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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その50

 四月二十一日……午後三時五十分……。

 巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室では『個別面談』が行われていた……のだが、ナオトが気を失ってしまったため、一時中断している。


「……う……うーん……こ……ここは……」


 闇しかない空間……。見覚えのある景色……。

 彼は近くに誰かいるのに気づくと、そのものの名を呼んだ。


「そこにいるんだろ? サナエ」


 彼がそう言うと、目には見えない何かが彼の方へ近づき、彼の手をにぎった。


「ええ、いるわよ。ここに……」


 サナエは、ここ『暗黒楽園ダークネスパラダイス』のぬしである。

 はっきり分かっているのは、それくらい。

 あとは全て謎に包まれている。

 いつからここにいて、どのように生まれたのかもよく分からない。

 しかし、敵対関係にあるわけではない。彼がねむる以外で意識を失った時、彼はここに来る。

 ここでは時間の進み方が不安定なため、現実世界に戻った時、かなりの誤差がある。


「……お前の手って……小さいよな……」


「え? あー、まあ、そうね……」


「……なあ、サナエ」


「……何?」


「その……お前は俺の何なんだ?」


「それは、今答えないといけないことなの?」


「ああ、できれば、そうしてくれ」


「……そうね。今はまだその時じゃないって言ったら怒る?」


「怒りはしないよ。けど……」


「けど?」


「少し不安になる……かな」


「どうして?」


「……それは、まあ……あれだよ。信じてた相手に裏切られるのは一番(つら)いからだよ」


「私がナオトを裏切って何かメリットがあると思う?」


「……ある……と思う……」


たとえば?」


「……俺の体を乗っ取れば、あらゆる世界を簡単に支配できるからだ」


「そんなこと、私がすると思う?」


「分からない……」


「分からない?」


「だって、そうだろ? 俺はお前のこと何にも知らないのに、お前は俺のことをよく知っているような感じで話すから、不安で仕方ないんだよ」


「それはつまり、私が何者でナオトの何なのかを知るまで、ナオトは私を警戒するってこと?」


「……警戒……というより、半信半疑の方が妥当かな」


「……そう……。だけど、私がナオトにそれを言おうとすると、それはただの雑音になってしまうし、筆談をしようとしても、ナオトには黒く塗りつぶされているように見える。手話・光信号・手旗信号・モールス信号・狼煙のろし・点字などを使っても、見えない何かに妨害されるから、ナオトが私のことを知る手段は今のところないわ」


「……じゃあ、俺は一生、得体の知れない存在と会わないといけないのか?」


「……一生ではないわ……」


「どうして、そう言い切れるんだ?」


「それは……だからよ」


「え? なんだって?」


「……今のが妨害よ」


「え? 今のが?」


「ええ、そうよ。雑音が聞こえるか、もしくは何も聞こえない。ねえ、ナオトにはどう聞こえた?」


「えっと、『それは……』の後に何を言ったのか分からなかった」


「そう……。まだその段階なのね……」


「え? 今なんか言ったか?」


「いいえ、何でもないわ。それより、早くあの子たちのところへ戻ってあげたら? みんな心配してるわよ」


「……いや、せっかくだから、お前と少し話したい」


「私なんかと話すより、あの子たちと話した方が身のためよ」


「いや、俺はただ自分のことを病原菌か何かだと思ってるやつを放っておけないだけだ」


「……そう。なら、少し私の実験に付き合ってちょうだい」


「……実験?」


「ええ、そうよ。後遺症こういしょうは残らないようにするけど、完全に安全なものじゃないから別にやらなくてもいいわよ」


「……いや、やるよ。向こうに戻ったらできないことだし、お前がそんなことを言い出すとは思わなかったから少し興味がある」


「そう……。じゃあ、しばらくじっとしててね」


「おう、分かった」


 彼がしばらくその場で待機していると、サナエは彼の腹の上に乗った。


「な、なあ、サナエ」


「ん? なあに?」


「その……お前は今、どこにいるんだ?」


「さぁ? どこでしょう?」


「とぼけるな! どうして俺の腹の上に座ってるんだ!」


「それは実験をする上で必要なことだからよ」


「そ、そうなのか?」


「ええ、そうよ」


「うーん、なら仕方ないか……」


「そうよ。これは仕方がないことよ。だから……しばらく動かないでね?」


 サナエはそう言うと、彼のひたいに手を当てた。


「……な、なあ、サナエ」


「ん? なあに?」


「ちなみに、その実験の内容って、どういうものなんだ?」


「それは……もうじき分かるわ」


「そ、そうか……。けど、ちょっと怖いな……」


「大丈夫よ。数秒で終わるから……」


「本当だろうな……」


「ええ、本当よ……」


「……そうか……。じゃあ、頼んだぞ」


「ええ、任せといて」


 彼女はそう言うと、実験を始めた……。


「記憶共有……開始……」


「……え? ちょ、ちょっと待て! お前、今なんて言った!」


 しかし、もう遅かった。

 彼の脳内に誰かの記憶が流れ込んできたからだ。

 彼には、なぜサナエがそんなことをしたのか見当もつかなかったが、一つだけ分かったことがあった。

 それは……自分は以前にも……サナエと会ったことがあるということだった。

 数秒後……サナエは彼から離れた。

 サナエは彼が困惑こんわくしているのに気づくと、こう言った。


「今のは、ほんの一部にすぎないけど、私がここに来る前の記憶よ」


「……サナエがここに来る前の……記憶?」


「ええ、そうよ」


「……俺の頭の中に流れ込んできたものは全て本当にあった出来事だって言うのか?」


「ええ、その通りよ。まあ、私がここに来なければ、こんなことにはならなかったでしょうね」


「……だとしたら……だとしたら、お前は……」


「時間切れよ、ナオト。実験に付き合ってくれてありがとう。じゃあ、またね」


「なっ……! おい、ちょっと待て! 俺はまだお前と話したいことが……」


 彼が最後まで言い終わる前に彼の意識はとおのいていった。

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