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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その43

「……よう、ミカン。最近どうだ?」


「ワタシハ、ゲンキ、ダヨ。ケド、マタ、ナオトノ、ナカニ、ハイリタイ、ナ」


 オレンジ色の長髪とピンク色の瞳と背中に生えている四枚の天使の翼と先端がドリルになっているシッポが特徴的な美少女……いや、美幼女『ミカン』がそう言うと、彼は彼女に手招きをした。


「ナオト、ドウシタノ? ワタシ、ナニカ、オカシナコト、イッタ?」


「いいから、こっちに来い。というか、俺のとなりに座れ」


「……? ワカッタ」


 彼女は疑問符を浮かべながら、彼の左隣ひだりどなりに座った。


「あのなー、ミカン。ミカンは女の子なんだから、そういうことは、あんまり言わない方がいいんだぞ?」


「ソウイウコトッテ、ドウイウコト?」


「えっと……それはその……お、俺の中に入りたいとか、俺と一つになりたいとか……とにかくそういうことだ」


「ドウシテ、イッタラ、ダメナノ? ホントウノ、コトナノニ……」


 ミカンは数日前まで彼と合体していた。

 モンスターチルドレンと人が合体できる確率は極めて低いのだが、二人はそれを可能にした。

 その名も『強制合体フォースコネクト』。


「まあ、それはそうなんだけどよ……。その……なんというか、とにかく人前でそういうことは言っちゃダメなんだ。分かるか?」


「ウーン、ヨク、ワカラナイ。ケド、ナオトガ、ソウイウノナラ、ワタシハ、ソレニ、シタガウ」


「ありがとう、ミカン。ミカンはかしこいなー」


 彼がそう言いながら、彼女の頭を撫でてやると、彼女はとても満足そうな表情を浮かべた。


「エヘヘへ、ホメラレチャッター」


 その時、彼女の中で何かがはじけ飛んだ。


「ナオトー、スキー!」


 彼女はそう言いながら、彼に抱きつくと挨拶あいさつ代わりに左耳を甘噛みした。


「なっ! お、おい、ミカン……。お前、いきなり何を……」


 彼が彼女から離れようとした時、彼女は彼を押し倒した。

 そして、例のシッポで彼をぐるぐる巻きにした。


「お、おい、ミカン。これはいったい……」


 彼がそう言うと、彼女は舌()めずりしながら、彼の名前を呼んだ。


「……ナ、ナオトー」


「お、おう、なんだ?」


「ワタシ……ナンダカ……カラダガ、トッテモ、アツイノ……。ダカラ……ドウニカシテー」


「ど、どうにかしてと言われてもな……。うーん、冷却シートでもあれば、いいんだけど……」


 彼女はドリルを彼の口にスッポリ入るくらいの太さにすると、それをナオトの口元に移動させた。


「お、おい、ミカン。いったい何をする気なんだ?」


 ミカンは息(づか)いをあらくさせながら、彼にこう言った。


「ソレハネー……ワタシノ、コレヲ、ナオトニ、クワエテ、モラウンダヨー」


 彼はそれを聞くと、ミカンにこうたずねた。


「あのー、ミカンさん。それは物理的な意味でしょうか? それとも冗談でしょうか?」


 その直後、彼女は彼のひたいに優しくキスをした。


「……イワナイト、ワカラナイノー?」


「え……っと。冗談……だよな? だって、こんなの入るわけ……」


「ダイジョウブダヨー、イタイノハ、サイショダケダカラー」


「そういうのは普通、男が言うセリフだろ! じゃなくて、それは勘弁してくれえええええええええ!!」


 彼がイモムシのように飛びねて、彼女のひたい頭突ずつきをすると、彼女は正気を取り戻した。


「……アレ? ワタシ、ドウシテ、ナオトヲ、シッポデ、グルグルマキニ、シテルノ?」


 彼はホッと胸を撫で下ろすと、彼女にこう言った。


「おーい、ミカンー。早く俺を解放してくれー」


「アッ、ウン、ソウダネ……。ゴメンネ、ナオト」


 彼女はそう言うと、彼を解放した。


「いや、別にいいよ。まあ、間一髪だったけど……」


「イマ、ナニカ、イッター?」


「いや、なんでもないよ。それより、自己紹介……まだしてないよな?」


「ウン、シテナイヨ」


「じゃあ、してくれ」


「ウン、ワカッタ」


 彼女はそう言うと、スッと立ち上がった。


「ワタシハ、天使型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 四『ミカン』。『ケンカ戦国チャンピオンシップ』デ、ナオトヲ、コロシカケタケド、ワタシノ、固有魔法デ、ナントカ、ナッタヨ。チャームポイントハ、シッポト、ツバサ……ダヨ。ヨロシクネ」


 彼女がそう言うと、彼はパチパチと拍手をした。


「いやあ、良かったよ。けど、なんかサラッと恐ろしいこと言ってなかったか?」


「キ、キノセイダヨ……」


「そうかなー? まあ、いいや。さてと、それじゃあ、本題に入るぞ。なあ、ミカン」


「ナニ?」


「最近、困ってることとか……」


「ナイ」


「えっと、じゃあ、俺にしてほしいことは……」


「ワタシノ、オモチャニ、ナッテホシイ」


「え? おもちゃ?」


「ウン、オモチャ」


「えっと、それは……どういう意味だ?」


「ソレハ……コウイウコト……ダヨ……」


 彼女はそう言いながら、彼をギュッと抱きしめた。

 それは、ぬいぐるみの頭を撫でる時と同じような撫で方だった。


「ナオトハ、イツモ、ガンバッテルカラ、コレハ、ソノ、オレイ……ダヨ」


「いや、俺は別に頑張ってなんか……」


「オモチャハ、ダマッテテ……」


「は、はい……」


「……ヨシヨシ、ナオトハ、エライネー。イイコ、イイコー」


 な、なんだ? これ。なんかどんどん心がいやされていくぞ。


「ヨーシ、ヨシ。イイコ、イイコー」


 あー、これは……おふくろの時と同じだ。

 俺を優しく包み込んでくれるおふくろ抱擁ほうようだ。


「ナオトー、アンマリ、ムチャシナイデネー」


「…………」


 あー、もう……どうして涙が出てくるんだよ……。

 悲しくなんかないのに……どうして……。


「アレー? オモチャナノニ、ナイテルノー? ショウガナイナー」


 彼女はそう言うと、彼の頬をつたっている涙をペロリと舌で舐めとった。


「……!!」


 お、おいおい、これってさっき俺がフィアにやったやつじゃないか! あー、まさしく因果応報だなー。うんうん。


「ナオトー、ダイジョウブダヨー。ワタシハ、ココニ、イルヨー」


 彼はうんうんとうなずくと、彼女を強く抱きしめた。


「ナキタイトキハ、イツデモ、ナイテイインダヨー」


「…………」


 彼は彼女の左肩に両目を押し当てると、小刻みに体を震わせながら、静かに泣き始めた。


「ヨーシ、ヨシ。ヨク、ガンバッタネー」


 彼女は彼の頭と背中をポンポンと撫でながら、彼が泣き止むまで、ずっと彼をなぐさめていた。

 それはまるで、彼の本当の母親のように優しく彼を包み込んでいた。

 彼女は彼が悲しみに耐えきれなくならないようにギュッと抱きしめて、彼を安心させていた。

 天使の抱擁ほうようによる心身のケアは、今のナオトにとって必要不可欠なものなのかもしれない。

 現に今、彼の心身はどんどんいやされているのだから。

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