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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その44

「……ナオトー、大丈夫ー?」


「え? 何がだ?」


「ナオトは気づいてないかもしれないけど、ナオトの目の下、私の髪の色と同じくらい真っ赤だよ?」


「え? そうなのか?」


「うん、そうだよ」


「そっか……。そんなに泣いてたのか……」


「え? なんか言った?」


「いや、なんでもない。それより、ほら……あれだ。自己紹介をしてくれないか?」


「あー、うん、そうだね。じゃあ、自己紹介しちゃうよー」


「おう、よろしく頼む」


 彼がそう言うと、ヒバリはスッと立ち上がった。


「私は『四聖獣しせいじゅう』の一体『朱雀すざく』こと『ヒバリ』だよー! チャームポイントはこの赤くて長い髪と赤い瞳と全身の七割くらいをおおっている、この赤い包帯だよー。よろしくねー」


 彼女がそう言うと、彼はパチパチと拍手をした。


「ありがとう、ヒバリ。とても分かりやすかったよ。ところでその包帯はいつ取るんだ?」


「うーん、まあ、あえて言うなら……エッチなことをする時……かな?」


「……ま、まあ、そうだよなー。さすがに包帯を巻いたまま、そんなことしないよなー」


 彼が苦笑いをすると、彼女は彼の目の前に移動した。


「……けど、ナオトが望むのなら、包帯を体に巻いたまま、やってあげても……いいよ?」


 ナオトのハートに、クリーンヒット。

 彼は今すぐ彼女を抱きしめたいと思ったが、そんなことをすれば、自分にその気があると思われてしまう。

 彼はそれを未然に防ぐために、自分の頬を叩いた。


「ナ、ナオト! 大丈夫!?」


 心配そうに彼の頬に触れるヒバリ。


「あ、ああ、大丈夫だ。ただ、を殺しただけだから。あははははは」


「そうなの? なら、いいんだけど……」


 彼は咳払せきばらいをすると、彼女にこう言った。


「それじゃあ、そろそろ本題に入ろうか。なあ、ヒバリ」


「なあに?」


「最近、困ってることとかないか?」


「うん、ないよー」


「そうか……。じゃあ、俺に何かしてほしいことはあるか?」


「うーん、そうだねー。じゃあ、ナオトの唾液だえきちょうだーい」


「……え?」


 えーっと、ヒバリは今、なんて言ったんだ?

 俺の耳には俺の唾液が欲しいと聞こえたのだが。


「な、なあ、ヒバリ……」


「んー? なあにー?」


「お前、今さっき……俺の唾液が欲しいとか言わなかったか?」


「うん、言ったよ、はっきりと」


「えっと、それって、本気……なのか?」


「うん、本気だよー」


 お、おかしい……。今までヒバリにそんな性癖せいへきはなかったはずだ……。

 それなのに、どうして……。

 も、もしかして、俺があまり構ってやらなかったせいで、開けてはいけない扉を開けてしまったのか?

 それとも、ただ単に欲求不満なだけなのか?

