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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その34

 その頃……密猟者みつりょうしゃたちは……。


「隊長! 目標が見えました!」


「ほう、ようやくか……。どうやら『四聖獣』の一体が『ビッグボード国』付近に潜伏せんぷくしているといううわさは本当だったようだな……。総員にげる! これより『一攫千金いっかくせんきん作戦』を開始する! 繰り返す! これより『一攫千金いっかくせんきん作戦』を開始する!」


「やっほー!」


「やってやるぜ!」


「待ってました!」


 黒いローブを身にまとい、ほうきまたがった状態で空を飛んでいる彼らは、口々に歓喜の声を上げていた。


「総員! 突撃ー!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 彼らは、一斉に『青龍せいりゅう』に向かって進み始めた。

 彼らが『青龍せいりゅう』に向かって進み始めた頃、ナオトと乃木のぎは一列横隊でこんな話をしていた。


「……なあ、ナオト」


「ん? なんだ?」


「この世界には、俺たち以外のやつらもいるのか?」


「それは俺たち以外の元同級生たちがいるのかって、意味か?」


「ああ、そうだ。それで、どうなんだ?」


「そんなの言うまでもないだろう?」


 乃木のぎは、ニシリと笑うとこう言った。


「ああ、そうだな。それじゃあ、久しぶりに……やっちまうか!」


「ああ、そうだな。けど、できるだけ殺すなよ?」


「ああ、分かってるよ。けど、油断は禁物だぞ?」


「ああ、そうだな。それじゃあ、行くか!」


「おうよ!」


 二人は、彼らが近づいてくると、攻撃を開始した。


「行くぞ! 『白神槍はくじんそう』!!」


 乃木のぎがそう言うと、彼が乗っているやりが白い光をはなち始めた。


「乃木式爆槍(ばくそう)術……いちの型一番『白風一掃はくふういっそう』!!」


 彼はそう叫びながら、一瞬だけやりった。

 すると、白い風が……いや、白い竜巻のようなものが彼らを吹き飛ばした。


「い、今のはいったい……」


「他人の心配してる場合じゃねえぞおおおお!!」


 ナオトは、黒い影で作った二本の剣を交差させた状態で彼らに襲いかかった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ナオトは、ただただ目の前にいる敵を剣でなぐるように倒していった。

 それは『真紅の大天使』による『さばき』だった。


「く、くそ……! 何なんだ! あいつらは! こんなの聞いてないぞ!」


「隊長! ここは一旦、退きましょう! 今の我々の戦力ではどうやってもやつらには、かないません!」


「だ、黙れ! ここまで来て、そのようなことができるわけが」


「隊長ー! 助けてくれー!」


「し、死にたくなーい!」


「う、う、うわああああああああああああああ!!」


 同志たちが次々と倒されていくさまの当たりにした隊長は拳をふるわせながら、こう言った。


「総員に告げる! ただちに撤退てったいせよ! 繰り返す! 直ちに撤退せよ!」


「な、なんだって!?」


「隊長! それはあんまりだ!」


「そうだ! そうだ!」


 隊長の命令に異議いぎとなえるものもいたが、隊長はそれを聞いてもなお、彼らに撤退てったいめいじた……。


「く、くそ……!」


「覚えてろよ!」


「ま、待ってください! 隊長ー!」


 彼らは九割近くの仲間たちを倒されながらも、なんとか撤退てったいした。

 しかし、そいつは彼らを待ちかまえていた。


「おいおい、本気で逃げ切れるとでも思っていたのか?」


 先ほどまで仲間たちが足止めしていたはずの『真紅の大天使』は、黒い影でできた剣を両手に持った状態で彼らにそう言った。


「な、なぜ……なぜお前がここにいる! お前はまだ我々の仲間たちと戦っているはずだ!」


 隊長は恐怖で声がふるえていたが、その目はひるんでいなかった。


「あー、それなら、俺の分身たちが戦ってくれてるから問題ねえよ。俺の翼の羽をむしり取って、空中に投げれば……ほら、この通り」


 彼がそう言いながら、生み出した彼の分身は彼にそっくりだった。


「くっ……! お前は、そんな卑怯ひきょうな手を使ってでも我々をつぶしたいのか!!」


つぶすだと? おいおい、勘違いするなよ。俺はただ、青龍あいつうろこを守りたいだけだ。お前らをつぶす気なんて、これっぽっちもねえよ。けど……ここでお前らを倒しておかないと、また青龍あいつのところに行くかもしれないから……全力で倒させてもらうぜ?」


