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○○はゲートをくぐるそうです 結

 俺は木製の椅子に座って、黒い本を見ていた。

 最初の方のページは真っ黒で何が書いているのか分からない。

 おそらく俺が知る必要がないことか、もしくは知られたくない情報が書かれているのだろう。

 俺は本のページをパラパラとめくった。

 えーっと、ゲートの仕組みについては……。

 あっ、あった。俺はお目当てのものを見つけると、さっそく読み始めた。

 その後、サナエ(今は俺の頭の上に乗っている)は俺にいろいろとき始めた。


「ねえ、ナオト。やっぱり自分で読んだ方が早いと思うから自分で読んで。それと、ちょっときたいことがあるんだけど、いいかしら?」


「……さっき、私がゲートの仕組みについて教えてあげる! とか、なんとか言ってたくせに……」


 俺がそう言っても、サナエはくじけなかった。


「ただ静かに読書しているだけじゃ、つまらないでしょう?」


「まあ、そうだな」


「なら、『しりとり』でもしましょうよ」


 こいつは俺を困らせたいのか? いや単にひまだから遊び相手になってほしいのかな?

 それなら、そう言えばいいのに……。

 俺は、しぶしぶサナエの案に乗ることにした。こうでもしないと後でエスカレートする恐れがあるからだ。


「じゃあ、しりとりの『り』からな」


「よろしい。じゃあ、私からね」


 俺はサナエが考えている間に本を読み進めることにした。

 できるだけ早く、あいつらのところに戻ってやらないと余計な心配をかけてしまうからだ。

 ここに来てから、どれだけ時間が経ったのかは分からないが、きっと俺が目覚めるのを待っているはずだ。

 俺がそんなことを考えながら本を読んでいると、サナエがこんなことを言った。


「リア充は爆発しろ! はい、次、ナオトね」


「おい、ちょっと待て」


「んー? なあに?」


「今のは、いったい何なんだ? 説明してくれ」


 俺はサナエが『しりとり』に相応ふさわしくないことを言ったため、思わず突っ込んでしまった。

 まったく、どこでそんな言葉を覚えたんだ?


「何って、会話文しりとりよ?」


「そこじゃなくて、リア充は爆発しろ! ってところだ」


「え? オタクは、みんなそう思ってるんじゃないの?」


 こいつはオタクをなんだと思っているんだ……というか、俺もそれに該当がいとうすることを知ってて言ったのか?

 まあ、そんなことはどうでもいい。俺が今、サナエに言いたいのは……。


「どうしていきなりそんなことを言ったのか? ……でしょ?」


「正解だ。あと、もう少しでゲートの仕組みについて書かれているところを読み終わるぞ」


 それを聞いてサナエは少しがっかりした。

 高卒の俺が言うのもあれだが、本なんてものは量ではなく、質が大事だ。

 たくさん本を読んでいるやつでも意外にその内容を覚えていない場合が多い。

 だから、まずは量より質。

 一冊の本をじっくり読んだ方が記憶に残るし、達成感も生まれる。

 速読する必要なんてない。人それぞれ自分のペースというものがあるのだから。

 話が脱線したが、要するに俺は少しだけ読むのが速いだけであって、そういう能力者ではないということだ。

 もし、そんな能力者がいるなら俺はきっと速読者ブックマスターと名付けるだろう……。

 さて、無事に読み終わったことだし『会話文しりとり』をしながら、いろいろと質問するとしようか。


「サナエ、さっきの続きからな」


「え? どういうこと?」


「ろくでなしの俺でも分かる、実に素晴らしい本でした」


 俺はこの際、こういう感じで質問するのもありだなと思い、このまま『会話文しりとり』を続けることにした。

 サナエは少し戸惑っているが、まあ大丈夫だろう。

 そんなことを考えているうちに、サナエは何を言うか決めたようだ。

 それじゃあ、『会話文しりとり』のはじまりー、はじまりー。


「大量の情報を分かりやすく正確にまとめたものだから、当然よ」


「読んだ後の、達成感も半端なかったな」


なまの感想を、どうも」


「もっとも、この本だけに限ったことじゃないだろう?」


 俺はサナエに少し意地悪な質問をしてみた。

 それは『ここにある本は全てこんな感じなんだろう?』という問いでもあり、挑戦でもあった。

 もしそうなら、ここにある本は全て『サナエではない何者かによって生み出された』ということになる。さて、サナエはどう答えるのやら。

 俺は頭の上にいるサナエ(使い魔)に俺の意図が伝わるように、わざと口に出さなかった。

 すると、サナエは数秒間、考えたのち、こう答えた。


「うーん、少なくとも今は言えないわね……。それよりもゲートの仕組みについては、もういいの?」


 なるほど。それを俺が知る必要はない……ということか。

 まあ、ここで真実を知ったとしても『今の俺』には関係ないからいいけどな……。

 さて、そろそろ終わらせるか。俺は最後にこう言った。


「脳みそに叩き込んだから大丈夫だ。けど、最後に一つだけいてもいいか?」


によく刺される人は血液型じゃなくて足の裏のその他の菌が関係しているらしいわよ」


「よくもまあ、今までの話の流れでそんなことが言えるな。それよりも今は、俺の質問に答えるかいなかだろう?」


「うーん、それもそうね。いいわ、何でもきなさい」


 ここまできたら、言うしかないなよ!

