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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その60

 四月二十二日……午後一時……。

 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)はミノリ(吸血鬼)と共にミノリの作業部屋にいる。

 なぜここにいるのかって? それはルル(白魔女)とニイナ(殺し屋の中の殺し屋)とメルク(ハーフエルフ)のために可愛い服を作るためだ。


「うーん、女の子の可愛いって、よく分からないんだよな……」


 ナオトがそんなことを言うと、ミノリは彼の背後から彼の頬を両手で引っ張った。


「ナオトー、二度とそんなこと言わないでねー? 次そんなこと言ったら、ほっぺの肉で『三色団子』作るからねー」


「ふぁい、ふぁふぁりまひた」


 訳:はい、分かりました。


「よろしい。それじゃあ、まずはその人にどんな服を着せたら喜ぶか、イメージしてみて」


「イメージ……イメージねー」


 ルル=メタル=ホワイトは目の下にクマがある白魔女で半分吸血鬼の血が流れている。

 金属系魔法のスペシャリストであり、白魔法も使える。

 いつも黒いローブを身にまとっており、普段はおっとりしている。

 しかし、いざという時は容赦なく敵をほふる。


「あっ、じゃあ、ルルは包帯をグルグル巻きにしたような」


「却下」


「えー、せめて最後まで言わせてくれよー」


「そんなの最後まで聞かなくても分かるわよ! というか、そんなのルルにプレゼントしても喜ぶわけないじゃない!」


「えー、そうかなー?」


「真剣に考えなさいよ。また血を吸われたいの?」


「すみませんでした。えーっと、じゃあ、スクールみず」


「却下!」


「えー」


「えー、じゃないわよ! なんでコスプレさせようとするのよ!」


「いや、だって、ルルってどんな格好しても、おっとりしてそうだから、水着っぽいのでもいいかと思って」


「それはたしかにそうかもしれないけど、せめて外に出ても大丈夫な服にしなさいよ!」


「うーん、外に出ても大丈夫な服か……」


 えーっと、あんまりピシッとした服だと動きにくいから少しサイズに余裕があって可愛い服がいいよな。


「あっ、じゃあ、セーラー服」


「じゃあって何よ。じゃあって……」


「いや、なんかルルの場合、セーラー服着せて、学校に通わせたら、必然的に萌え袖になりそうだから」


「それは、あんたがルルの萌え袖を見たいだけでしょ?」


「あっ、バレた?」


「バレた? じゃないわよ! ここは異世界なんだから、あんまり目立たない服にしなさいよ」


「可愛い服を目立たせないようにするって難しくないか?」


「そういうのは部分的に可愛くするのよ、髪留めとかリボンとかで」


「なるほど。そういうことか」


 うーん、ルルにリボンか……。

 どこに付けるんだ? 髪か? それとも服?

