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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その63

 服を作る上で大切なことは着る人のことを考えながら作ることと着る人のことをよく知ることだとミノリ(吸血鬼)は言った。

 それについては否定しないし、する必要もない。

 だがしかし、俺が採寸する必要はないと思う。

 というか、ない。誰が採寸しようとサイズは変わらないからだ。

 それなのに、どうして俺にやらせたがるんだ?

 まったく、採寸する身にもなってくれよ。

 俺がそんなことを考えているとニイナ(殺し屋の中の殺し屋)が俺の脇腹を人差し指でつついた。


「ん? なんだ? ニイナ」


「ナオト……早く採寸して」


 いや、今さら無口キャラを演じられても反応に困るのだが。

 というか、近い。もっと離れてくれないかな。


「ニイナ。頼むから少し離れてくれ」


「どうして? 私のこときらいなの?」


「いや、嫌いじゃないよ。けど」


「けど?」


「あんまり近いと反応に困るというか、なんというか」


「ナオト」


「な、なんだ?」


「お腹()いた」


「そうか。じゃあ、少し早いけど、おやつにしようか」


 俺がとなりの部屋に移動しようとすると、ニイナはヘナヘナとその場に座りこんでしまった。


「おい、ニイナ。大丈夫か? そんなにお腹()いたのか?」


 彼が彼女と目線を合わすためにかがんだ瞬間、ニイナは彼に抱きついた。


「お、おい、ニイナ。どうしたんだ? 苦しいのか?」


 彼女は荒い息を吐きながら、こう答える。


「……欲しい」


 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はよく聞こえなかったため、再びたずねる。


「え? なんだって? すまない、もう一度言ってくれないか?」


 彼女は彼を強く抱きしめると、彼の左耳の耳元でこうささやいた。


「ナオトの血が……欲しい」


 彼女の体には半分吸血鬼の血が流れているため、吸血衝動はある。

 今まではあまり目立っていなかったが、彼の血を吸ったことで吸血鬼の本能が目覚めてしまった。

 その証拠に彼女ののどはカラカラになっている。


「ナオト……お願い。血をちょうだい」


「俺の血を飲むことで吸血衝動がひどくなるからダメだって言っても聞かないよな」


「もう無理……。頭、おかしくなりそう」


「俺の血に依存しすぎだろ! トマトジュースで代用できないのか?」


 ニイナは彼の首筋を舌で舐めると、彼から離れないように彼の体に足をからめさせた。


「本当に……もう……限界……なのか?」


「うん……もう……無理……。だから、お願い。血をちょうだい」


 彼は少し悩んだ。

 今すぐ彼女を救ってやりたいが血を吸わせることで吸血衝動がひどくなり、今よりも自分の血無しでは生きられなくなってしまうのではないかと。

 しかし、今彼女が苦しんでいるのは事実。

 故に、彼はそれを許すことにした。


「分かった……。好きなだけ吸えよ。ただし、俺が死なない程度にしてくれよ?」


「うん……分かった。それじゃあ、いただきます」


 彼女は彼の首筋に噛みつくと、静かに彼の血を吸い始めた。

 彼は時折、意識を失いそうになったが……彼女が満足するまで、なんとか意識をたもった。


「ニイナ、大丈夫か?」


 彼女は彼の体に身をゆだねると、満足そうな笑みを浮かべた。


「うん、もう大丈夫だよ。とってもいい気分になったから」


「それは今だけだろ。まったく、どうしてこの世界の吸血鬼の吸血衝動は血を吸うたびに悪化していくんだろうな」


「それは分からない。けど、こんなこと頼めるのはナオトだけだよ。誰でもいいわけじゃない」


「そうなのか? うーん、嬉しいような嬉しくないような」


「細かいことは気にしないで。それよりも採寸するんでしょ?」


「あー、そういえば、そうだったな。えっと、気持ちよくなってるところ悪いんだけど、採寸させてもらえないか?」


 彼女はニッコリ笑うと、彼と目を合わせた。


「うん、いいよ。私の体の隅々まで調べ尽くしてね」


「……! そ、そういう変な言い方するなよ。採寸しづらくなるじゃねえか」


「照れてるナオト、可愛い。よしよし」


 彼女は唐突に彼の頭を撫でた。

 彼は頬を赤く染めながら、こう言った。


「お、俺を子ども扱いするなよ。精神は大人なんだぞ」


「それは今関係ない。可愛いは正義」


「いったいどこでそういうこと覚えたんだよ。まあ、いいけどさ」


 彼はしばらく彼女に頭を撫でられたり、ハグされたりした。

 その間、彼女はずっとニコニコ笑っていた。

 どうやら彼と一緒にいる時が一番幸せらしい。

 彼がニイナの体を採寸し終えたのは夕方だったそうだ。

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