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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その16

 彼女が再び目を覚ますと、ミノリ(吸血鬼)とナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)による説明会が始まった。

 彼女に彼女が気を失っている間に何が起こったのかを説明する会だ。

 それが終了すると、トワイライトさんは目をパチクリさせた。


「え、えーっと、それじゃあ、『ラブプリンセス国』で暴れていたモンスターたちをたった一発の魔力砲で跡形あとかたもなく消し飛ばした……。ということですか?」


「ええ、そうよ。まあ、さすがは『四聖獣しせいじゅう』の一体と言ったところね。ねえ? ミサキ」


 ミノリ(黒髪ツインテール)は、座っているナオトにあすなろ抱きをしているミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)にそう言った。


「うーん、そうかなー? 僕は自分にできることをしただけなんだけど……。ねえ? ご主人」


 ミサキ(黒髪ベリーショートと黒い瞳が特徴的なボクっ)はナオトの髪の毛をいじりながら、そう言った。


「いや、今回はお前のおかげですごく助かったからほこっていいと思うぞ。俺は今回、モンスターたちを一箇所に集めただけだから」


「ううん、僕なんかより、ご主人の方がすごいよ。たった一人で大量のモンスターを相手にしてたんだから」


「うーん、そうかなー? 俺はただ、目障めざわりなやつらをかたぱしから一箇所に集めていっただけなんだが」


「あははははは。相変わらず、ご主人は謙虚けんきょだね。そういうところ、僕は嫌いじゃないよ」


「そうか……」


「うん……」


 二人の会話が途切れそうになった時、トワイライトさんは口をはさんだ。


「あ、あの……一ついいですか?」


「ん? なんだ?」


「ナオトさん、あなたは前に自分は悪魔ではないと言いましたよね?」


「うーんと、それは『ケンカ戦国チャンピオンシップ』の決勝戦あたりで俺が言ってたやつか?」


「はい、そうです」


「まあ、少なくとも悪魔じゃないと思うけど、それがどうかしたのか?」


「いえ、その……こ、ここにいる人たちは全員、人間離れしていると思ったので……」


「えーっと、つまり、あんたが言いたいのは、るいともを呼ぶ……って、ことだろ?」


「はい、その通りです。それで、どうなんですか? あなたは悪魔ですか? それとも人ですか?」


「……うーん、正直に言うとだな……。俺もよく分からないんだよ」


「よく……分からない?」


「ああ、そうだ。俺の右半身は人間やめてるし、俺の心臓は神々もおそれる『蛇神じゃしん』のものだし、体の中には複数の誕生石と二種類の植物が根付いてる。だから、俺の体はもう普通の人間のものじゃない。けど、俺の心はまだ人間だ。この人はどんなことをされたらいやがるのかなーとか、この人は今、どんな気持ちなんだろうなーとか、とにかく色々考えちまう。まあ、それが俺の中から綺麗きれいさっぱりくなっちまったら、俺という存在は『悪魔』へと成り下がるんだろうな……」


「そうですか……。では、ここにいる人たちはなぜ、あなたと行動を共にしているのですか? それに、本来なら、一人につき一人としか契約できないはずのモンスターチルドレンがこんなにたくさんいるなんて信じられません。あなたは、彼女たちに何をしたんですか?」


 その直後、ミノリ(吸血鬼)の大声がお茶の間にひびいた。


「ねえ、あんた! どうしてナオトにそんなことくのよ! どうでもいいじゃない! そんなこと!」


 トワイライトさんは、ミノリ(吸血鬼)の方を見ながら、ピシャリとこう告げた。


「いいえ、どうでもよくありません。あなたたちのこれからに関わる重要なことですから」


「くっ……! あ、あんたにあたしたちの何が分かるっていうのよ!」


「分かりますよ……。だって、私は元々、水をつかさどる妖精でしたから……」


「み、水をつかさどる妖精? あ、あんたいきなり何言ってんのよ。頭おかしいんじゃないの?」


「いいえ、頭がおかしいのは、あなたの方です。あなたの体の中にある遺伝子は、あらゆるモンスターの中で戦いのセンスと知能の面でけているとされているヴァンパイア……つまり『吸血鬼』です。それなのに、あなたからはそのようなものが一切感じられません。あなたは本当に吸血鬼なんですか?」


