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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その14

 その頃『ラブプリンセス国』では……。


「はぁ……はぁ……はぁ……こ、これは思ったより厳しい……ですね」


 水色のショートヘアとテニスウェアのような服と水色の瞳が特徴的な『トワイライト・アクセル』さん(『ケンカ戦国チャンピオンシップ』の実況をしていた人)は、生まれ故郷であるその国で戦っていた。

 モンスターたちの注意を自分に向けることで国の被害を最小限にとどめようとしているのだが、兵士たちは城や城付近の町にいるモンスターたちを……冒険者たちは大物ばかりと戦っているため、トワイライトさんが相手にしなければならないモンスターの数は彼らの三倍近くあった。


「まったく……私もバカですね……。この数を相手に一人で戦おうとするなんて……。あの人のことを考えながら、ここまで帰ってきたのがダメだったのでしょうかね……。まあ、そんなことを言っても状況は変わりません。とにかく今は……戦いに集中しましょう」


 トワイライトさんは、シカ型、イノシシ型、タヌキ型、キツネ型、クマ型などのモンスターたちをできるだけ田畑や農園に近づけないように誘導しながら、戦い始めた。

 しかし、数の面で圧倒的に不利な状況にあるトワイライトさんが一人で立ち回れるわけがなく……。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


「くっ……! はぁ……はぁ……はぁ……」


「ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


「……! し、しまっ……うわあああああああ!!」


 クマ型モンスターの雄叫おたけびで吹き飛ばされた後、イノシシ型の突進をまともにくらってしまったトワイライトさんの体はもうボロボロだった。

 いくら彼女が裏稼業で生計を立ててきたとはいえ、一人で複数のモンスターを相手にするのは、さすがにきつかった。


「私……このまま……死ぬのかな? まだ……男の人とデートもしたことないのに……。けど、あの人なら、こんな時でも……絶対にあきらめないんだろうな」


 彼女はうつ伏せでそんなことを言った。


「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 クマ型モンスターが彼女を叩きつぶそうとした、その時……。

 何かが……いや、何者かが天より降臨こうりんした。それも雷のような速さで……。

 それが地面に舞い降りた直後に発生した衝撃波によって、モンスターたちは十メートルほど吹っ飛んでしまった。

 それは彼女の存在に気づくと、手を差し伸べた。


「おい、大丈夫か? 立てそうか?」


「は……はい。なんとか……って、あ……あなたは、もしかして」


 その直後、黄色のよろいと背中からえている十本の黄色い鎖と水色の瞳が特徴的な少年は何かを思い出したかのように、こう言った。


「んー? あれ? あんたもしかして、『ケンカ戦国チャンピオンシップ』で実況をやってた『トワイライト・アクセル』さんか?」


「は、はい、そうです。そう言うあなたは、あの大会で伝説を作った『本田ほんだ 直人なおと』さんですね?」


「うーん、まあ、色々ツッコミたいところもあるが、とにかく今はこいつらをどうにかしないといけないから、あんたはここから動くんじゃねえぞ」


「は、はい、分かりました」


 彼女はそう言うと微笑ほほえみを浮かべながら、意識を失った。

 その顔は完全に安心しきっていた。


「さてと……」


 彼はそう言うと、モンスターたちをにらんだ。


「どのみちお前たちは一瞬でこの世から排除されるが、今ここで俺に倒されるか、それともミサキの『超圧縮魔力砲』で跡形あとかたもなく消し去られるか……好きな方を選んでいいぞ。あっ、すきを見て逃げ出そうとしたやつは容赦ようしゃなく攻撃するから、それなりの覚悟はしておいてくれよ?」


 その直後、モンスターたちは彼に襲いかかった。

 勝てなくてもいい。せめて、一矢いっしむくいてやるという思いで……。

 しかし、今の彼にとって、彼らの攻撃など猫パンチ以下のものだった。


「『大罪の力を封印する鎖トリニティバインドチェイン』。大罪の力を封印できる力。その第三形態『黄色い無邪気な香雪蘭(イエロー・フリージア)』になった時、俺は雷とほぼ同じ速さになる……。つまり」


