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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その40

 メルク・パラソル(灰色髮ショートのハーフエルフ)は寝室に入ると、彼に抱きついた。


「……ナオトさん……」


「な、なんだよ、急に……。そんなに俺と話したかったのか?」


 彼が自分より背の高い彼女の頭を撫でていると、彼女は彼にこう言った。


「とぼけないでください。ナオトさんは、ここから出ていくつもりなんですよね?」


「……いや、決してそんなことは……」


「じゃあ、どうしてみなさんに自己紹介させるんですか? 今さら必要ないでしょう?」


「そ、それはその……そ、そういう気分なんだよ」


「……ナオトさん。あなたはうそをつく時、少し悲しそうな顔をするのを知っていますか?」


「……え?」


うそつきは泥棒どろぼうの始まりです。なので、今すぐ白状してください。そうすれば、許してあげます」


 彼女は真剣な眼差まなざしで彼の目をじっと見つめた。

 彼は少しの間、思考を巡らせていたが、やがて大きなため息をいた。


「……分かった、白状するよ……。たしかに俺はみんなと話をした後、ここから出ていくつもりだ。けど、それはまだ確定していない。なぜだか分かるか?」


「あなたがここからいなくなったら、みなさんがあなたを追いかけるかもしれないからですか?」


「まあ、それもあるが……。あいつらは、俺なんかと一緒にいるべきじゃないんだよ。俺なんかにしばられずに伸び伸びと自由に生きる道を選んでほしい。だから、俺はここから出ていくつもりでいるんだよ」


 彼女は彼の言葉を聞き終わると、歯ぎしりをした。

 そして、彼のほおに平手打ちをした。


「……バカですか、あなたは。あの子たちにとって、あなたはかけがえのない存在なんですよ? あなたが出ていったら、どうなるかくらい分かるでしょう?」


 彼はヒリヒリするほおに手を当てながら、彼女にこう言った。


「そんなこと分かってるよ。けど、あいつらは俺が思っている以上に大人びてる。だから、そろそろ独り立ちさせてやった方が将来的に……」


 彼女は彼の襟首えりくびつかむと、彼のひたいに『ずつき』をした。


「あの子たちの思い描く未来に、あなたは必要不可欠なんですよ! それにあの子たちはまだ子どもです! ちゃんと見守ってあげないと、すぐに死んでしまいます! ですから、ここから出ていこうとしないでください!!」


 彼女がそう言うと、彼はこうつぶやいた。


「……お前がいれば……大丈夫だと……思った……。だから、俺は……出ていくことにしたんだよ……」


 彼女は彼を押し倒すと、彼の首をめた。


「答えなさい! 『本田ほんだ 直人なおと』!! あなたにとって、私たちは何なんですか! お荷物ですか! それともかせですか!」


「……どれでもない。お前らは俺にとって大切な家族だ」


「なら! ずっと家族でいてください! あなたの命がきる、その時まで!!」


「……無茶言うなよ。元の世界に帰ったら、ステキな人と結婚して、幸せな家庭を持つつもりなんだから」


「あなたのようなロリコンと結婚してくれる女性がいると思いますか! おさない女の子にしか興味がない、ド変態を好きになってくれると思いますか!」


「……世界のどこかには……いるんじゃないのかな」


「いい加減にしてください! どうしてそんなこと言うんですか! 私たちが何かしたのなら謝りますから、出ていこうとしないでくださいよ……」


 彼のほおに彼女の涙が落ちる。

 彼は無意識のうちに、彼女の目尻めじりに手を伸ばして、それを指でぬぐった。


「……なあ、メルク」


「……グスッ……はい、なんですか?」


「俺、ここにいていいのかな?」


「……そんなの当たり前じゃないですか……。ずーっと、ここにいてください」


「……そうか……。俺はここにいていいのか……。けど、俺はいずれ元の世界に帰らなくちゃいけないから、ずっとは無理だな」


「だとしても、それまではここにいてください」


「……そう、だな。そうだよな。今はここが俺たちの家だもんな」


「はい、その通りです。だから、もう出ていこうとしないでくださいね?」


「分かった。もう二度とそんなことしないよ」


「……約束できますか?」


「ああ、約束するよ。だから、もう泣かないでくれ。俺が泣かせたみたいになるから」


「だいたい、そんな感じですけどね……。まあ、いつものナオトさんに戻ってくれたので、良しとしましょう」


 彼女はそう言うと、彼をギュッと抱きしめた。

 泣き顔を見せたくないからなのか、それとも彼に甘えたかったからなのかはよく分からなかったが、彼は彼女が落ち着くまで、ずっと頭を撫でていた……。

 彼女が心を落ち着かせると、彼は申し訳なさそうにこう言った。


「……な、なあ、メルク。すまないが、自己紹介してくれないか?」


「……え? どうしてですか?」


「いや、その……今のところ全員やってるから……」


「私だけしないのはおかしい……。そういうことですね?」


「ま、まあ、そういうことだ」


 彼女はニッコリ笑うと、彼の両頬をつねった。


「な、なんだよ……」


「いいえ、別に何でもないです。では、自己紹介しますね」


「お、おう、よろしく頼むぞ」


「はい、任せてください。コホン……。えー、私はハーフエルフ族の『メルク・パラソル』です。白魔法が使えます。白魔法は発想次第であらゆる用途に使えるので、とても便利な魔法です。ナオトさんからもらったこの名前は、一生大切にします。終わります」


 彼は彼女が自己紹介を終えると、パチパチと拍手をした。


「いやあ、なんか白魔法の説明の方が印象に残ったけど、とてもいい自己紹介だったよ。ありがとな、メルク」


「いえいえ、これくらいお安い御用ごようですよ。えっと、じゃあ、私のお願いを聞いてもらえますか?」


「お願い? あー、俺にしてほしいことか」


「はい、そうです」


「えっと、メルクは俺に何をしてほしいんだ?」


「服を買ってください」


「……え? 服?」


「はい、そうです。服です」


「えっと、それはお前にか? それとも他のやつにか?」


「いいえ、黒いローブをまとっている人たち全員に……です」


「な、なるほど。つまり、もっと女の子らしい服を着せてやりたい……ということだな?」


「はい、その通りです」


「じゃあ、お前とルルとニイナに買ってやればいいんだな?」


「そういうことです。なので、目的地に着く前にどこかのまちに立ち寄って……」


 その時、彼は彼女の言葉をさえぎった。


「なあ、メルク」


「はい、なんですか?」


「その……俺が作るのはダメか?」


「え? ナオトさんって、服作れるんですか?」


「いーや、まったく……。けど、ミノリから教わればいいかなって……」


「なるほど。それはいい考えですね。では、そうしますか?」


「まあ、ミノリが教えてくれるかどうかによるけどな」


 その直後、寝室とお茶の間をへだてているふすまが勢いよく開かれた……。

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