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〇〇は『赤き雪原』に向かうそうです その4

 昼ごはんを食べ終わると、ミノリ(吸血鬼)以外はそれぞれの好きなことをやり始めた。


「ねえ、ナオト……少し、いい?」


「ん? あー、うん、俺は別に構わないが、いったい何の用だ?」


 少し不安そうな表情を浮かべながら、彼の手を握ったミノリ(吸血鬼)は何も言わずに彼をとなりの部屋へ連れ込んだ。

 その様子を横目で見ていたコユリ(本物の天使)は何かを察したかのように、ため息をいた。


「……それで? 話って何だ?」


 ナオトは、何かを言い出しそうで言い出さないミノリ(吸血鬼)の顔を見ながら、そう言った。


「あー、その……えっと……」


 いつものような覇気はきがないミノリ(吸血鬼)はけっこうレアだが、何か深刻な悩みを抱えていそうだったため、彼はミノリ(吸血鬼)のひたいにデコピンをした。


「あいたっ! い、いきなり何するのよ! あたしにうらみでもあるの!」


 彼は半泣き状態になりながら、少し赤くなったひたいに手を当てるミノリ(吸血鬼)の姿を見て、なんとなく可愛いやつだな……と思った。


「別に恨みはないが、言いたいことをはっきり言わないやつには……お仕置きしないといけないなー」


 彼は両手をきつねの顔のような形にすると、ニヤリと笑った。


「……あー! もうー! 分かったわよ! 言えばいいんでしょ! 言えば!」


 ミノリ(吸血鬼)は、少し怒り気味でそう言った。

 その時の彼の顔は、少し嬉しそうだった。


「うんうん、それでこそミノリだよ」


 彼がニシッと笑うと、ミノリ(吸血鬼)は顔を真っ赤にした。


「う、うるさい! あたしにだって、そういう時はあるのよ!」


「はいはい、それはもう分かったから、そろそろ本題に入ってくれないか?」


「わ、分かったわよ。今から話すから、少し待ってなさい」


 ミノリ(吸血鬼)は、コホンとせきばらいすると、話し始めた。


「あたしね……昨日、ここに帰って来た時からずっとおかしいのよ。なんかこう、あたしの知らない誰かがあたしのことをじっと見つめているような感じがして」


「それは単なる気のせい……とかじゃないのか?」


「あたしも最初はそう思ったわよ。だけど、今日……というか、さっきはっきりしたわ」


「おい、それって、まさか……」


 彼が最後まで言い終わる前に、ミノリ(吸血鬼)は真剣な眼差まなざしでこう言った。


「そう、あたしがあんたに何も言わずに首筋にみ付いた時、はっきりしたわ。あたしじゃない……もう一人のあたしが覚醒めざめつつあるってことに……」


 ミノリ(吸血鬼)の口から発せられたその言葉を聞いたナオトは、一瞬だけ動揺どうようしたが、すぐに冷静な顔つきに戻った。


「なあ、ミノリ……」


「何?」


「それってさ、もしかしなくても、俺の血を吸いすぎたせいじゃないのか?」


「……そうね、たしかにそれはあると思うわ。あたしは他の誰よりもあんたの血を吸ってきたから、あんたの中にある膨大ぼうだいな量の力を体内に少しずつめ込んできたわ……。だけど、今日になって体に異変が起こるのは、少しおかしいと思うのよ」


「おかしい? それはどういう意味だ?」


「うーんと、分かりやすく言うとね、あたしたちモンスターチルドレンは何かを体内に取り込む時、特殊なうすまくがあたしたちの体に異常が起きないように余計なものを取りのぞいてくれるのよ。だから、あたしたちは病気になることもないんだけど……って、話が脱線しちゃったわね」


「いや、いいよ。お前たちの体について、興味深い情報を得られたから」


「……ねえ、ナオト」


「ん? 何だ?」


「今のセリフは勘違いされかねないから、二度と言わないでね?」


 彼女の笑顔から、とてつもないいかりのオーラを感じたナオトは苦笑しながら、こう言った。


「あ、ああ、分かった。約束するよ」


「ふふふ、あたしみたいな高貴な吸血鬼と約束事をするなんて、よっぽど命知らずなのね。あんたは」


 彼女の不気味な笑みからは、ただならぬ何かを感じたため、彼は話をもとに戻すことにした。


「そ、それで? 結局、お前が気になってることって何なんだ?」


「うーん、どう言えばいいかよく分からないけど、とにかくあたしが感じたことを包み隠さず言うとね……もうすぐ……多分、次の目的地に着く前に……あたしはあたしじゃなくなる」