 いや、なんかリボンよりカチューシャの方が見栄えするような気がするな。

 あとは、髪留めか。

 いや、前髪は特に気にしてなさそうだから、別にいいか。

 よし、じゃあ、猫耳付きのカチューシャとあれとあれで。


「猫耳メイド……」


「は?」


「いや、今のは冗談……」


「いいんじゃないの?」


「え?」


「ルルは性格が猫っぽいから、別に猫っぽい格好をさせても違和感ないんじゃない?」


「そ、そうかな? うーん、でも、メイド服はヒラヒラしてるから、目立つような……」


「ここは異世界なのよ? メイドが歩いてたって別に珍しくもなんともないわ」


「え? そうなのか? でも、普通メイドって外を出歩かないんじゃ」


「別にそんなことないわよ。買い出しに行ったり、必要な道具を作ってもらうために職人や道具屋に依頼したりするんだから、まちにメイドが歩いてない日は多分ないわ」


「そうか。じゃあ、ルルは猫耳メイドで決定かな?」


「別に猫耳は必要ないと思うけど……まあ、いいわ。じゃあ、次はニイナね」


「クノイチ!」


「いや、たしかにニイナは殺し屋の中の殺し屋だけど、わざわざ戦いやすい服にしなくてもいいのよ?」


「そうかな? いついかなる時にも対応できるようにしておいた方がいいと思うけどな」


「あのねー、ニイナだって殺し屋じゃなかったら普通の女の子なのよ? 可愛い服が一つもないと可哀想かわいそうよ」


 僕らはみんな……じゃなくて、えーっと、あー、まあ、そうだな。

 可愛い服が一つもないのは、悲しいよな。

 ニイナは肉体変形魔法を使える殺し屋である。

 半分吸血鬼の血が流れているため、傷の治りが早く身体能力も人離れしている。


「うーん、じゃあ、あえて晴れ着」


「あえてって何よ、あえてって」


「いや、なんか着物を着せたら、似合いそうだなーって思って」


「うーん、別に着物は悪くないんだけど、もう少し控えめにできないの?」


「え? 控えめ? あー、じゃあ、白いワンピース」


「却下」


「えー、なんでだよー」


「あのねー、ニイナはモンスターチルドレンじゃないんだから、被らないようにしてあげなさいよ」


「あっ、そうだったな。モンスターチルドレンのほとんどは白いワンピースを着てるんだったな。ん? なんか理由があった気がするんだけど、なんでだっけ?」


「魔力制御機能搭載服よ、前に言わなかった?」


「うーん、言ったような、言わなかったような」


「記憶が曖昧になってるわよ、大丈夫?」


「ああ、大丈夫だ。もう忘れない……はずだ。えーっと、じゃあ、防弾制服」


「そうそう、武装した探偵……略して『武偵ぶてい』に支給される服で……って、ダメー! ニイナには可愛い服を着せなきゃダメー!」


「えー、まあまあ可愛いと思うけどなー、防弾制服。さてと、冗談はこれくらいにして、そろそろ本気で考えよう。うーん、じゃあ、俺と同じ黒いパーカー」


「それだと、みんな嫉妬しっとするから、せめて白いパーカーにしなさい」


「あっ、そうか。それもそうだな。よし、じゃあ、最後にメルクだな」


 メルク・パラソル。

 白魔法を使えるハーフエルフ。

 容姿は大人っぽいがハーフエルフという種族は見た目と年齢が一致しない場合が多いため、実年齢は知らない方がいい。


「メルクは……そうだな。やっぱバニーかな?」


「なんで、やっぱバニーかな? なのよ」


「いや、だって体のラインがはっきり分かるから」


「その体のラインを気にしている人もいるんだから、もう少し控えめな服にしなさいよ」


「ちぇー、いいと思ったのになー。うーん、そうなると、チャイナドレスかな?」


「どうなると、チャイナドレスになるのよ。さっきより派手になってるじゃない」


「あっ、ホントだ。うっかりしてた」


「まったく。しっかりしてよ……」


「すまん、すまん。えーっと、じゃあ、ウェディングドレス」


「何? どこかにとつがせたいの?」


「いや、ほら、大人になってから一番きれいに見える服って、やっぱりウェディングドレスだろ?」


「だからって、いきなりそんなものをプレゼントされたら反応に困るでしょ」


「うーん、それもそうだな。じゃあ、それを普段でも着られるようにサイズを……」


「了解。それ以上、言わなくていいわ。それじゃあ、早速作業に取り掛かりましょうか」


 ミノリ(吸血鬼)は右手の親指の先端を噛んで血を少し出すと、それをメイド服型、パーカー型、ドレス型にした。


「まあ、さすがにメルクのドレスは戦闘時に動きづらいから、戦乙女ヴァルキリー風にしましょう」


「そ、そうだな」


 相変わらず、ミノリの血液操作は便利だな。


「細かいところは、あたしが指示するからできるだけ自分の力で作るのよ?」


「お、おう、分かった」


 ミノリ(吸血鬼)は俺がイメージしたそれらの服を作るのに必要な手順を一から説明してくれた。

 期日は『赤き雪原』に到着するまでらしい。

 まったく、こっちは初心者だってのに容赦ないな。

 まあ、やるからには全力でやらないといけないよな!

 こうして、俺の服作りが始まった。

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