「グォ!?」


「ガァ!?」


「ブォ!?」


「お前らの攻撃なんて当たるわけがねえんだよ。バーカ」


 彼は一瞬でモンスターたちを倒してしまった。なお、倒し方は以下の通り……。

 顎部がくぶにスカイアッパー。

 腹部に回しり。

 鼻にコルクスクリュー。


「ふぅ……。さてと、おーい、トワイライトさーん、無事かー」


 彼が彼女のところに行くと、彼女は安心しきった顔のまま、意識を失っていた。


「まあ、一人であの数を相手にしてたら、こうなるよな。よし、今回は特別に、うちまで運んでやろう」


 彼は一旦アパートへ戻ると、彼の部屋で待機していたツキネ(変身型スライム)に彼女を預けた。

 その後、作戦を成功させるために再び『ラブプリンセス国』へと向かった。


 *


『ラブプリンセス国』……。


「……そんじゃあ、やるか」


 大地に降り立ったナオトは背中から生えている黄色い十本のくさりでモンスターたちを一箇所に集めることにした。


が鎖よ! まわしき怪物たちを拘束こうそくし、われもとへといざなえ!!」


 彼がそう言うと、彼の鎖はモンスターたちを彼の元へと運び始めた。

 モンスターたちが一箇所に集められる光景をの当たりにした兵士や冒険者たちは、ただただ驚いていた。

 自分たちがたばになっても倒すのに苦労していたというのに、たった一人で……しかも一箇所にモンスターたちを強制集結させていたのだから……。


「はぁ……まあ、鎖に電流を流して、モンスターたちを弱らせてから、ここに運んでくるようにしてるから、俺はここで立ってるだけでいいんだがな。あー、退屈だなー。なーんかつまらないなー」


 彼が少しだけ同じことの繰り返しに飽きてきた頃、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)が話しかけてきた。


「ご主人、もうそろそろ準備ができるから、ペースを上げてもいいよ」


 彼は念話よりも口で話していた方が気がまぎれるかもしれないと思ったため、念話ではなく口でこう言った。


「おう、分かった。じゃあ、そろそろペース上げるから発射可能状態で待機していてくれ。でも、俺の指示があるまでは絶対()つなよ? 俺まで消し飛ばされるかもしれないから」


「うん、分かった。それじゃあ、もう少し頑張ってね」


「おう、任せとけ」


 彼はミサキとの会話が終了した直後から、モンスターたちを一箇所に集めるペースを上げた。


「なんかマグロの一本釣りをしてる気分になるな。やったことないけど……」


 モンスターたちが次々とナオトのもとへと運ばれていく。

 その数はどんどん増えていく……。

 どんどん……どんどん……どんどん……。

 うごめく黒い物体としか言えなくなるほどのモンスターたちが強制集結させられると、ナオトはこう叫んだ。


「やれ! ミサキ! お前の力を……いや、全力を! こいつらに思い知らせてやれえええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 彼の叫びがミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)のもとへと届いた時、計画は最終段階へと移行した。


「……了解。これより『ミサキ作戦』を最終段階へと移行する。各員、状況を報告せよ」


 ミサキ(黒髪ベリーショートと水色の瞳が特徴的な美幼女)がミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の頭部(つまり、司令室)でそう言うと、彼ら、彼女らは現在の状況を報告し始めた。


「こちら、魔力制御室担当『ミノリ』! いつでも行けるわよ!」


「こ、こちら魔力製造室担当『マナミ』! い、異常ありません!」


 マナミ(茶髪ショートの獣人ネコ)がそう言うと、彼女の背後に隠れていたシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)がひょっこり顔を出して、こう言った。


