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○○は不思議なアパートにやってきたようです その6

 ____気がつくと闇(やみ)の中にいた。

 サナエの時とは違うが、どうも誰かに見られているような気がする。

 ふむ。最初にサナエ(『暗黒楽園《ダークネスパラダイス》』の主)のところに行った時のように身動きが取れないわけではないようだな。

 さてと、探索するか。

 俺が一歩前に進むと、俺の目の前にそ(・)れ(・)は(・)いた……というより、あった。


「い、いったい何なんだ? これは」


 俺の目の前には数え切れないほどの『銀色(ぎんいろ)の鎖(くさり)』が蠢《うごめ》いていた……。その一つ一つがまるで何かに操(あやつ)られているかのように見えた。

 こういう類(たぐい)のものには触れない方がいいと相場(そうば)が決まっているため触れないように先を急いだ。

 太刀魚(たちうお)のようにユラユラと動いている『それは』こちらを攻撃する気はないようだったため、特に気にしなかった。

 ____もう、どれくらい歩いただろうか。自分では、かなり進んでいるつもりだが本当のところはよく分からない。


「はぁ……はぁ……ここって、夜(よる)○トンネルより、長いんじゃないか?」


 そんなことを呟《つぶや》きながら、体を引きずるように進んでいくと、目の前に『巨大(きょだい)な鎖(くさり)』が出現した。

 いくつもの鎖(くさり)の集合体がまるで一本の木のようにそびえ立っている。

 高さは……上までよく見えないが、おそらく二十メートルはあるだろう。

 俺はそんな一本の木を見ながら他に何かないか、辺りを見回した。

 しかし、自分の周囲には、ただユラユラ揺れている鎖(くさり)が無駄にあるだけだった。


「…………道を間違えたのかな? はぁ、仕方ない引き返そう」


 そう言って、その場を離れようとした時、どこからか声が聞こえた。


「人(ひと)よ……。我(わ)が力を欲するか?」


 俺はその声がどこからしたのかを瞬時に確認したが周囲に人の気配はなかった。

 今のは、幻聴……かな?


