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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その22

「なあ、コユリ。話せる範囲でいいから俺に話してくれないか? お前がミノリに対してだけ敵意を向ける理由を……」


 ナオトはチラチラとナオトの方を見ているコユリに対して、そう言った。


「……そ、それはできません。いくらマスターでも私の過去を話すわけにはいきません」


「そうか……。なら、どうすれば話してくれるんだ?」


 彼はニコニコ笑いながら、彼女の方へと近づく。

 彼女はいつもの彼ではないことに気づくと、少し後ろに下がった。


「なあ、話してくれよ。俺はただ、お前のことをもっと知りたいだけなんだからさー」


「こ、ないでください! いくらマスターでもやっていいことと悪いことがあります!」


「あれれー? おっかしいなー。いつもなら、お前の方からせまってくるのに、どうして逃げるんだ?」


 マ、マスターの様子が明らかにおかしい……。

 もしかして、私のせい……?

 そ、そんなはずはありません!

 私は『大罪の力』を解放しただけであって、それ以上のことは何も……。

 その時、彼は一瞬で彼女の目の前に移動した。


「なあ、コユリ。教えてくれよ。お前の全てを!」


「あ……あ……だ……誰か……助け……て……」


 彼女の目には、彼が自分を嘲笑あざわらっているかのように見えた。

 そう、まるで別人のように……。

 その時、パチン! という音がコユリの頭の中に響いた。

 その直後、彼女は彼の太ももの上に頭を乗せていることに気づいた。

 星々のかがやきがまったく見えないため、彼女の視界には彼の顔と黒い夜空しかない。


「……マ、マスター……どうして……」


「催眠術……」


「え?」


「俺の母親はな、俺が三歳くらいの時に催眠術を伝授したらしいんだよ。まあ、それがこんなところで役に立つとは思わなかったけどな……」


「あの……いまいち状況を把握できていないのですが、少し説明してもらえませんか?」


「うーん、そうだな……。俺がもし、お前の頭の中を少し見させてもらったって言ったら、信じてくれるか?」


「そ、そのようなことができるのでしたら、いくらでも機会はあったと思いますが……」


「うーん、別に他人の過去とかに興味ないから、ここぞという時に使おうって決めたんだよ。だから、今回は使ってみた……。ただそれだけだ」


「そ、そうなのですか?」


「ああ、そうだ」


「そうですか……。では、どこまで私の頭の中を見たのですか?」


「えーっと、俺に出会う前……つまり、お前がモンスターチルドレンになる前から、今日こんにちいたるまでだ」


「つまり、すべてごらんになったということですね?」


「まあ、そうなるかな」


「……私以外の人にしていたら、マスターは確実に殺されていたと思います」


奇遇きぐうだな、俺もそう思ったよ」


「まったく……あなたという人は……」


「でもおかげでお前がミノリに敵意を向ける理由が分かったよ」


「そうですか……。しかし、私はこれからも彼女と仲良くする気はありませんよ?」


「別に仲良くしろなんて言わねえよ。ただ、助け合って生きてほしいだけだ」


「助け合って生きてほしい……ですか……」


「ああ、そうだ。ミノリ(あいつ)は少し素直になれないところがあるから、大目に見てやってほしいんだよ」


「それはできません。彼女は私にとっての恋敵こいがたきですから」


「そうか……。けど、殺し合いはしないでくれよ? 俺が……いや、他のみんなが悲しくなるから……」


「……はぁ……分かりました……。善処します」


「ありがとう、そうしてもらえると助かるよ。さてと、じゃあ、そろそろ封印してもいいか?」


「それはダメです」


 コユリ(本物の天使)は彼の言葉をかき消すようにそう言った。


「……どうしてだ? いつものお前なら、ここであきらめてくれるのに……」


「私がいつまでもマスターの言いなりになるとでも思っているのですか? 今の私は『傲慢ごうまんの姫君』なのですよ? あなたのような下等生物の言うことなど聞くわけがないでしょう?」


