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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりするそうです 上

 四月十八日……昼……『ビッグボード国』……。

 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)たちは、彼の全身を覆っている鎧が外せるようになるという温泉を探していた。

 そんな時、ナオトの頭の中に少女の声が聞こえた。

 彼が彼女を助けに向かった先に待ち構えていたのは高校の同級生『乃木のぎ 貫太かんた』と『四聖獣』の一体『青龍せいりゅう』だった。

 話によると『青龍』のうろこを狙っている者たちがいるらしく、その者たちから自分を(青龍のこと)守ってほしいというものだった。(報酬は、例の温泉に入らせてあげるというもの……というか、青龍の汗がその温泉である)

 ナオトと乃木のぎこころよくその依頼を受け、見事、完遂かんすいしたのであった。

 また、ナオトが『青龍せいりゅう』に『青木はるき』と名付けたことにより、青龍はナオトと主従関係を結んだのであった。

 さて、ついにナオトの目的が果たされそうなのだが、その前に白虎びゃっこの話をしておこう。


 *


 ここは、とある雪山にある洞窟の奥地である……。

 そこにいるのは『四聖獣』最後の一体『白虎びゃっこ』である。

 そして、その獣の前に立ちはだかっているのは、赤い瞳と逆立った黒髪が特徴的な男だった。


「おい、お前は『四聖獣』の一体……『白虎びゃっこ』なんだろ?」


 その男は、彼女にそうたずねた。


「そ、そうだけど、それがどうかしたの?」


「いや、俺のものになる前に、相手のことをよく知っておこうと思っただけだ」


「ん? それはいったいどういうことかな? 悪いけど、私は君のものになる気はこれっぽっちもないよ」


「ほう、龍すらも従わせられる力を持つこの俺にさからう気か? なら、無理やりにでも言うことを聞かせるしかねえな」


「な、何をする気? 言っておくけど、私たちは自分がマスターとして認めた者にしか従わないよ」


「そうか……。なら、俺をマスターとして認めさせるだけだ……!」


 彼はニシリと笑うと、彼女に襲いかかった。


「これでも……くらええええええええええええ!!」


 彼は黒い影のかたまりのようなものを作ると、彼女に向かって投げた。

 彼女はそれをハエでも追い払うかのように片手で洞窟の外まで振り払った。


「なっ! この俺の攻撃をいとも簡単に振り払うだけでなく、追加効果も無効にしただと!」


「うん、なんともないよ。残念ながら」


「く、くそっ! なら、次は……」


 彼が彼女に攻撃を放つ前に、彼女は彼を爪で引っいた。


「おっと! 危ねえな……」


 彼はスルリとそれをかわすと、そう言った。


「へえ、今のをかわせるなんて、普通の人間にしては強いじゃないか」


「普通の人間にしてはだと? おいおい、最初の方に言わなかったか? 俺は龍すら従わせられる存在だと」


「うーん、でも、私を従わせられるとは到底、思えないな」


「なんだと? そんなのやってみないと分からないだろう? お前も俺も最初から強いわけじゃない……。そうだろう?」


「まあ、それはそうだけどね……。でも、ある程度まで強くなるとね……分かっちゃうんだよ。相手が自分より強いのか弱いのかっていうのが……」


「ほう、お前はその域に達しているのか……。なら、俺はお前より強いのか? それとも弱いのか? 教えてくれよ、白虎びゃっこ


「……今の君は私より弱いよ……けど」


「けど?」


「それはあくまでも今の君から感じられることだから正確な強さまでは分からない」


「そうか……。なら、俺は通常形態でもお前を超えられるように、ここで修行させてもらう」


「え? 何、勝手に決めてるの? ここは私の縄張りだよ?」


「それがどうした。俺がどこで修行しようと俺の勝手だろ?」


「……うーん、まあ、それもそうだね。気が済むまでいるといいよ」


「そうか。なら、そうさせてもらおうかな」


 彼はドッカリ、その場に座ると、意識を集中し始めた。


「ねえ」


「ん? なんだ?」


「君の名前は……いや、いいよ。忘れて」


「おう」


 彼女は目の前に、あぐらをかいて座っている男の名前をたずねようと思ったが、自分には名前がないことを思い出したため、それは断念した……。


 *


「なあ、ハルキ。お前、いったいどこまで行く気なんだ?」


 青龍(外装)の頭の上に座っている赤い鎧と赤い四枚の翼と先端がドリルになっているシッポと黄緑色の瞳が特徴的な主人公、ナオトはハルキ(青龍)にそうたずねた。


「うーん、まあ、もう少しで着くと思うから、おとなしく座っててよ」


「おう、分かった。じゃあ、もう少しのんびりさせてもらうよ」


 彼はそう言うと、周りの景色を眺め始めた。