 この本に書かれてある、たった一つのおかしな点を! 俺は決意を固めると、それをサナエに言った。


「今さっき、脳みそに叩き込んだから大丈夫、と言ったが一つだけ、どうしても納得できないところがあった。それは……『ゲートをくぐる際に異世界の存在がいる場合、ゲートを安定させるために横一列で行進をしながらくぐらないと、そいつが目的の場所とは違う異世界もしくは異次元に飛ばされる恐れがある』というところだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 あまりにも広い図書館だったため、俺の声は、あまりひびき渡らなかったが、サナエには十分に伝わったと思う。

 さあ、『暗闇楽園ダークネスパラダイス』のぬし、サナエよ! 今こそが問いに答えるがいい!!

 俺はつい、偉そうに心の中でそんなことを言ってしまった。サナエには筒抜けだということを忘れていた俺をしかってやりたいが……もう遅い。

 俺がそんなことを考えていると、サナエはこう答えた。


「ああ、それね。えーっと、確かゲートを最初に作った人がそうしたからよ。多分……あっ!」


「あっ、今『ん』って言ったな? やったー、今回は俺の勝ちだー!」


 俺は、ニヤリと笑いながら、そう言った。

 俺たちは今まで『会話文しりとり』をしながら会話をしていた。

 それを実際にやった感想は……まあ、あれだ。『普通に会話した方がらくだし、話しやすい』ということだ。

 当たり前のことだが、『体験して初めて分かることもある』ということを実感できた。

 よし、ここいらで、おいとまするとしよう……。


「それじゃあ、用も済んだことだし、俺はそろそろ帰るよ」


「はぁ……それもそうね。でも……」


「でも?」


「約束どおり、たまにはあの子たちも連れてきてね。あなたが意識を失う前に連れてきたい子の名前を声に出さずに呼べば、ここにその子も一緒に入れるから」


「ああ、分かった。じゃあ、またな」


「それと!」


 サナエ(使い魔)は大声でそう言った。何か伝え忘れたことがあったようだ。


「ん? なんだ?」


「ここは、『脳内図書館マイルーム』っていう名前があるから、次からはそう呼んであげてね?」


「ああ、分かった。というか、名前なんてあったんだな。次からはそう呼ぶよ。あー、でも呼びにくいから、次までにもっといい名前を考えておいてくれ」


「ええ、分かったわ」


 サナエはそう言うと、何かを言い始めた。

 おそらく、ここに来る前にやったアレだろう。俺はそう思いながら、目を閉じた。


「接続解除、投影終了アンインストール。それじゃあ、ナオト。またね」


「ああ、またな」


 そして俺の意識は次第に遠くなっていき、いつのまにか目を閉じていた。


 *


 俺が目を覚ますとゲートの出口の手前だった。

 そしてなぜか、俺はシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)の膝枕で寝ていた。


「なぁ、シオリ。これは一体どういうことだ? 説明してくれ」


「……んー? なあに? あっ、ナオ兄……おはよう」


「お、おはよう……って、今はそれどころじゃなくてだな」


「あいさつは大事だよ?」


「そ、そうだな」


 俺が寝ている……いや、気を失っている間、ずっとこうしててくれたのかな?

 まあ、今はそれよりもみんなを探さないと。


「なあ、シオリ。みんなは、いったいどこに……」


 俺が最後まで言い終わる前に、何かがものすごい勢いでこちらに向かってきて、そのまま俺にダイブした。


「ガハァァァ! お、お前いきなり何を……」


「うるさい! うるさい! うるさい! うるさああああああああああああああああああああい!」


 さっきまでサナエ(『暗黒楽園ダークネスパラダイス』の主)と話していたせいだろうか。

 その声は、鼓膜こまくけそうなくらい、うるさかったのに……とても懐かしく思えた。

 俺はミノリ(吸血鬼)が言ったことを無視して、こう言った。


「ただいま、ミノリ」


「うるさい、バカナオト……」


「その……悪かったな。ゲートのこと何も知らなくて」


 顔を俺の胸に埋めたまま、ミノリ(吸血鬼)はこう言った。


「それは、もういいわ。その……強引に教えようとして、ごめんなさい」


「もういいよ。お前の『ごめんなさい』が聞けたから許す」


「……うるさい。調子に乗らないで……」


「……それより、みんなは?」


「先に向こうで待ってるわ」


「……そうか」


 俺はミノリの頭を撫でながら、起き上がると。


「シオリ、ずっと膝枕してくれたんだろう? 足、痛くないか?」


「平気だよ。むしろ、ずっとこのまま方がよかったよ」


「おいおい……」


「冗談だよ」


「ああ、知ってるよ」


 俺はいまだに泣いているミノリをお姫様抱っこするとゲートの出口に向かって歩き始めた。

 シオリも行進をしながら、俺の後に続いた。

 こうして、俺たちは……ついにゲートから脱出できたのであった……。

 まあ、ゲートをくぐった、と言った方が妥当かな。

 まあ、何はともあれ、無事に辿たどり着けて本当に良かった……って、あれ? ここってまさか……。

 この時、俺がそれを見てしまったせいで、危うくミノリを落としそうになってしまったことは、言うまでもない。

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