「そ、総員、かかれー!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 彼らは隊長のかけ声が聞こえた直後、一斉にナオトのところへ向かい始めた。


「やれやれ……俺に勝てる確率なんて、これっぽっちもないことくらい、分かっているだろうによ……」


 彼はポツリとそうつぶやくと、彼らを倒し始めた。

 それから彼らが全滅したのは、五分後である。


「あ、悪魔め……」


 隊長がナオトをにらみ付けると、ナオトは黄緑色の瞳をひからせながら、こう言った。


「いーや、今の俺は『真紅の大天使』だ。だから、間違っても『真紅の悪魔』が現れたなんて情報を流すんじゃねえぞ?」


 ナオトはそう言うと、黒影でできた剣で隊長のほうきってしまった。

 隊長は「く……くそおおおおおおおおおお!!」と言いながら、雲の下へと落ちていった。


「……さてと……行くか」


 ナオトはそう言うと、自分の分身を羽に戻しながら青龍のところへ戻り始めた。


 *


「ただいまー」


「おかえり」


「おう! ナオト! 残りのやつらは倒せたか?」


「ああ、ばっちりだ。隊長っぽいやつもいたから、多分あれで全部だろう」


「そうか。ということは……」


「ああ、ミッションコンプリートだ」


「ううん、まだ終わってないよ」


「ん? それはどういう意味だ? 青龍」


「まあ、要するに……私に似合う名前を付けてくれないと約束は果たせない……ってことだよ」


「なるほど。そうきたか」


「なあ、ナオト。俺、状況がよく分かんねえから説明してくれよ」


「うーん、まあ、簡単に言うとだな。こいつは、俺に自分のマスターになってほしいってことだよ」


「へえ、そうなのか……って、なにい!? それは本当か!? ナオト!!」


「ん? ああ、そうだけど、それがどうかしたのか?」


「いやいやいやいやいや、普通もう少し慌てるだろ! だって、体長五百メートルくらいの龍にマスターとして認められるなんて世界のどこを探しても、そんなにいないぜ?」


「うーん、そうかな? 俺はもう『玄武げんぶ』と『朱雀すざく』のマスターでもあるから、別に特別だとは思わないが」


「は? ちょ、ちょっと待て。お前、今、なんて言った?」


「え? いや、だから、俺はもう『玄武』と『朱雀』のマスターでもあるから、別に特別だとは思わないと言ったが」


 乃木のぎはナオトの両肩に手を置くと、ニコニコ笑いながら、こう言った。


「よし、なら、お前に任せる。頑張れ!」


「お、おう、任された」


 ナオトは彼の行動を不思議に思ったが、青龍の名前を考えることにした。


「なあ、一つだけいていいか?」


「ん? 何かな?」


「えーっと、その……お、お前の外装じゃなくて……ほ、本体の目の色って何色なんだ?」


「さぁ? 何色だと思う?」


「疑問形を疑問形で返すなよ」


「ごめん、ごめん。冗談だよ。うーんとね、きれいな緑色……だよ」


「そっか、そっか。どうも、ありがとう」


「どういたしまして」


 ナオトは、その直後、意識を集中し始めた。

 がくにある逆鱗げきりんに触れると、たちまち暴れ始めるという伝説がある青龍。

 しかし、彼女はとても優しそうである。

 そんな感じの名前にしてあげられたら、きっと彼女も喜ぶに違いない。

 ナオトは、いい名前が思い浮かぶまで、ずっと腕を組んでいたが、しばらくするとそれをやめた。

 そして、彼はポツリとこうつぶやいた。


「……ハルキ」


「ハル……キ?」


「ああ、そうだ。『青い木』と書いて『青木はるき』だ。どうだ? 気に入ったか?」


 その時、彼女は彼を食べた。

 これには、乃木のぎも驚いた。


「え、ええーっ!? お、おい! ナオト! 大丈夫かー!」