 白い雲が上に向かって流れていく光景が永久に続いているように思える今の状況をなんとかしたいと思った彼は、となりに座っている乃木のぎにこう言った。


「なあ、乃木のぎ


「ん? なんだ?」


「なんかひまだから、何かしようぜ」


「うーん、そうだな……たしかにひまだな。けど、ここにはボードゲームの一つだってありゃしねえぜ?」


「まあ、そうだけどさ。なんか気を紛らわせたいんだよ。分かるだろ?」


「まあ、分からなくもないが、そうだな……。じゃあ、アレでもやるか」


「アレってなんだ?」


「あー、アレってのはな……」


 彼が最後まで言い終わる前に、ハルキ(青龍)が二人にこう言った。


「二人とも、もう着くから、気をつけてね」


「あ、ああ、分かった」


「気をつける? いったい何に……」


 乃木のぎが最後まで言い終わる前に、ハルキがスピードを上げ始めたことでその答えが分かった。

 要するに、振り落とされないようにしてね……という意味だ……。


「うわああああああああああああああああああ!! な、なんだこれえええええええ! は……速すぎだろ! これええええええええええええええええ!!」


 乃木のぎは半泣き状態になりながらも、青龍の頭の上から振り落とされないように頑張っていた。


「やっほおおおおおおおおおおおおおおお! 気持ちいいぜえええええええええええ!! ヒャッハあああああああああああああああああ!!」


 ナオトは、ジェットコースターではしゃいでいる子ども以上にその状況を楽しんでいた……。


 *


「はい、着いたよ。お疲れ様」


「や……やっと着いた……」


 乃木のぎはヘトヘトになっていたが、ナオトはそうでもなかった。

 それどころか、ケロッとしていた。


「いやー、楽しかった! また乗りたいなー!」


「お前……体だけじゃなくて、心も子どもになっちまったんじゃねえか? あんなのが楽しいと思えるやつなんて、そんなにいないぞ?」


「うーん、そうかな? でもまあ、意外と早く目的地に到着できたから、別にいいじゃないか。さてと、ミサキに連絡するか」


 彼はそう言うと、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)と念話をし始めた。

 それから……数十分後……ミノリ(吸血鬼)たちがナオトのところに集合した。


「えっと、まあ、色々説明しないといけないけど、手短かに話すぞ」


 ナオトはそう言うと、これまでのことを彼女らに話した。


「なるほどね……。つまり、青龍が温泉に浸かった時に出る汗が、あんたの鎧を外せられるようにできる例の温泉なのね……?」


「ああ、その通りだ」


「でも、なんで勝手に、青龍と主従契約を結んでるの?


 今のミノリ(吸血鬼)の笑顔からは少々、圧が感じられた。


「い、いや……それはその……成り行きというか、流れというか、まあ、そんな感じだ……」


「へえ、そうなんだ……。ふーん……」


 ミノリ(吸血鬼)は、しばらくナオトのことをジト目で見ていたが、これ以上()いても彼からはもう何も出ないことをさとった彼女はパンッ! と合掌がっしょうすると、みんなに指示を出した。


「はい! それじゃあ、今からナオトを『例の温泉』に入らせる準備をするわよ! みんな! 配置について!」


『はーい!!』


 みんなは、ミノリの指示通りに動き始めた。

 こういう時のミノリはリーダーらしい。ナオトよりもリーダーらしい……。

 小さな体からは考えられないような行動力と統率力である……。


「……その……なんかスゲえな……」


「ん? 何がだ?」


 乃木のぎが彼女たちの行動を見ていると、ポツリとそうつぶやいた。


「いや、だってよ。まだ小さいのによ。こんなに早く何かができるのってすごくねえか?」


「まあ、ミノリたち、モンスターチルドレンは人間と子どもを作るために生み出された存在だから……子どもでいられる期間の方が短いのは……確かだな」


「そうか……。でも、お前はこいつらを元の人間に戻すために旅をしてるんだよな?」


「ああ、そうだ。だから俺は、そのためだったら何でもやる。けど、無茶をしすぎたせいで俺の体は色々とやばいことになっちまった。身長もそうだが、体内もかなりやばくてな」


「そ、そうか……。でも、お前ならできる気がするよ。応援してるぜ、ナオト」


「おう、無茶をしない程度に頑張るよ」


 二人が話している間に青龍は温泉にかった。

 すると、橙色の汗が温泉を橙色に染めた。


「ナオトー! 準備できたわよー!!」


「おうー! 分かったー! 今行くー!」


 彼はそう言うと、ミノリ(吸血鬼)のところへ飛んでいった。


「……でも、それだとこいつらが元に戻ったら、お前とこいつらの関係は……どうなるんだ?」


 乃木のぎは、一つの疑問をいだいたが、自分が考えることではないと思ったため、それ以上深く考えるのはやめた。

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