「……へえ、このあたしに向かって、そんなこと言うんだー。へえ……」


 ミノリ(吸血鬼)がナオトやコユリ(本物の天使)以外に対していかりをき出しにすることはほとんどないのだが……今回は、違った。

 今の彼女は明らかにトワイライトさんの今の発言に対して、怒りをき出しにしている。

 彼女のするど眼光がんこうと握りこぶしからも、それが分かる。


「おい、ミノリ。少し落ち着けよ。というか、なんでそこまで怒る必要があるんだ?」


 この状況でナオトが口をはさんでくることを予想していたものはかなりいたと思われるが、トワイライトさんだけは予想していなかったようだ。


「だ、だって! こいつがナオトにおかしなこと言うから」


 ミノリ(吸血鬼)が彼女を指差しながら言い訳をすると、彼は彼女にこう言った。


「あのな……だからって、トワイライトさんに敵意を向ける必要はないだろ? トワイライトさんは、ただ疑問に思ったことをいてるだけなんだから」


「だ、だけど……」


「ミノリ、ちょっとこっちに来い」


「え? ど、どうして?」


「いいから、早く来い。何度も言わせるな」


「う、うん、分かった……」


 ミノリ(吸血鬼)は少しうつむきながら、トボトボとナオトの方へと歩いていった。

 彼女はナオトの目の前で停止すると、ナオトの黒い瞳をじっと見つめた。

 彼は微笑ほほえみを浮かべると、両手を広げた。

 ミノリ(吸血鬼)は目をパチクリさせながら彼の腕の中に飛び込んだ。


「……ね、ねえ、ナオト。急にどうしたの? あたしどこもおかしくないわよ」


「……ミノリ、お前はいちいち理由がないと俺とハグしたくないのか?」


「え? 別にそんなことないけど……」


「そうか……。じゃあ、少しだけイタズラするぞ」


「え? イタズラって何を……」


 彼女が最後まで言い終わる前に、彼は彼女の脇腹をくすぐった。


「あ、あははははは! ちょ、ちょっとナオト! いきなり何すんのよー! あははははは!!」


 彼女がおなかをかかえたまま仰向あおむけで倒れると、彼は彼女の脇腹をくすぐるのをやめた。

 その直後、彼はトワイライトさんに、一つ提案した。


「俺が何者で、ここにいるモンスターチルドレンたちがどうして俺みたいなやつと契約してるのかは分からないけど、俺たちはこうして毎日を楽しく過ごしてる。だからさ、そういうこまかい部分には、お互いれないようにしないか? ここであんたと戦いたくないし、俺にそんな気持ちなんてこれっぽっちもありゃしないんだから」


 トワイライトさんは少しの間、頭の中で色々と思考をめぐらせていたが、深い溜め息をいたのち、彼にこう言った。


「……分かりました。これ以上、あなたたちのことを深く知ろうとは思いません……。ですが! 一つ条件があります!」


「じょ、条件?」


「はい、そうです。それさえ、約束してくれるなら、次の目的地まで同行してあげてもいいですよ」


「あははははは、ずいぶんと上から目線だな。でもまあ、俺たちにできる範囲でなら、何でもしてやるよ」


「ありがとうございます。では、少し耳を貸してください」


「おう、分かった」


 彼女は彼の耳元で数秒間、何かをささやいた。その直後、彼は少しだけ嫌そうな顔をしていたが、彼女の期待を裏切るわけにもいかないので、彼女の言う通りにすることにした。

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