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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その17

 四月二十日……夜八時……。


「ナオトさーん! そろそろ時間ですよー!」


 トワイライトさんは一人ワクワクしながら、彼を呼んだ。

 お茶の間にいるナオト以外のメンバーは、彼が小刻みに体をふるわせながら、彼女がいる方へと歩いていくのをただただ見ていることしかできずにいた。


「……はぁ……どうしてこうなったのかな……」


 彼は彼女がショタコンであることを忘れていたわけではないが、彼女が彼に伝えた条件の内容があまりにもマニアックすぎたため、さすがのナオトも少しだけネガティブになっていた。


「……ナオトさん! 早く早くー!」


「あー、はいはい、今行きますよー」


 彼は時々、お茶の間へ戻りそうになったが、今日を乗り越えれば……今日だけ我慢すれば、なんとかやっていけると思ったため、彼はしぶしぶ彼女のもとへと向かった。


「……え、えーっと……。ね、ねえねえ、お姉ちゃん、体洗ってー」


「うーん、どうしよっかなー。ナオちゃんが私の体を洗ってくれたら、洗ってあげてもいいけど、どうするー?」


「う、うん、やるやる! だから、僕の体もちゃんと洗ってねー」


「うん、いいよー。じゃあ、お願いしまーす」


「は、はーい」


 ……もう気づいていると思いますが、彼は今、一時的にトワイライトさんの弟になっています。しかも、お風呂場で体を洗い合うという設定で……。

 彼女には兄弟がいないため、こういうことをしたくてもできないという日々を送っていました。

 だから、見た目が十歳くらいで無邪気な少年を目にすると、途端とたんに襲いたくなる衝動にられてしまうという病気になってしまいました。


「お、お姉ちゃん、どう? 気持ちいい?」


 彼がそんなことを言いながら、彼女の背中を洗っていると彼女はニコニコ笑いながら、こう言った。


「うん、とっても気持ちいいよ。けど、ナオちゃん成分がちょっと足りないなー」


「え、えーっと、僕は具体的に何をすればいいの?」


「うーんとね、私の背中を手じゃなくて、ナオちゃんの体で洗ってほしいんだけど、いいかなー?」


「う、うん、いいよー。こ、こう……かな?」


「うんうん、いい感じだよー。ナオちゃんのおかげで私、もーっと美人になっちゃうよー」


「で、でもそれだとお姉ちゃんが困るんじゃないの? 毎日、違う人から告白されるかもしれないし、さらわれる可能性だって高くなるよ?」


「もうー、ナオちゃんはそんな心配する必要ないのよ? だって、私はナオちゃん以外の人と結婚する気ないもん」


「……え? そ、そうなの?」


「ええ、そうよ。でもナオちゃんがもう少し大きくならないと難しいかなー。うーん、でもこのままのナオちゃんの方が可愛いから、これ以上成長しないように魔法をかけちゃおうかなー」


 あ、あれ? こんなの台本に書いてあったっけ?

 ま、まあ、いいや。とにかく続けよう。


「そ、そんなことされたら、お姉ちゃんを守れなくなるからやめてよー」


「えー、私はずーっとナオちゃんを守っていたいからナオちゃんは成長しちゃダメだよー」


「そ、そんなことできるわけないんだから、あんまり無茶苦茶なこと言わな……」


すきありー!!」


 彼が最後まで言い終わる前に、彼女は彼を押し倒した。


「うわあ!? ちょ、ちょっとお姉ちゃん! いきなり何す……ひゃん!?」


 彼女は手足をジタバタさせてなんとか自分からのがれようとするナオトの左耳を甘噛みした。


「ふっふっふっふっふ……。ナオちゃんのことはなんでもお見通しなんだから、おとなしくお姉ちゃんのものになりなさーい」


「……ううっ……い、いやだよ……。僕、お姉ちゃんのものになんかなりたくないよ……」


「大丈夫、大丈夫。痛いのは最初だけだから……。さぁ、ナオちゃん。私といいことしましょうねー?」


 彼に忍び寄る魔の手は、徐々に……そして、確実に彼のもとへ向かっていた。

 その禍々(まがまが)しい黒い影が彼におおかぶさろうとしていた、その時……。


「……ねえ……これはいったいどういうことかしら? あんたの作った台本とだいぶ違う展開になってるんだけど……」


 風呂場の扉を開けた状態で二人のことを見ているミノリ(吸血鬼)は、ニコニコ笑っていた。

 その笑顔からは嬉しさや楽しさではなく、怒りと憎悪ぞうおなどのマイナスな感情が感じられた。


「え、えーっとですね。これはその……ナオトさんが私をさそってきたので……つい」


「へえ、そうなの……。高校時代に出会った先生のことがずっと好きなくせに、いまだに告白できずにいるヘタレでチェリーボーイなナオトに、あんたをさそえるようなテクニックがあるとは思えないけど……」


「い、いや、それはその……」


 彼女は苦笑しながら言い訳をしようとしたが、その前に彼の心が限界をむかえた。


「……うっ! な、なんだ! 急に……頭が……!」


 彼が頭をかかえた状態で苦しげな声を上げ始めたことに気づいたミノリ(吸血鬼)は、彼の近くでしゃがむと彼のひたいに手を当てた。


「……! う、うそでしょ……。体の中の魔力が暴走してナオトの体を内側から食い破ろうとしてる! 今までこんなことなかったのに、どうして!」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、ナオトはいきなり跳ね起きた。

 その後、彼は外へ向かって走り始めた。


「ちょ、ちょっと! ナオト! どこ行くのよ!」


 彼は去りぎわに彼女の顔をにらんだ。

 まるでついてくるなと警告するかのように……。


「あー! もうー! あんたのせいでナオトがおかしくなっちゃったじゃない! ……って、こんなこと言ってる場合じゃないわよね。みんなー! ナオトをつかまえるの手伝ってー!」


 ミノリ(吸血鬼)がお茶の間にいるメンバーにそんなことを言いながらけていくのを、ただ見ていることしかできなかったトワイライトさんはひどく驚いた顔をしていた。


 *


 彼がアパートに戻ってきたのは、それから約三十分ほどった頃だった。

 なぜならば、彼はアパートの屋根の上でシクシク泣いていたからだ。

 ナオトがアパートの屋根の上に体操座りで座っているのを発見したのはミノリだった。

 その時の彼はひどくおびえていたという。

 そんな彼を落ち着かせるために、彼女はこんなことを言ったそうだ。


「あんたがいつも人がいやがることを率先してやろうとするのは知ってるけど、自分がいやだと思うことを無理にする必要なんてないんだから、そういう時はあたしや他のみんなに相談してちょうだい。そうじゃないと、あんたの身がもたないでしょ?」


 彼女にあすなろ抱きをされながら、そんなことを耳元でささやかれてしまったため、ナオトはつい感情をあらわにしてしまった。


「……ああ……そうだな。今度から気をつけるよ。だから、今は少しだけお前に甘えさせてくれないか?」


「ええ、もちろんよ。ほーら、あたしの胸の中に飛び込んでおいでー」


 彼はぱだかのまま、ミノリの胸の中に飛び込んだ。


「ううっ……こんな情けないところ……本当は見せたくなかったけど、お前の前ではどうも素直になっちまうな」


「……さぁ? どうしてでしょうね?」


 ミノリ(吸血鬼)はナオトが泣き止むまで、彼の頭を優しく撫でていた。

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