「ついでに、マナミちゃんと私の体調も大丈夫だよー」


「シ、シオリちゃん! そう言うことは言わなくていいんだよ?」


「えー、そうなのー? まあ、いいや。じゃあ、報告終わり!」


 シオリが無理やり報告を終わらせるとツキネ(変身型スライム)がこう言った。


「こちら寝室(けん)救護室担当『ツキネ』! 私の固有魔法で『トワイライト』さんの体を元気にしたので、もう大丈夫です!」


 それを聞いたみんなは、ほっと胸をで下ろした。


「……コホン。えー、こちら魔力圧縮室担当『コユリ』。特に異常はありません」


「こちら、魔力貯蓄室担当『チエミ』! 少し貯蓄量が少ない気がしますが、私の妖精パワーでなんとかします!」


「こちら、魔力倍増室担当『カオリ』! あたしの固有魔法で……いや、ゾンビパワーでどんどん魔力を倍増してやるから安心しな!」


「こちら、魔力安定室担当『シズク』。ドッペルゲンガーだからって何もできないわけじゃないっていうことを証明してみせるよ」


「こちら、魔力固定室担当『ルル』だよー。金属系魔法のスペシャリストとして恥ずかしくない仕事をしてみせるよー」


「こちら、魔力鎮静室担当『コハル』。ミサキお姉様のために一生懸命頑張ります!!」


「こちら、魔力変形室担当『キミコ』。お兄ちゃんのために頑張っちゃうよー!」


「こちら、魔力拘束室担当『カリン』。まあ、ここは私に任せておきなさい」


「こちら、魔力調整室担当『ライカ』! 師匠の助けになれるように精一杯頑張るよー!」


「こちら、魔力注入室担当『メルク』。ハーフエルフ族としてではなく、ナオトさんのために任務をまっとうします!」


「こちら、魔力選抜室担当『フィア』。ナオト様が立案された作戦を成功させるために、私の中にある四大天使の力を惜しみなく使用しますので、ご安心ください」


「コチラ、マリョクカンサツシツ……タントウ『ミカン』。イジョウ……ナシ……」


 ミカンは、ナオトとの合体がけてから少しさびしそうだが……今回は、まだ大丈夫のようだ。


「こちら、魔力分配室担当『ヒバリ』! 『四聖獣』の一体として、頑張っちゃうよー!」


「こちら、魔力鍛錬室担当『ニイナ』。私のことは気にしなくていいから、どんどん魔力を送ってきていいよ。ビシバシ鍛えてあげるから」


「こちら……魔力試験室担当『名取なとり 一樹いつき』。もっと……ペースを上げてくれて構わないぞ」


「こちら、魔力育成室担当『ブラスト・アークランド』! ただいま絶賛育成中だ!!」


「こちら、魔力罵倒室担当『ユヅキ』&『ヒサメ』だよー! 魔力だからって容赦ようしゃすると思わないでねー。私たちはやると決めたら絶対にやるんだからー!!」


「こちら、魔力合体室担当『ハルキ』。私の体に生えているりゅううろこのように密集していく魔力たちを見ていると、なんだかとってもいやされる気がするんだけど、気のせいかな?」


 全員の報告(?)が終了すると、ミサキは真剣な表情を浮かべながら、こう言った。


「……了解。では、これより『超圧縮魔力砲』を……いや、違うな。『超圧縮魔力砲(イフリート)』を発射する。総員、対ショック、対閃光防御!!」


 ミサキがそう言うと、ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の中にいるメンバーたちは、専用のゴーグルを装着した。


「司令室担当(けん)この外装の所有者である僕の権限を発動。禁忌きんきの力を使用することを許可する。さぁ、時は満ちた。今こそ、その強大な力を見せつけてやれ!」


 ミサキ(巨大な亀型モンスターの外装)の金色の瞳が一瞬、ピカッとかがやいた後、金属製の亀型モンスターの口が大きく開かれた。

 口内に徐々に蓄積していく金色の光は、ナオトの鎖によって、一箇所に集められたモンスターたちをおどすように、そのかがやきをしていく。


「照準固定……完了……秒読み開始(カウントダウン)……開始……!」


 ミサキの一言で全員が秒読みを始める。


『十、九、八、七、六、五、四、三、二、一……!』


「……いっけえええええええええええええええ!!」


 ミサキの叫び声と共に放たれた金色の光線は、ナオトがモンスターたちのもとから離れた直後にモンスターたちの心身を跡形あとかたもなく消し飛ばしてしまった。

 先ほどまでしげっていたはずの黄緑色の植物は、モンスターたちと共に一度は消滅してしまったが、『理想草原ドリームグラスランド』の名は伊達だてではない。

 すぐに周りの植物たちがその場所を黄緑色に染めてしまった。

 つまり、地面に残っている根っこたちに、周りの植物たちが自分たちの養分を分けてあげたのである。

 静まり返った草原の中に取り残された兵士や冒険者たちは、その一瞬の出来事にただただ驚き、その場に立ち尽くすことしかできなかった。


「……作戦終了! いやあ、良かった、良かった」


 ナオトは、そんなことを言いながら、巨大な亀型モンスターと合体しているアパートの二階へと戻っていったのであった。

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