「……なるほど。つまり、今のお前は自分が一番強いから、誰の助けもいらないと思っているんだな?」


「はい、その通りです。私こそが世界であり、最強の生命体です。なので、私より強い存在はこの世にいてはならないのです」


「ほう……それじゃあ、お前より強い俺をどうにかしないとお前は一生、二番ってわけだな?」


「そういうことです。なので、私はマスターと戦い、勝利し最強の称号を得たのち、この世界を支配します」


 コユリ(本物の天使)はスッと立ち上がると、ナオトに冷たい視線を向けた。


「……そうか……。今のお前には俺の言葉は届かないのか。なら、仕方ないな」


 彼はスッと立ち上がると、彼女から数メートル離れた。

 その後、右拳をコユリ(本物の天使)に向けるとこう叫んだ。


「コユリ! 俺は今からお前のその力を封印する! やめるなら今のうちだぞ!!」


 コユリ(堕天した天使……つまり堕天使)は、不気味な笑みを浮かべると、仮名の固有武装を顕現けんげんさせた。

 その武装の名は『全てを死へと誘う弓(デスサイズ・アロー)』……。

 その漆黒の弓からは、常に黒いオーラが微量びりょうながら放たれている。

 彼女は右手から放出した黒いオーラでできた矢をつがえると、矢の先端せんたんを彼に向けた。


「それはこちらのセリフです。私と戦って勝てると思っているのなら大間違いです」


「ほう、それは楽しみだな。けど、お前が俺に勝てる確率はかなり低いぞ?」


「勝負は時の運とも言いますからね……。やってみないと分かりませんよ?」


「……そうだな……。じゃあ、そろそろ始めようか」


「そうですね、さっさと始めてしまいましょう。これ以上ダラダラ話していると、いっこうに前に進めなくなりますから……」


 その直後、二人は夜空へと舞い上がった。

 ちなみにナオトは、妖精型モンスターチルドレン製造番号(ナンバー) 十五『チエミ』(風の妖精)の加護を受けているため、飛べる。

 あかい月をちょうどはさみ込む場所まで行くと、二人は空中で静止した。


「……なあ、コユリ。もし俺が勝ったら、一つだけお願いを聞いてくれないか?」


「マスター……いいえ、ナオト。それは挑発のつもりのですか? それとも頭がおかしくなりましたか?」


「残念ながら、俺は本気だ。じゃなきゃ戦う前にこんなこと言うわけねえだろ?」


「そうですね……。まあ、聞くだけ聞いておきましょう。けれど、それがあなたにとって、この世ではっする最期さいごの言葉になるかもしれませんよ?」


「そうだな……。けど、俺は別にかまわないよ。それでお前を救えるなら……な」


 コユリ(堕天使)はまゆをひそめると、再び矢の先端を彼に向けた。


「そうですか……。ならば、あなたがそれを言う前に私はあなたを殺します!!」


 コユリ(堕天使)はそう言うと、黒い矢を彼に向けて放った。

 彼のひたいにその矢がさる直前、彼は一瞬のうちに姿を消してしまった。


「……なっ……! は、早すぎる!!」


 彼女が辺りを見渡していると、彼女の背後から声が聞こえた。


「どうした? お前の力はそんなものか?」


「くっ……! 調子に……乗るなああああああ!!」


 コユリ(堕天使)はパッと振り返ると、自分の背後にいる人物に向かって矢を放った。

 しかし、そこには誰もいなかったため、矢はくうを貫いた。

 その直後、彼女の背後からまたあの声が聞こえた。


「おい、いったいどこをねらってるんだ? 俺はここだぞ?」


 彼女は歯ぎしりをすると、天に向かって黒い矢を放った。


「どこまでも敵を追尾せよ!!」


 コユリがそう言うと、一本の黒い矢は花火のように分散した。

 すると、ナオトを自動追尾するように命令した無数の黒い矢は勢いよく彼の方へと向かい始めた。


「無数の矢につらぬかれて死になさい! そして、あの世で一生後悔しなさい!!」


 コユリ(堕天使)がそう言うと、無数の矢に包囲された彼は、うすら笑いを浮かべた。


「それくらいで死ねるのなら、とっくにやってるよ。けどな……俺はもう……らくには死ねない体になっちまったんだよ」


 無数の矢が彼の目や手足、胴体などに突き刺さった直後、その矢の先端は彼の体外へと押し出された。

 その後、一瞬で傷口がふさがった……。

 彼女はわずか数秒の間に起こった出来事に対して、驚きをあらわにしていた。


「おいおい、今さら驚いてどうする。お前も知ってるだろ? 俺がもう普通の人間じゃないってことを」


「……違う……。私が知っている『本田ほんだ 直人なおと』はこんなに早く動けない……。『第三形態』並みに早く動けるなんて、ありえない……」


「『第三形態』はスピード特化型だが、他の形態になった時でも、それくらいの速さで動けるように日々|鍛錬してるんだよ。俺のことが好きなクセにそんなことも知らないのか?」


「わ、私はあなたのことをずっと見てきましたが、そのようなことなど一度も……」


「……はぁ……あのな……それは俺がお前にそう認識するようにしたからに決まってるだろ?」


「そ、それはいったいどういう意味ですか? 私の体にいったい何をしたというのですか?」


「……はぁ……まったく……それくらいさっしろよ。俺が催眠術を使えると知った時点で気づくべきだったんだぞ?」


「催眠術……。ま、まさか……!」


「ああ、そのまさかだよ。俺は時々、お前やミノリたちに催眠術をかけて、こっそり特訓していたんだ。だから、お前の記憶のどこからが本当でどこまでがうそなのかは分からないってことだ」


「そ、そんな……最強であるこの私が催眠術によって記憶を操作されていただなんて……」


「正しくは、すり替えだけどな」


「う、うそだ……。嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だあああああああああああああああああああ!!」


 その時、コユリ(堕天使)の白目が黒く染まり、背中から紫色の翼が追加で四枚生えた。

 これにより、コユリ(堕天使)の翼は合計六枚になった。

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