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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その29

 四月二十一日……朝七時三十分……。

 巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室では『個別面談』が行われている……。


「なんかお前と話すの久しぶりだな」


 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)がそう言うと、ツキネ(今は黒髪ポニテのアパートの管理人さんの姿に変身している変身型スライム)はこう言った。


「まあ、たしかに、こうして二人っきりで話をするのは久しぶりですね」


「……そうだな。え、えーっとまずは自己紹介してくれないか?」


「はい、分かりました。コホン……えー、私は『スライム型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 一の『ツキネ』です。回復特化型ですが、水を操れるので戦闘でもお役に立ちますよー」


「うんうん、その通りだな……。それで、その……まあ、あれだ。さ、最近どうだ? 困ってることとかないか?」


「うーん、まあ、兄さんを巡って戦争が起きそうな雰囲気は多々ありますけど、それ以外は問題ないですよー」


「おい、ちょっと待て。それは結構、深刻な問題じゃないのか?」


「そうですかねー? 兄さんが眠った頃、誰が兄さんと添い寝するかでめたり、兄さんのお嫁さんになるために絶対必要な要素は何かという議論でめたりしてますけど……」


「そうなのか……。けど、夜更かしはしてほしくないな」


「大丈夫ですよ。私たちモンスターチルドレンには『五帝龍ごていりゅう』の力が宿っていますから、夜更かし程度では何とも……」


 ツキネ(変身型スライム)が最後まで言い終わる前に彼はこう言った。


「いや、俺が心配なのはそこじゃないんだよ。その……なんというか……ほら、あれだ。夜更かしは肌に悪いし、寝る子は育つって言うから早く寝てほしいなって」


「兄さん……」


「まあ、強制はしないけど、お前からもみんなに伝えておいてくれないか?」


「はいっ! 分かりました! あとで皆さんにそう伝えておきます!」


「おう、頼んだぞ」


「はいっ! 任せてください!!」


 ツキネはとても嬉しそうに笑っていたが、彼にはお見通しだった。


「なあ、ツキネ……」


「はい、何ですか?」


「お前さ……みんなに遠慮してるだろ?」


「え?」


「お前はいつもみんなのサポートばっかりやってるだろ? だから、たまには自分の気持ちをさらけ出しても」


「兄さん……」


「ん? なんだ?」


「兄さんはどうして私にも優しくしてくれるんですか?」


 彼女の静かな口調は周りの空気を一気にこおらせるかのように思えた。

 しかし、彼はそんなことではどうじない。


「それは……どういう意味だ?」


「だって、私はスライムですよ? ザコモンスターの中のザコモンスターですよ? 体はブヨブヨしていて、いつもヘラヘラ笑っている……。怖さの欠片かけらもない失敗作……。なのに、どうして……」


「……どうして? どうしてだと? 数週間も同棲してるのに、お前はそんなことも分からないのか?」


「え……?」


「はぁ……まったく、しょうがねえな……。いいか? 俺はお前のことをザコモンスター扱いした覚えも、お前のことをそういう風に見たこともないぞ?」


「そ、そうなんですか?」


 不安そうな表情を浮かべながら、彼の顔を見るツキネ。


「ああ、そうだ。うちは戦闘特化型が多いから回復特化型のお前がいないと困るし、お前みたいな気配り上手なやつがいないとみんな不安になっちまう。だからさ、もっと胸を張ってもいいんだぞ?」


「……兄さん」


 その時、彼女の瞳から無色透明な液体が出始めた。


「あ……あれ? おかしいな……。私、どうして」


 彼女が服で涙をぬぐおうとした時、彼はスッと彼女に近づいた。

 その後、彼は人差し指で彼女の涙をぬぐってやった。


「なあ、ツキネ。お前ってさ、今まで自分が役立たずだって思ってたんだろ?」


「えっと、多分そうだと思います」


「そっか……。なんか昔の俺みたいだな」


「え?」


「……あー、そうだよな、知らないよな。えーっと、まあ、俺にもお前と同じことを考えていた時期があったんだよ」


「そう……なのですか?」


「そりゃそうだろ。最初からこんなやつだったら、世紀の大発見だ」


「あの……兄さん……」


「ん? なんだ?」


「兄さんは私のこと、どう思っているんですか?」


「その質問は結構されてきたけど……まあ、答えてやるよ。うーん、そうだな……。まあ、俺よりしっかりしている自慢の妹……かな?」


 その時、ツキネの顔が一瞬、真っ赤に染まった。


「そ、そそそ、そうですかねー? 私はそんなにしっかりしてないと思いますけど」


「いや、そんなことはないぞ。なんというか……こう、つい頼りたくなる衝動にられるな」


「へ、へえ、そうなんですかー。ま、まあ、あながち間違ってないかもしれませんねー。あははははは!」


「はははは、まったく、お前ってやつは……」


 二人はしばらく笑い合った。

 楽しそうに、嬉しそうに、何かを確かめ合うように。

 それが終わる頃には、彼女は彼の膝枕で眠っていた。


「やれやれ、大きな妹だな」


 ※彼女の今の身長は百五十二センチである。


「兄さーん、愛してますー」


「まったく、幸せそうな顔しやがって」


 彼が彼女の頬をツンツンと人差し指でつつくと、彼女はその指を口に入れてしゃぶり始めた。


「おいおい、俺の指はおいしくないぞー」


 彼はニコニコ笑いながら、彼女の口から人差し指を出そうとしたが、スッポンにまれたかのような感覚を覚えた。


「……おいおい、勘弁してくれよ……」


 その後、彼は彼女が満足するまで、その場で待機していたそうだ。

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