「ああ、大丈夫だー。それより、そこでしばらく待っててくれー!」


「あ、ああ、分かった! 気をつけろよー!」


 彼がそう言うと、ナオトは青龍の口内に立っている身長百三十センチくらいの幼女に話しかけた。


「よう、もしかして、お前が『青龍』か?」


 青いうろこをほぼ全身にまとった緑色の瞳と長い青髪が特徴的な美少女……いや美幼女は、ナオトがそう言うとコクリとうなずいた。


「そうか……。お前が……青龍か……。それで? 俺が考えた名前はどうだった? もし気に入らないようなら考え直すが……」


「ハルキでいいよ……。直接、君にそのことを言いたかった……」


「だから、いきなり俺を食べたりなんかしたのか?」


「うん、そうだよ」


「そうか……。意外と大胆なことするんだな」


「よく言われるよ」


「そうか……。じゃあ、これからよろしくな。ハルキ」


「うん、よろしくね。ナオト」


 二人は歩み寄ると、ギュッと握手をした。

 これにて契約成立である……。


 *


「なあ、乃木のぎ。お前はこれからどうするんだ?」


 青龍(外装)の頭の上に乗ったまま、ナオトは彼にそうたずねた。


「うーん、そうだなー。まあ、お前について行くのも面白そうかもな」


「そうか。じゃあ、深谷ふかたに名取なとりに挨拶しないといけないな。あー、あと、俺の家族や新しい仲間についても説明しないといけないな」


「え? お前、結婚したのか?」


「いや、結婚はしてないが、訳あってモンスターチルドレンっていう子たちの親代わりみたいなことをやっていてだな……」


「そうなのか……。まあ、帰りながらにでも、ゆっくり聞かせてくれ」


「おう、分かった。じゃあ、早く乗ってくれ」


「おう! 分かった!」


 乃木のぎは青龍(外装)の頭の上に飛び乗ると、ナオトのとなりに座った。


「ミサキ、聞こえてるかー?」


 ナオトは出発前、ミサキ(巨大な亀型モンスターの本体)に連絡した。(念話である)


『うん、聞こえてるよ。どうやら無事に青龍のところに行けたみたいだね』


「ああ、おかげさまでな。あー、それとな。例の温泉はその青龍の汗だってことが分かったから、ミノリたちにそう伝えてくれないか? 場所はもう少ししたら教えるから」


『うん、分かった。じゃあ、ご主人、また後でね』


「ああ、また後でな」


 ナオトが念話を切ると、乃木のぎは不思議そうにナオトを見ていた。


「ん? なんだ? 俺の顔に何か付いてるか?」


「いや、その……今、誰かと話してなかったか?」


「うーん、まあ、話していないと言ったらうそになるかな。それもふくめて、道中に話すから今は気にするな」


「そうか……。よし、分かった。ただし、俺にも分かるように説明するんだぞ?」


「おう、分かってるよ……。それじゃあ、出発進行ー!」


「おー!」


 ナオトと乃木のぎ青木はるきは『橙色に染まりし温泉』を作るための場所に向かい始めたのであった。


 *


 その頃……ナオトの伝言を受け取ったミノリ(吸血鬼)は。


「とうとう青龍まで従えてしまうなんて……やっぱりナオトはすごいわね。けど、だとしたら、あと一体は北海道の方にいるのかしら? うーん、でもまあ、今はナオトがまた連絡してくるまで、ゆっくりしましょう」


 ミノリ(吸血鬼)はそう言うと、三色団子を食べ始めた。その時の彼女の顔はとても幸せそうだった。


 *


 その頃……白虎びゃっこは……。


「誰……? 私の眠りを邪魔するのは」


 とある雪山の洞窟の奥地で眠っていた白虎びゃっこの前に、立ちはだかった者がいた……。


「俺か? 俺は……龍すら屈服させられる力を持つ者だ!」


 その時の彼の瞳はルビーのように輝いていた。

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