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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その38

 四月二十一日……午後一時……。

 巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室では『個別面談』が行われている……。(昼ごはんは、スパゲッティとミックスサラダと麦茶だった)


「よし、じゃあ、午後の部を始めるぞー。えーっと、次は……」


 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が最後まで言い終わる前に、カリン(聖獣王せいじゅうおう)が手をげた。


「はいはいはいはーい! 次は私の番だと思いまーす!」


 その直後、お茶の間に沈黙が流れた。


「な、なによ。私、なんかおかしなこと言った?」


 彼女が疑問符を浮かべると、ナオトは彼女を寝室に連れ込んだ。


「ちょ、ちょっとナオト! いきなり何するのよ!」


 彼女が彼の手を振り払うと、彼は深呼吸をした。


「……カリン、お前は性格も髪型もしゃべり方もミノリに似ている。だから、さっきのはその……ミノリと勘違いされたんだよ」


「え? そうなの?」


「ああ、そうだ。だから、あまり気にするな」


「そうよね。いちいちそんなことでクヨクヨしてたらダメよね! 教えてくれてありがとう、ナオト!」


 カリンはニコッと笑うと、スッと座った。(女の子座りで)


「どういたしまして。それじゃあ、自己紹介してくれ」


 彼はそう言いながら、あぐらをかいて座った。


「分かったわ。じゃあ、始めるわよ」


 カリンはそう言うと、スッと立ち上がった。


「私の名前は『カリン』。『黄竜こうりゅう』と『麒麟きりん』と『いん』と『よう』の力を持つ『聖獣王せいじゅうおう』よ! チャームポイントは『四聖獣しせいじゅう』もひるませることができる銀色のひとみと王の風格を表している神々(こうごう)しい金色の髪よ! え? どうしてツインテールなのかって? えっと、それは……そ、そう! 戦いの時に便利だからよ! むちみたいにしなやかに動くから、とってもオススメよ! ……以上!!」


 カリンが自己紹介を終えると、彼はパチパチと拍手をした。


「いやあ、なんかチャームポイント言う時、イキイキしてたな」


「ふふん、ま、まあ、私にかかれば、あれくらいどうってことないわよ」


 彼女が自慢げに話している時、彼はこう思っていた。もしも、ミノリ(吸血鬼)が金髪だったら、あれ以上のことを言いそうだな……と。


「さてと……それじゃあ、本題に入ろうか。なあ、カリン」


「んー? なあにー?」


「最近困ってることとかないか?」


「うーん、そうね……。今のところはない……かな」


「そうか……。じゃあ、俺にしてほしいことはないか?」


「……うーん、たくさんあって選べないわ」


「じゃあ、その中で一番、俺にしてもらいたいことはなんだ?」


「……そうね……。じゃあ……『耳かき』して」


「え? 耳かき?」


「ええ、そうよ。私の耳をきれいにしてちょうだい」


「うーんと、それは耳の外もか?」


「ええ」


「そうか……。じゃあ、耳かき取ってく……」


 彼が耳かきを取りに行こうとした時、彼女は『黄竜こうりゅう』と『麒麟きりん』の力で『耳かき』を作った。


「ナオト、これ使って」


「え? これって『耳かき』……だよな?」


「ええ、そうよ。たった今、私の力で作ったものよ」


「そんなことできるのか……。カリンはすごいな」


「えへへへ、それほどでもー」


 カリンがニコニコ笑っていると、彼は正座をした。


「よし、じゃあ、ここに頭を乗せてくれ」


 彼がポンポンと自分の太ももを叩くと、カリンはモジモジしながら、彼の太ももに頭を乗せた。


「そ、それじゃあ、失礼しまーす」


 彼は彼女から『耳かき』を受け取ると、こんな質問をした。


「なあ、カリン。左耳と右耳……どっちから先にされたい?」


 カリンは少し考えると、そのままの体勢でこう言った。


「右耳……からにして」


「お、おう、分かった」


 彼女が急にしおらしくなった理由は分からなかったが、余計な詮索せんさくをしたら彼女を困らせてしまうかもしれないと思った彼は、それ以上何も言わなかった。


「それじゃあ、始めるぞー」


「……う、うん……」


 カリンはただいま壁の方を見ている。

 壁についている小さなシミをかぞえている。

 ハエトリグモが静止と急加速を繰り返しているのを見ている。

 彼に右耳をいいように……もとい、右耳をきれいにしてもらっていることなど、一切考えていない。

 ましてや、それで感じてなんかな……い。


「……あっ」


「おっと、痛かったか?」


「う……ううん、続けて……」


「お、おう、分かった」


 彼女は彼が薄々気づいているかもしれないと思いながら、床を見ている。

 実は彼女、耳がとても敏感なのである。

 それこそ、ナオト以上に……。

 だから彼に悟られないようにできるだけ声を出さないようにしているのである。


「……んっ……あっ……きゃ……くっ……ひゃん」


 実は彼……彼女の耳に触れた時から気づいていた。

 彼女の耳がとても敏感であることに……。

 どうして分かったのかは分からないが、きっと同じ体質だからだろう。

 彼は彼女の耳を餃子ぎょうざの皮に水をる時のように優しく耳掃除をしていた……。


「カリン。右耳、終わったぞ」


「あ……うん……じゃあ……そっち……向くわ……」


「お、おう……」


 カリンの顔がナオトのお腹の方に向く。

 その直後、彼女は別のことを考えようとした。

 しかし、目の前に彼のお腹があるため、彼のことしか考えられない状況におちいった。

 今すぐ、目の前にある黒いパーカーをめくりたい。

 そんな衝動にられてしまった彼女は、ゆっくりと彼の黒いパーカーに手を伸ばし始めた。


「なあ、カリン」


「にゃ……にゃに!?」


 急に自分の名前を呼ばれたせいか、おかしな返事をしてしまったカリン。


「あのさ、俺、今も母親に耳かきしてもらってるんだけど、それっておかしいかな?」


 彼女は彼が自分のおかしな返事について何もいてこなかったので、ほっと胸を撫で下ろした。


「うーん、まあ、人それぞれなんじゃない?」


「……そうか……。そう、だよな……。人それぞれだよな……」


 彼がそうつぶやくのを近くで聞いていたカリンは、黒いパーカーから手を遠ざけた。


「そうよ、人それぞれよ。だから、あまり気にしないで」


「うん、そうするよ。ありがとう、カリン」


「……どういたしまして」


 耳かき……完了……。


「よし、耳かき終了……っと。なあ、カリン。悪いけど、ライカを呼んできてくれな……」


「……スゥー……スゥー……」


 彼は幸せそうな顔をしているカリンを起こさないように、そっとお姫様抱っこすると、となりの部屋まで運んだ。

 その後、ライカに手招きした。

 ライカはコクリとうなずくと、彼の後に続いた。

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