表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

249/420

〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その18

 四月二十日……夜九時……。

 巨大な亀型モンスターの甲羅の中心と合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋では、現在とある人物を裁判にかけていた。

 お茶の間で行われているプチ裁判での被告人は、水色のショートヘアとテニスウェアのような服と水色の瞳が特徴的な『トワイライト・アクセル』さん(『ケンカ戦国チャンピオンシップ』の実況をしていた人)である。


「被告人、トワイライト・アクセル。あんたは……じゃなくて、あなたは本日未明、この部屋に住む『本田ほんだ 直人なおと』さんをレイプおよび私物化しようとしたそうですが、間違いないですか?」


 ミノリ(黒衣をまとった吸血鬼)は正座をしているトワイライトさんに対して、そう言った。

 すると、彼女は今ミノリが言った内容が少しあやまっていることを伝えた。


「いいえ、違います。私はたしかに彼をレイプしようとしましたが、私物化しようとはしていません」


 その時、検察官のコユリ(黒いレディーススーツを身にまとった本物の天使)がスッと手をげた。


「裁判長、今の被告人の発言について検察側から申し上げたいことがあります。発言の許可を求めます」


 ミノリ(吸血鬼)は自分の右(どなり)に座っているコユリ(本物の天使)に目をやると、コクリとうなずいた。


「分かりました。検察側の発言を許可します」


「ありがとうございます。では、先ほどの被告人の発言について、検察側からの意見を申し上げます。被告人は先ほど、『本田ほんだ 直人なおと』さんを私物化しようとはしていないと言いましたが、ここにこの部屋の至る所に設置されている盗聴器があります。まずはこれをお聞きください」


 コユリ(本物の天使)は盗聴器の中に録音されていた音声を再生した。

 すると、被告人が明らかに彼を私物化しようとしていたことが分かった。


「被告人、今のはあなたの声で間違いありませんか?」


「は、はい、今のは明らかに私の声でした……」


「……では、今の被告人の発言に対して、弁護側の意見はありますか?」


 ミノリ(吸血鬼)が自分の左(どなり)に座っているマナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)にそうたずねた。

 すると、彼女はこう答えた。


「は、はい。えーっと、先ほど被告人が発言したことは事実ですが、被告人は『本田ほんだ 直人なおと』さんを本気でレ、レイプしようとしたり、私物化しようとしたりなどの行為こういをしようとは考えていません。証拠は、ここにある被告人直筆(じきひつ)の台本の中にあります」


「なるほど。では、弁護人。今からその台本に書かれている内容を音読してください」


「……え、えーっと、それは今ここで……ですか?」


「当たり前でしょ? ……じゃなくて。と、当然です。証拠を提示できないのであれば、弁護側の意見は通りません」


「そ、そうですか……。で、では今からこの台本に書かれている内容を読み上げます」


 マナミ(黒いレディーススーツをまとった茶髪ショートの獣人ネコ)は顔を真っ赤にしながら、被告人直筆(じきひつ)の台本を読み上げた。


「……い、以上です」


「よろしい。では、被告人にきます。あなたは先ほど、弁護側が読み上げた台本通りのことをしたのですか? それともそれ以上のことをしようとしたのですか?」


「え、えーっと、台本通りのことをした……という印象の方が強く残っています」


 その時、コユリ(本物の天使)がスッと手をげた。


「異議あり! 今の被告人の発言には、いくつか矛盾むじゅんが見受けられます! 裁判長! 検察側は発言の許可を求めます!」


「ええ、いいわよ。じゃなくて……いいでしょう。検察側の発言を許可します」


「ありがとうございます。それでは説明いたします。まず、先ほどの被告人の発言によると、弁護側が提示した台本に書かれたことを実行したそうですが、検察側から提示した盗聴器の内容とことなっている部分が存在します」


「被告人、今の検察側からの意見を聞いて、何か言いたいことはありませんか?」


「い、いえ、ありません」


「よろしい。では、引き続き検察側の意見を聞いてみましょう」


「はい。では、次に被告人の特殊な性癖せいへきについて説明します。実は……」


「おーい、マナミー。耳かきしてくれないかー……って、んー? お前ら、いったい何してるんだ?」


 寝室とお茶の間をへだてているふすまがスーッと開かれると、黒いパーカーと水色のジーンズを身にまとった少年『本田ほんだ 直人なおと』が姿を現した。


「え、えーっと、これはその……そう! 裁判ごっこよ! ねえ? マナミ?」


「えっ? あ、あー、はい……その通りです。ですよね? コユリちゃん」


「え、ええ、そうですとも。これはただのお遊びです。なので、マスターは気にしないでください」


 ミノリ(吸血鬼)とマナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)とコユリ(本物の天使)は、なんとか誤魔化ごまかそうとしたが、彼には全てお見通しだった。