「人よ、我(われ)は先ほどから貴様(きさま)の目の前におるぞ」


 どうやらここにあるたくさんの鎖(くさり)の中に人の言葉を話せるものがいるらしい。

 声の調子(トーン)から察するに、五十~六十代の男性だろう。となると、声の主(ぬし)は……。


「この一番大きいやつが俺に話しかけてきた……のかな?」


 俺はその木(?)の方を向いて、そう言った。すると、三度(みたび)声が聞こえた。


「ご名答。我(われ)こそがこの『鎖』の【力の中心】だ。して、貴様(きさま)は、なぜこんなところにやってきたのだ?」


 俺は怯(ひる)まず答える。


「俺は『強欲の姫君』の力を解放してしまったミノリという吸血鬼を助けられる力が欲しくて、ここに来た。それ以外に理由はない!」


「ほう……。ならば、貴様はその力を得る代償(だいしょう)として、何を支払う?」


 俺は一瞬も迷うことなく、こう断言した。


「あいつを助けられるなら、俺は目や足を失っても構わない! だから俺に……お前の力をくれ!!」


 闇の中に確かに響(ひび)いたその声は『力の中心』の心にも響いた。


「ふむ。良い覚悟だ、気に入ったぞ。……では、始めるぞ」


 その直後、木の形をしていた鎖が一斉に俺めがけて飛んできた。

 そして、俺の胸骨付近で停止すると、そいつはこう言った。


「我(わ)が力は所有者(しょゆうしゃ)をも傷つける『大罪に対抗する力(アンチトリニティ)』を付与(ふよ)しているが、それでも構(かま)わないか?」


「それでミノリ(あいつ)を助けられるのなら、それで構わない!」


 それを聞いて、そいつは「ふん」と鼻で笑った。


「その言葉、忘れるでないぞ? ……では、今ここに貴様を我《われ》の主人(マスター)に任命する! 貴様、名は何というのだ?」


「俺の名前は、ナオト。『本田《ほんだ》 直人《なおと》』だ」


「よし、ではナオトよ。我を受け入れ、この力をものにしてみせろ!」


 次の瞬間、周囲にあった鎖が一気に俺の体内に侵入した。

 体の中が今にも破裂(はれつ)しそうだったが、グッとこらえた。

 俺はその場に膝《ひざ》をついて蹲《うずくま》り、今まで体験したどんな痛みより激しい痛みに耐えながら、『その力』をものにしようとした。

 だが、力をものにしようと思えば思うほど、その痛みは増していった。


「……あ……ぐっ! ……なんだよ! これ! 全然言うこと聞かない……ぞ! どう……なってんだ!」


 俺が必死に力を制御しようとするが、それは全《まった》く言うことを聞こうとしない。

 このままでは、俺の体が力に耐えきれずに中から壊れてしまう。

 ……すまない、ミノリ。

 やっぱり俺みたいなやつには、お前を助けることすら出来《でき》ないみたいだ。

 本当に少しの間だったけど、俺はお前といる時間が一番『楽しい』と感じられたよ。

 最初はわがままで、リーダー気取りで、プライドが高すぎるやつだと思った。

 でも、俺は……そんなお前のことが……。


「ねえ、あなたは、こんなところで終わってしまうの? ナオト」


 久々に聞いたその声に驚きながら、俺はこう言った。


「お前、サナエ……なのか? どう、して」


「それはね、あなたの苦しみは私の苦しみだからよ」


「はははは、意味……分かんねえよ」


「今は分からなくてもいいわ。それよりもこれから言うことをよく聞きなさい」


「な、んだ?」


 サナエは少し間を置くと話し始めた。


「その力は、あなたを縛り付けてしまうものよ。だから『制御する』ことより『つながる』ことに集中しなさい」


「どういう、ことだ?」


「そういう類(たぐい)のものは気持ちが大事なの。だから、その力であなたがどうしたいのかを具体的にイメージするの」


「イメージ?」


「そうよ。あの子を助けたい! っていう思いを形にするの!」


「俺が、ミノリを助、ける」


 その時、俺の脳内はミノリとの思い出でいっぱいになった。

 初めてうちに入れた時のこと。名前を付けた時の満足そうな顔。旅に出ようと言った時のこと……。

 それから、それから……。その時、俺はまだ、ミノリとやっていないことがたくさんあることに気づいた。俺は力を振り絞ると、ゆっくり立ち上がった。

 その後、拳を握りしめて、上を向くと、思い切り叫んだ。


「こんな……ところで……! 終わって……! たまるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 その時、自分の体が少し若返ったような気がした。体から力が溢れてくるその感覚はまさしく『コ○モ』であった。


「さすがね……ナオト。それじゃあ、またね」


 サナエはそう言うと、すぐにいなくなってしまった。今度会ったら、礼を言おうと心に決めた俺は、自分の体を確認した。

 全身、白い光に包まれていて、背中から鎖が十本も生えている。

 体は軽くなっており、髪は白、目はミノリほどではないが赤くなっていた。(それは近くに手鏡が落ちていたからできた。おそらくサナエの仕業《しわざ》だろう)

 ある程度、自分の体の変化を把握した後、俺は『力の中心』に語りかけた。


「なあ、この力の名前ってあるのか?」


「そんなものはない。好きに名付けるがいい」


「うーん、じゃあ『大罪の力を封印する鎖《トリニティバインドチェイン》』とかどうだ?」


「ふむ。ならば、我(われ)のことは『力の中心(センター)』と呼ぶがいい」


「分かった。で、ここから出るにはどうすればいいんだ?」


「『電光石火(ジェットアクセル)』と言えば、ひとっ飛びだ」


「なるほど、じゃあさっそく」


 鎖を腕ぐらいの長さにした状態で大きく深呼吸すると、右足を少し後ろに下げ、スタートの構えをした。(スタンディングスタートというらしい)

 そしてスタートと同時にこう叫んだ。


「『電光石火(ジェットアクセル)』!!」


 闇の中を稲妻《いなづま》の如(ごと)く飛行していると外から差し込んでいる光が見えたため、シオリ(白髪ロングの獣人《ネコ》)に聞こえるように、こう言った。


「シオリ! 発射準備だ!!」


 耳をヒクヒクと動かしながら彼の声を聞いていたシオリは、ミノリ(吸血鬼)がいる方向に壺(つぼ)を傾けると『重力制御《グラビティコントロール》』を発動して、壺《つぼ》を安定させた。

 つまり『人間ロケットランチャー』である。


「発射五秒前! 五・四・三・二・一……」


 シオリがそこまで数えると、最後に全員でこう言った。


『ゼロ!!』


 その直後、彼は壺(つぼ)の中から出現し、マナミ(茶髪ショートの獣人《ネコ》)の作った結界にツキネ(変身型スライム)が不思議な水で強化したものを容易(ようい)に貫《つらぬ》いた。

 そして、そのままミノリ目掛けて一直線に進むと、台風のような渦の中心に突入した。

 待ってろよ! ミノリ! 今、助けてやるからな!

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