〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その28
マナミが寝室から出ていった後、シオリは彼の背中にしがみついていた。
「なあ、シオリ」
「なあに?」
「お前は俺の背中にしがみつくのが好きなのか?」
「ううん、違うよー。ナオ兄の全てが好きだよー」
「そうか……。じゃあ、とりあえず離れてくれ。このままだと話しにくいから」
「分かったー」
シオリ(白髪ロングの獣人)はそう言うと、今度は彼の胸に飛び込んだ。
「おい、シオリ」
「んー? なあにー?」
「俺はお前と話がしたいんだが」
「うん、それは分かってるよー」
「なら、どうしていちいち俺に抱きつくんだ?」
「ナオ兄のことが大好きだからだよ」
「そうか……。けど、お前の顔を見ながら話がしたいから、少し離れてくれると嬉しいなー」
「……分かった」
彼女はそう言うと、彼の顔をじーっと見つめ始めた。
「……さてと、それじゃあ始めるぞ。なあ、シオリ」
「なあにー?」
「最近、困ってることとかないか?」
「ないよー」
「即答かよ……。じゃあ、何かしてほしいことはないか?」
「うーん、そうだなー。じゃあ、さっきマナミちゃんにしてあげたことを私にもしてよー」
「え? そんなことでいいのか?」
「うん、いいよー。はい、どうぞ」
シオリ(白髪ロングの獣人)は、ぬっと頭を突き出すと、真っ白な耳をヒコヒコと動かした。
「えっと、本当に触ってもいいのか?」
「うん、いいよー。ただし、優しく触ること。分かったー?」
「お、おう、分かった。じゃあ、行くぞ」
「うん」
彼は湧き上がる衝動に負けないように歯を食いしばりながら、彼女の耳へと手を伸ばした。
マナミの時はなんとか堪えることができたが、今回はなかなか困難だと思われる。
なぜならば、彼は大の猫好きだからである。
「……そーっと……そーっと……」
「……んっ!」
「す、すまん! 痛かったか?」
「う、ううん、大丈夫。続けて」
「わ、分かった」
彼はそう言うと、シオリの耳を優しく触り始めた。
すると、彼女はこんなことを言いながら、彼に抱きついた。
「ナオ兄ー、耳触るのとっても上手だねー」
「そ、そうかな?」
「ふにゃー♡」
その後、シオリ(白髪ロングの獣人)は彼の胸やお腹に自分の頭を擦りつけていた。
まるで子猫が母猫や人に甘える時のように……。
「ナオ兄ー……好きー……大好きー……」
シオリは彼の首筋や額を舐めながら、そんなことを言っていた。
「お、おい、シオリ、大丈夫か? 顔が赤いぞ?」
「ナオ兄は優しいねー。でも、優しさは時に人を狂わせるんだよー」
その直後、シオリは彼を押し倒した。
「お、おい! シオリ! お前やっぱりなんかおかしいぞ!」
「えー、そんなことないよー。そーれーよーりー。私といいこと……しよ♡」
その時、彼はシオリの両目にピンク色のハートマークがあるのを見つけた。
「な、なあ、シオリ」
「なあにー?」
「少しの間、離れてくれないか?」
「えー、なんでー? 私のこと嫌いになったー?」
「別に嫌いになったわけじゃないんだけどよ。ただ」
「ただー?」
「お、お前みたいな可愛い女の子に迫られると心拍数が上がるから……。その……は、恥ずかしいんだよ」
彼が彼女から目を逸らして頬を赤らめながら、彼女にそう言った。
その直後、彼女のハートを一本の矢が貫いた。
「ふにゃー、ナオ兄ー、それは反則だよー」
彼女はそう言うと、キュン死した。
とても満足そうな表情を浮かべながら……。
「おっと、危ない。けど、シオリって、意外と情熱的っていうか大胆なんだな……」
彼は自分の胸の上でニコニコ笑っているシオリの頭を撫でながら、そんなことを言った。
「えーっと、次はツキネか。あいつの固有魔法には何度も助けられてるけど、いつまでこのアパートの管理人さんの姿でいるんだろうな……。まあ、変身型スライムだから、そのうち別のやつに変身するかもしれないな」
彼はそう言うと、シオリをお姫様抱っこした。
彼は、そのままの状態で隣の部屋まで移動すると、マナミ(茶髪ショートの獣人)がいるところまで歩み寄った。
「マナミ。シオリは今、めちゃくちゃ幸せそうだから、くれぐれも起こさないようにしてくれよ?」
「は、はい、分かりました」
「よし、じゃあ、次はツキネ!」
「はいっ!」
「おっ、いい返事だな。それじゃあ、となりの部屋まで来てくれ」
「了解しました!」
ツキネ(変身型スライム)はビシッ! と敬礼すると彼のあとに続いた。
*
その頃、『赤き雪原』では……。
「おー、さすがに寒いなー。もっと色々羽織ってくればよかったなー。けど、まあ、肩慣らしにはちょうどいいかもしれないな」
彼は一人で吹雪の中を歩いている。
身長は百八十センチほどで黒い瞳はビー玉のように美しく、黒い髪はやや短め。黒いローブと黒いブーツを身に纏っている。(あくまでも見えている範囲の服装である。決してそれ以外、何も身に纏っていないわけではない……)
「おーい! 化け物どもー! 俺はここにいるぞー!」
俺がそう叫ぶと赤い瞳をギラつかせながら、モンスターたちがぞろぞろと集まってきた。
「おっ、いいね、いいねー。好きだよ、数で押し切ろうとするの」
彼はニコニコ笑いながら、右拳を左手の掌にバシッ! と重ね合わせた。
「さあて、それじゃあ、やろうか!」
彼はそう言うと、オオカミやシカ、クマ型のモンスターを次々と倒し始めた……。
「……ふぅー、久しぶりにごちそうが食べられそうだなー」
その時、彼は懐かしい波動を感じた……気がした。
「……まさか……な……」
彼はそう言うと、モンスターたちを軽々と担いだ。
「……まあ、とりあえずこいつらを村まで運ばないといけないから細かいことは、あとで考えよう」
彼はそう言うと鼻歌を歌いながら、歩き始めた。