 その直後、彼は笑いながら、こう言った。


「な、なんだよ、それー。中二病にかかったやつが言いそうなセリフだなー。あはははははははは!」


 彼は少しの間、笑っていた。

 しかし、彼女の真っ直ぐなひとみを見て、確信した。

 彼女は本当のことを言っていると……。


「……なあ、ミノリ。どうして俺にだけ……そんな話をしたんだ?」


 その直後、彼女は少しうつむいた。


「……そんなの決まってるじゃない……」


「……?」


「あたしはあんたのことを……この世で一番、信頼にあたいする存在だと認めてい……」


 その時、彼女はあやつり人形の糸がプッツリと切れてしまったかのように突然、意識を失った。

 彼が咄嗟とっさに彼女を抱き寄せていなければ、そのまま畳にキスしていたことだろう……。


「おい! しっかりしろ! ミノリ! 俺にできることがあるなら、どんなことでもするから何か言ってくれよ! なあ、ミノリ! ……ミノリ!!」


 彼のその声はとなりの部屋にも響いていたため、彼ら、彼女らはその部屋に集結した。


「マスター、そのアホ吸血鬼はもうじき自我じがを失い、獣とします」


「なっ!? なんだって!? それは本当か? コユリ!」


 コユリ(本物の天使)は、真顔でこう言った。


「はい、間違いありません。今回、こんなことになってしまったのは……マスターの血液を吸いすぎてしまったからでしょう。そうですね、一言で言い表わすなら『魔力タンク』の暴走です」


「ま、『魔力タンク』? それはいったい何だ?」


「マスター、とりあえず落ち着いてください。話はそれからです」


「そ、それもそうだな……。すまない、少し感情的になってしまって」


「いえ、私は別に……。それより、少しは落ち着きましたか?」


「あ、ああ、どうにかな」


「そうですか。では、とりあえずマスターと私以外の他のみなさんはとなりの部屋で待機していてください。アホ吸血鬼の件で話がありますので」


 コユリ(本物の天使)が彼ら、彼女らにそう言うと彼ら、彼女らはコユリが言った通りのことをした。

 その直後、コユリはミノリ(吸血鬼)のひたいに手を当てた。


「マスター、とりあえずこのアホ吸血鬼を横にした方がいいと思うので、ゆっくりこちらに運んでください」


「あ、ああ、分かった。じゃあ、行くぞ」


 ナオトがコユリにミノリを近づけたその時、ミノリ(吸血鬼)は彼の手を強くにぎった。


「お、おい! 何なんだよ! この握力は! 尋常じんじょうじゃないぞ!」


「……はぁ……仕方ありません。とりあえず、マスターの膝を貸してあげてください」


「ん? あ、ああ、分かった」


 彼はコユリに言われた通りのことをすると、コユリに質問した。


「それで? さっき言ってた『魔力タンク』って何なんだ?」


 銀髪ロングと金色の瞳と背中から生えている二枚の天使の翼が特徴的な美少女……いや美幼女は正座をすると、ゆっくり話し始めた。


「はい、それは私たちモンスターチルドレンの中にある『水晶』の機能……いえ、器官の一つです。それは主に膨大すぎる魔力をその身に宿す私たちを補助するためのものでして……」


「待て、大事なところだけ話してくれないか?」


「……分かりました。では、要約します。まあ、要するに……どんなうつわにもめておける量が決まっていて、それが限界を超えると暴走してしまう……ということです」


「そうか……。そういうことだったのか。今まで気づいてやれなくてごめんな、ミノリ」


 彼はまだ呼吸があらいミノリ(吸血鬼)の頭を撫でながら、悲しげな表情を浮かべた。


「マスター、話はまだ終わっていません。ここからが本題です」


「いや、それは言わなくてもいい。俺がこの手でミノリを楽にしてやるか、それともなんとかしてミノリの体内にある膨大な魔力を外に出してやるかの二択にたくってことだろ?」


