんだけど」


「そうかしら? 知人とはいえ、女の子の体のあんなところやこんなところを採寸する機会なんてめったにないと思うんだけれど?」


 ミノリ(吸血鬼)のニヤケ顔。

 ナオトは少しだけ戦意を失った。


「そ、それはまあ……そうだけど」


「それで? 三人の体はどんな感じだったの? どうせ少しは触ったんでしょ?」


「そ、それは……」


「メルクは別として、他の二人は幼女体型だったはずよねー? どうして顔を真っ赤にしているのかしら?」


 ミノリ(吸血鬼)はナオトにぐいと顔を近づけてニヤニヤしている。

 ナオトは彼女から目をらしながら、こう答える。


「し、仕方ないだろ。俺も一応、男なんだから、本能的にというか必然的に意識しちまうんだよ」


「三人中、二人は幼女体型だとしても?」


「そ、それは今関係ないだろ! というか、さっきから何なんだよ! あんまり俺をからかうなよ!」


 彼が彼女を突き飛ばそうとすると、彼女はそれをヒラリとかわした。

 彼女は彼の背後に回ると、彼の首筋に鼻を近づけた。


「ねえ、ナオト」


「な、なんだよ」


「さっき、誰かに血を吸われたでしょ?」


「そ、そんなことねえよ。何言ってんだよ」


 彼が苦笑すると、ミノリ(吸血鬼)は真剣な眼差しで彼にこう言った。


うそつかないで。あたしは吸血鬼よ? あんたの体内にある血液がどんな状態でどれくらいあるのか把握できないと思う?」


「す、すみませんでした。少しだけニイナに血を吸われました」


「少しだけ?」


「……いえ、かなり……結構……」


「そう……」


 あれ? この流れってなんかまずくないか?


「ねえ、ナオト……」


「な、なんだ?」


「あたし、のどかわいちゃったなー」


「そ、そうか。それじゃあ、ちょっと待っててくれ。水を持ってくるから」


 彼がその場から逃げようとすると、彼女は彼を後ろから抱きしめて、それを阻止した。


「水でもいいんだけどー。あんたの体の中にあるヘモグロビン多めの液体が欲しいなー」


 はぁ……やっぱりこうなるのか。


「わ、分かったよ。お前に俺の血をやるよ」


「わーい、やったー。ありがとう、ナオトー」


 棒読みだ。ついに棒読みで言いやがった。


「それじゃあ、さっそくいただくわね」


「ちょ、ちょっと待ってくれ」


「なあに? 今さらやめろだなんて言っても無駄よ?」


「そうじゃない。その……ここだとみんなの目があるから、お前の作業部屋で」


「ダーメ。もう我慢できないから、ここで吸っちゃう」


「や、やめろ、ミノリ。まだ心の準備が……!」


 ミノリ(吸血鬼)は彼の首筋をペロリとめると、彼の左耳の耳元でこうささやいた。


「心の準備なんかしなくても、あんたの体は準備万端のはずよ。だって、さっきから抵抗しようとしてないんだから」


「そ、それは後ろから抱きしめられてるからであって」


「あんたなら、どんな体勢でも、あたしを引き離せるわよね? それなのに、どうしてそれをしないの?」


「うっ……そ、それは」


「本当は、あたしに血を吸われたくて、うずうずしてるんでしょ? だから、抵抗しないんでしょ?」


「な、何言ってんだよ。そんなわけないだろ?」


うそね。あんたの心臓の鼓動が少し速くなってるのが、その証拠よ」


「そ、それは後ろから抱きしめられてビックリしてるだけだ。別に期待してるわけじゃない」


「へえー、そうなんだ。じゃあ、あたしが今からあんたに何をしても構わないわよね?」


 ダメだ……どうやってもミノリ(吸血鬼)に血を吸われる。

 あらがえばあらがうほど、ミノリ(吸血鬼)に血を吸われる可能性が高くなっている気がする。


「す、好きにしろよ。俺はしばらくここから動かないからさ」


「そう……。じゃあ、いただきます」


 彼女は彼の首筋に噛みつくと、小さな口で彼の血液を吸い始めた。


「くっ……! あっ……はぁ……」


 彼の様子をみなが横目で見ているのに気づいた彼はミノリ(吸血鬼)の吸血が終わるまでできるだけ声を出さないようにしていた。

 そう、できるだけ。


「……ごちそうさまでした」


「や……やっと終わった……」


「ごめんね、ナオト。でもね、あたし以外の子にたくさん血をあげちゃうような悪い子には、それなりの罰を与えたくなっちゃう主義なのよー」


「そうなのか? 初耳なんだが……」


「まあ、それはそれとして。早く晩ごはんにしましょう。お腹()いたでしょ?」


「あ、ああ、そうだな。そうしよう」


 俺の体がいずれミノリ(吸血鬼)に支配されそうで怖い。

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