 うーん、よく分からん。

 けど、このまま何もしないとヒバリをガッカリさせてしまうな……。

 彼は少しの間、これからどうするかについて考えていた。

 その間、ヒバリは彼の背中にしがみついて、彼の心臓の音を聞いていた。

 その時、ヒバリの体内にある変なスイッチがオンになってしまった。


「……ねえ、ナオト」


「ん? なんだ?」


「私ね、さっきから体が熱いの……」


「な、なんだって! それは大変だ! えっと……と、とにかくお前は早く横になれ!」


「うん、分かった……」


 彼女はゆっくり横になると、自分の右隣みぎどなりに彼が来るように、畳をポンポンと軽く叩いた。


「ナオトー、添い寝してー」


「いや、俺は今から水を取りに行くのだが……」


「そんなのあとでいいよー。ほら、早くー」


「……わ、分かった」


 彼はしぶしぶ彼女のとなりに移動すると、ゆっくり横になった。

 その直後、彼女は彼に抱きついた。


「お、おい、ヒバリ。熱があるんだから、ちゃんと横になれよ」


「えー、そんなー。この方が早く良くなりそうなのにー」


 彼は病人の言うことは、ある程度聞いてやる性格たちなので、仕方なく彼女の望みを叶えてやることにした。


「……分かった。元気になるまで、こうしててやるよ」


「わーい、ありがとう、ナオトー。大好きー」


 彼女は彼をギュッと抱きしめると、彼の胸に顔をこすり付けた。


「まったく……ヒバリは甘えん坊さんだな」


「だってー、ナオトのこと大好きなんだもん。甘えたくなるのは当然だよー」


「そういうもの……なのか?」


「うん、そうだよー。ずーっとこうしててもらいたいくらいだよー」


 ヒバリは本当に俺のことが好きなんだな……。

 けど、どうしてここまで俺のことをいてくれるのかな……。

 俺にそんな特殊能力は、ないはずなのに……。


「……ねえ、ナオト」


「ん? なんだ?」


「……早くちょうだい」


「え? な、何のことだ?」


「とぼけないでよー。さっき私が言ったこと、忘れてるわけないよねー?」


「うっ……。そ、それは……」


 彼が彼女から目をらすと、彼女は彼の目の前に移動して、彼の頬に手をえた。


「……ねえ、ナオト。私のこと、好き?」


「え? あ、ああ、好きだぞ」


「じゃあ、早くちょうだい」


「い、いや、その……それとこれとは話が違うというか、なんというか……」


「じゃあ、私と契約する?」


「そ、それって、まさかミサキの時と同じことをするとか言うんじゃ……」


 ミサキは『四聖獣しせいじゅう』の一体『玄武げんぶ』である。


「ううん、違うよ。けど、それよりもっと痛いことをするよ」


「もっと痛いこと?」


「うん、そうだよ。ナオトは私に血を与える。私はナオトに私の炎を分け与えるの」


「それって、つまり、俺がその炎に耐えきれなかったら……」


「うん、多分、消し炭になるね」


「う、うそだろ。そんなにすごいのか? お前の炎って」


「うん、すごいよ。だって、たまに制御できなくなりそうになるんだもん」


「それを食い止める方法はないのか? ……って、まさか、それって……」


「うん、そうだよ。私のマスターであるナオトの唾液を体内に取り込めば、少しはマシになるよ」


「そう、だったのか……。ごめんな、察しが悪くて」


「ううん、私の方こそ、ごめんね。伝えるの下手へたで」


「そんなことはない! お前はちゃんと俺に気づいてもらおうと努力していた! それなのに、俺は……」


 彼が歯を食いしばると、彼女は微笑みを浮かべた。


「あまり自分を責めないで。私は気にしてないから」


「……けど、俺は……」


「ナオトは自分のことが許せないんだね。けど、私はナオトの唾液をもらえれば、それで……」


「分かった。じゃあ、口を開けてくれ……」


 彼はそう言うと、彼女を抱き寄せた。


「え? ちょ、ちょっと、いきなりそんなにされたら……私……」


 彼は彼女のひたいに自分のひたいを重ね合わせると、静かにこう言った。


「少しの間だけでいいから、俺の指示に従ってくれ。早めに終わらせるから」


「う、うん、分かった。じゃあ……優しくしてね?」


「……あまり期待はするな。俺もどこまで理性をたもてるか分からないから……」


 彼はそう言うと、彼女に仰向けになるよううながした。

 彼女は彼が自分の上におおかぶさるさまを見ながら、彼に気づかれないように息を荒くさせていた。

 彼が彼女の口の中に人差し指を入れると、彼はその中にある真っ赤な物体を人差し指で軽く触れた。

 その後、彼女はそれを口外に突き出した。ヒクヒクと小刻みに震えるそれは、別の生き物のようでかわいらしかった。

 彼は自分の舌を何度か軽くんで、唾液を口内にめると、彼女に目を閉じるよう指示した。

 彼女はコクリとうなずくと、目を閉じた。暗闇の中、彼女は自分に顔を近づけてくる彼の体温をその身で感じていた。

 彼は彼女の舌をくちびるで優しくはさむと、口内にある透明な液体を彼女の舌へと流し始めた。

 彼が彼女の舌をつたって、彼女の口内に入っていくそれを見ていると、彼女を自分色に染めているような気分になった。

 彼はそれを三十秒以内に済ませると、彼女から離れようとした。

 しかし、いつのまにか目を開いた彼女の物寂しそうな眼差しが、彼をその場から離れることができないようにしてしまったため、彼はその場にとどまることにした。

 彼が彼女の口内に、それを入れるたびに彼女は幸せそうな表情を浮かべていた……。


「……ありがとう、ナオト。とってもおいしかったよ」


「そうか……。それは良かった」


 二人はしばらくの間、抱きしめ合っていた。

 その行為に特に深い意味はなかったが、二人はとても幸せそうな表情を浮かべていた。

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