「はい、その通りです。そして、その答えはすでに出ている。そうですよね?」


「ああ、その通りだ。俺はこの身を犠牲ぎせいにしてでも、必ずミノリを救ってみせる。けど、そのためには俺一人の力じゃどうしようもない。だから」


「マスター、そこから先は言わなくて結構です。マスターがそのアホ吸血鬼を見捨てないことは分かりきっていたことですから」


「そうか……なら、コユリ……いや、みんな! ミノリの体の中にある魔力を外に出すのを手伝ってくれないか?」


 彼がそう言うと、ふすまが開かれ、となりの部屋で待機していた他のメンバーが現れた。

 そして、賛同の声を部屋中に響かせた。


「ありがとう、みんな。このおんは必ず返す。だから、よろしく頼む」


 彼ら、彼女らはやる気に満ちあふれた表情を浮かべながら、ビシッと親指を立てた。


「よし、それじゃあ、早速始めようか……コユリ」


「はい、何でしょう?」


「ミノリの体内にある魔力を外に出すには、どうしたらいいんだ?」


「……それは……その……い、言いたくありません」


 その時……部屋の空気がガラッと変わった。

 そして、それと同時にその部屋から心音と呼吸音しか聞こえなくなった。


「お、おい、コユリ。それはいったいどういうことだ?」


 ナオトはコユリ(本物の天使)の発言を不思議に思い、そうたずねた。

 彼女は彼から目をらしながら、こうつぶやいた。


「……それは……その……私との約束をすっぽかしたアホ吸血鬼を救いたくないから……です」


「……おーい、今の聞こえたやつはいるかー?」


 ナオトがそう言うと、ナオトの髪の毛の中から黄緑髪ショートの妖精が元気よく飛び出して、真っ先に手をげた。


「はいはいはーい! 私、聞いちゃいましたー!」


 今の彼女のセリフは、か○これの青葉型一番艦のセリフではなく、彼女が無意識に言ったことである。


「おー、チエミ。姿が見えないと思ったら、俺の髪の中で寝てたのか」


「はい、その通りです! とてもよく眠れましたよ!」


 チエミ(体長十五センチほどの妖精)はニコニコ笑いながら、そう言った。


「そうか、そうか。それで? 今、コユリはなんて言ったんだ?」


「うーんと、まあ、要約すると、自分に服を作ってくれると約束してくれたのに、それを忘れられてしまってショックー! って感じです」


「あー、そういえば、ミノリとそんな約束してたな。うーん、それじゃあ、ミノリには早く元気になってもらわないといけないなー」


 彼はわざとコユリの方をチラチラ見ながら、そう言った。


「……そ、そうですね。はい、その通りです」


 コユリは少しだけ頬を赤く染めながら、そう言った。


「よし、それじゃあ、ミノリの魔力タンクをどうにかして基準値に戻すぞー!」


『おー!』


「お、おー」


 コユリだけ、かけ声がやや遅れ気味だったが、ミノリ(吸血鬼)を救いたいという思いは、みんな一緒のようだ。


 *


 その頃……ミノリは夢を見ていた……。


「ヤッホー! あたし! 元気ー?」


「なっ! あんた、誰よ!」


「えー、そんなの分かってるでしょー?」


 黒い影のかたまりは、ミノリ(吸血鬼)にそう言った。


「えっと、も、もしかして……あたし……なの?」


「うん、そうだよー。でもー……あたしはあんたと違って力が全てだと思ってるから、ここから出られたら、すぐに世界を破壊しちゃうけどねー」


「そ、そんなこと、あたしは望んでなんか……」


「へえ、じゃあ、勝負しようよ。あたしに勝てたら、体を返してあげる。でも、もし勝てなかったら……」


 彼女はミノリ(吸血鬼)の耳元でこうささやいた。


「……あんたが大切にしてるもの……ぜーんぶ、ぶっ壊しちゃうから覚悟してね?」


「……分かったわ。じゃあ、最初から本気出してあげるから、せいぜい頑張りなさい」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、闇ミノリはミノリから、パッと離れた。


「いいね、いいねー! それでこそ、あたしだよー。それじゃあ、始めるよー!」


「ええ、いいわよ。どこからでもかかってきなさい!」


 こうして、ミノリバーサス闇ミノリの対決が始まったのであった。

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