「……おい、お前ら。トワイライトさんが悲しそうな顔をしているのは、お前らが何かしたせいなんだろ?」


「ち、違うわよ! これはあんたのためを思って。あっ」


 ミノリ(吸血鬼)が両手で口をふさいだ時には、もう手遅れだった。


「ほほう……俺のためなら、トワイライトさんにひどいことをしていいと思っているのか……。そんなことをするような悪い子にはお仕置きをしないといけないな。えーっと、とりあえずマナミとコユリは少し席を外してくれないか? ミノリとトワイライトさんに言いたいことがあるから」


「わ、分かりました」


「はい、分かりました」


 二人が寝室へと向かったあと、彼はあぐらをかいて座った。

 その後、ミノリ(吸血鬼)をあぐらをかいて座るとできる逆三角形の空間に座らせた。


「さて、これから色々と質問していくが、うそをつこうとしたり、誤魔化ごまかそうとしたら、お前の脇腹をくすぐりまくるけいを執行するから覚悟しろよ?」


「あ、あたしは悪くないもん! この女がナオトに変なことしようとしたから、それで……」


 ミノリ(吸血鬼)が彼の方を向きながら、ナオトにそう言うと、彼はミノリの頭を鷲掴わしづかんだ。


「この女じゃない、トワイライトさんだ。それに人をさばくっていうのは、その人のこれからの人生に大きく影響するものだ。だから、たとえ『ごっこ遊び』だろうと、遊び半分でやろうとするな。分かったか?」


「わ、分かったわよ……。もうしないからこの手を離して」


 ミノリ(吸血鬼)は彼から目をらしながら、ポツリとつぶやいた。

 すると、彼は彼女の頭から手を離しながら、彼女のひたいに自分のひたいを重ね合わせた。


「ど、どうしたの? あたし、別に熱なんてないわよ?」


 ミノリ(吸血鬼)が目をパチクリさせながら、彼にそう言うと、彼は微笑ほほえみを浮かべながら、こう言った。


「気にするな、ただ単にこうしたくなっただけだから」


「そ、そう……。なら、いいんだけど……」


 彼女は少し頬を赤く染めながら、彼から目をらした。


「なあ、ミノリ。どうして俺から目をらすんだ? お前らしくないぞ?」


「そ、それは……その……。き、急にあんたがこういうことしてきたからよ」


「そうか……」


「……え、ええ、そうよ」


 彼は彼女の頭に手を置くと、優しく撫で始めた。


「な、何よ」


「んー? 何がだ?」


「そ、それはその……あ、あたしの頭を急に撫で始めたから、どうしてかなって……」


 その直後、彼は彼女の耳元でこうささやいた。


「……それはな……お前を見てると、ついついこうしたくなっちまうからだ」


「へ、へえ……そう……なんだ……」


「ああ、そうだ」


「じ、じゃあ、あたしがあんたと同じ理由であんたの体にれたりしてもいい……のよね?」


「ああ、もちろんだ。遠慮えんりょなんてしなくていいぞ」


「わ、分かったわ……。そ、それじゃあ、いただきま」


 ミノリ(吸血鬼)が彼の血を飲もうとした時、トワイライトさんがポツリとこう言った。


「……あ、あのー、私はいつまでここにればいいですか?」


 その時のミノリ(吸血鬼)の顔は般若はんにゃのようだったが、彼はニコニコ笑いながら、彼女にこう言った。


「うーん、そうだなー。もう少しかかりそうだからとなりの部屋でくつろいでくれていいぞ」


「そ、そうですか。では、そうさせてもらいます」


「おう、じゃあ、あとでなー」


「は、はい、またあとで……」


 トワイライトさんは申し訳なさそうにとなりの部屋までトコトコ歩いていった。


「ねえ、ナオト。あんたはそれでいいの?」


「んー? 何がだ?」


「いや、だから、あんたをおかそうとした人を許してもいいのかっていてるのよ」


「まあ、お前が助けに来てくれたおかげでなんとかなったから、トワイライトさんにばつを与える必要はないかな」


「……そう。なら、いいわ。その代わり、あんたの血を少しでいいから飲ませなさい。それで今回の件はなかったことにするから……」


「おう、いいぞ。ただし、あんまり吸いすぎるなよ?」


「わ、分かってるわよ……」


 彼女はそう言うと、彼の首筋に噛み付いた。

 彼は小さな口で少しずつ自分の血を飲んでいる彼女の頭を撫でながら、微笑ほほえみを浮かべていた。

 その様子をじーっと見つめている他のメンバーの視線に気づいてもなお、彼がその場から動かなかったのは彼女のことを思ってのことだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