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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その7

 巨大な亀型モンスターと合体しているアパートの二階にあるナオトの部屋の寝室……夕方……。


「……う……うーん……あれ? あたし、もしかして戻ってこられた……の?」


 ミノリ(吸血鬼)は白くない天井を見ながら、小声でそう言った。(彼女は布団に横になっている)

 すると、彼女のかたわらで寝息を立てている少年がいた。


「……えーっと、これはいったい……」


 その時、彼女の頭上から声が聞こえた。


「はぁ……とりあえず戻ってこられたみたいですね。アホ吸血鬼」


 その直後、ミノリ(吸血鬼)はニシリと笑いながら、こう言った。


「ええ、なんとかね。それより、あんたがあたしのそばにいるなんて珍しいじゃない。ねえ? 銀髪天使」


 彼女の頭上付近に正座で座っているのは、コユリ(本物の天使)である。


「はぁ……それが『魔力タンク』が暴走しかけるまでマスターの血を飲むようなおろもののセリフですか? もう一度、生死のさかい彷徨さまよってきたらどうですか?」


「ふん、あんなところにちょくちょく行くわけにはいかないわよ。それに、あたしはそこでまた一つ強くなったから、今のあたしなら、あんたと互角ごかく以上に戦えるかもしれないわよ?」


「それは冗談ですか? それとも、本気で言っているんですか? もし後者こうしゃなら、今ここで完膚かんぷなきまでにたたつぶしますが、どうしますか?」


「あー、怖い、怖い。やっぱりやめておくわ。今、ここで戦い始めたら、ナオトの寝顔を見られなくなるから」


「それには私も賛成です。まだ日がしずんでいないこの時間帯にマスターの寝顔を見られる機会きかいがこの先、あと何回あるか分かりませんから」


「そうね……。今はこのままナオトが起きるのを待ちましょう。ところで、あたしの『魔力タンク』の中に入っていた膨大ぼうだいな魔力をいったいどうやって外に出したの?」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、コユリ(本物の天使)は少し頬を赤く染めながら、こう言った。


「そ、それはその……わ、私の『魔力タンク』の中に直接取り込み……ました……」


「え? それってもしかして、あたしの血を飲んだってこと?」


「そ、そうですよ。マスターにあなたの血を飲ませるわけにはいきませんし、『魔力タンク』の許容量が一番多いのは私ですから」


「ふーん、いつもアホ吸血鬼とか言ってるクセに、あたしがピンチになると助けてくれるなんて、あんた意外と可愛いところあるのね」


「な、何をバカなことを言っているのですか? 私はただ、ライバルがいなくなるのはさびしい……じゃなくて、私のサンドバッグ的な存在がいなくなるのは心許こころもとないから、そうしたまでです。ですから、勘違いしないでください……」


「へえ、つまり、あんたは自分に必要な存在である、このあたしのために頑張ってくれたってことね?」


「少し語弊ごへいがあるような気がしますが、まあおおむね合っています」


「そう……。でも、ありがとね。まさか、あんたに助けてもらうなんて思ってもみなかったけど」


「わ、私は鬼ではありませんから、そういう時もあるということです」


「ふーん、そうなの。まあ、そういうことにしておいてあげるわ」


「そ、それでですね……。その……私との約束を覚えていますか?」


「え? 約束? うーん、それってもしかして、あんたに服を作ってあげるってやつ?」


「は、はい、その通りです」


「あー、それね。まあ、今日はちょっと無理そうだから、明日にしてくれない? 今日はなんか精神的に疲れたから」


「わ、分かりました。約束ですよ?」


 コユリ(本物の天使)がそう言うと、ミノリ(吸血鬼)はニヤリと笑いながら、こう言った。


「あら? 天使が吸血鬼と約束事をするなんて聞いたことないけど、本当にいいの?」


「も、問題ありません! 私は吸血鬼のあなたにではなく、私の服を作ってくださる一人の職人と約束しているのですから」


「へえ、そうなんだ。じゃあ、久しぶりに頑張らないといけないわね。本当は優しくて仲間思いな一人の女の子のために……」


「えっと……その……よ、よろしくお願いします」


「ええ、分かったわ。それじゃあ、明日はあんたの希望をもとにさっそく作業に取りかるから、そのつもりでいなさいよ?」


「は、はい、分かり……ました」


「よろしい。それじゃあ、あたしはもう一眠ひとねむりするから、みんなに伝えておいてね……」


 ミノリ(吸血鬼)は最後まで言い終わると同時に、寝息を立て始めた。

 コユリ(本物の天使)は黒髪ツインテールが特徴的な吸血鬼のひたいれると、静かにこう言った。


「……うん、分かった。ちゃんとみんなに伝えておくから、今はゆっくり休んでね……お姉ちゃん」


 コユリ(本物の天使)がはっしたその言葉を耳にしたナオトは飛び起きそうになったが、そうなるとややこしいことに発展してしまいそうだったため、もう少しねむっているふりをすることにした。

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