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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その31

『空中要塞 デスカウント』……制御室……。


「…………う……うーん……」


 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)は、目を覚ました。

 最初に目に入ったのは、白い天井だった。

 体は妙に軽く、今にも浮いてしまいそうだった。


「……えーっと……俺は確か……ブラックと戦って。それから」


 彼が最後まで言い終わる前に、彼は宙に浮いた。

 赤い鎧と赤い四枚の翼と先端がドリルになっているシッポと黄緑色の瞳が特徴的な彼の体は、彼の意思に関係なく、ゆっくり前に進み始めた。

 その先で彼を待ち構えていたのは、白というより銀に近いショートヘアと黒い瞳と白いワイシャツと白いスカートと白い靴下と白い運動靴が特徴的な身長『百三十センチ』の美少女……いや美幼女『アイ』だった。


「おはよう、ナオト。調子はどう?」


 彼女はそう言いながら、彼を自分の目の前に立たせた。


「うーん……まあ、どこも悪いところはないが……妙に体が軽い気がするな……」


 彼女は「……ふっ」と笑うと、彼にこう言った。


「それは当然よ。あなたは、あなたと合体している天使型モンスターチルドレンの『固有大魔法』の影響を受けたのだから……」


 彼は聞き慣れない単語に疑問符を浮かべた。


「え? 何? 固有なんだって?」


「固有大魔法よ。固有魔法は元々、私が使っていたものだけど、固有大魔法はモンスターチルドレンがマスターを本当のマスターとして認めた時に初めて使用できる特別な魔法よ」


「そ、そうなのか? じゃあ、俺は『ミカン』のおかげで命拾いしたってことか……」


「ええ、その通りよ。それにしても、あなたはどんどん強くなっていくわね」


「いや、俺だけの力じゃ、あいつに……ブラックに勝つことなんて到底できなかった……。あいつに勝てたのは、俺の中にいるたくさんの存在たちのおかげだ。感謝しても仕切れない……」


「そう……。なら、まずは『アレ』を破壊してもらえるかしら?」


「あれ? ああ、『アレ』か」


 彼は自分の背後にある制御ユニットの方を見た。

 大黒柱のような黒い筒状の物体の内部にある巨大なエネルギーの集合体……。

『ビッグボード国』にいる成人男性をモンスターにした諸悪の根源……。

 それと同時に、この要塞の『心臓コア』でもある。

 それを破壊しない限り、『ビッグボード国』に平穏な日々が訪れることはない。

 だから、彼はここまでやってきた……。

 そして、その目標は……破壊すべき災厄さいやくは彼の視界に入っている。

 この機会をのがせば、ここまでやってきた苦労が全て無駄になる。

 だから、ここでけりをつける!


「そうだな……。あれを破壊すれば、モンスター化した人たちは元に戻るし、この要塞から出られる。けど」


 彼は、アイの方を向くと黄緑色の瞳を一瞬、ピカッとひからせながら、こう言った。


「あんたは、ここに何をしに来たんだ?」


 彼女は彼の問いに対して、こう答えた。


「それに関してはノーコメントよ。ただ……」


「ただ?」


「別にあなたの邪魔をしに来たわけじゃないから、勘違いしないでね?」


「……そうか。なら、いい」


 彼はそう言うと、思い出したかのようにこう言った。


「あー、それと、俺はあいつらをどうにかしてやりたいんだが……お前はどう思う?」


「あいつら? それはリアとロストのことかしら?」


「そうそう、そいつらだ。あいつらは元々、お前のところに居たんだろ?」


「ええ、そうよ。だけど、他の子たちよりも強すぎたから、追放したわ」


「なんでそんなことしたんだよ。お前なら、どうにかできただろ?」


「そうね……。私なら、どうにかできたかもしれない。ここにいるオリジナルの私なら……ね」


 彼はその単語に疑問をいだいたが、彼女にも彼女なりの事情があったことを察した彼はそれ以上、何もかなかった。


「そうか……。なら、俺があいつらを旅に同行させてもいいんだな?」


 彼女は、彼のその発言に驚きをあらわにした。


「ねえ、ナオト。あなたは、自分が今、何を言ったのか理解しているの?」


「理解……か。まあ、あれだな。もうくせになっちまったから、理解しているのかどうかは正直、分からない。けど、これだけは言える。俺は全てのモンスターチルドレンを救ってやりたいし、できれば元の姿に戻してやりたい」


 彼の言葉を聞いた彼女は「……ふっ」と笑った。


「……そう。なら、あなたの好きにしなさい。ただし、あの子たちは他の子たちより精神年齢が幼いわよ?」


「そうか。けど、まあ、なんとかしてみせるよ。俺があいつらにできることがあるなら俺は一瞬も躊躇ためらわねえ。だから、安心しろ。俺があいつらの居場所を作ってやる」


「そう……。なら、まずはあの制御ユニットを破壊しなさい。あれは、モンスターチルドレンと合体しているあなたじゃないと破壊できないのだから」


「ああ、そうだな。まずは、あのエネルギーのかたまりをどうにかしないといけないよな」


 彼はそう言いながら、制御ユニットの方に体を向けた。


「さあて……それじゃあ、やるか!」


 彼はそう言うと、赤い四枚の翼を羽ばたかせた。

 フワッと宙に浮いた彼は、制御ユニットに向かって飛び始めた。


「これで……終わりだあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 彼の真っ赤な拳が制御ユニットをつらぬいた瞬間、要塞が落下し始めた……。

 さぁ、問題はここからだ。どうする? ナオト。

 その頃、モンスター化した人たちはみな、元の姿に戻っていた。

 しかし、上空から落下してくる巨大な金属のかたまりを目にした途端とたん、人々から笑顔が消えた。


「な、何なんだよ、あれ」


「あんなのが落ちてきたら、このまちはおしまいだ!」


「ちくしょう! せっかく元の姿に戻れたのに、こんなのってありかよ!」


 人々は、口々にそう言う。

 誰もが絶望という名の負の感情によって、やる気を削がれていった。

 しかし、一人の男性が何かに気づいた。

 巨大な金属が何か……いや何者かによって押されている。

 小さくてよく見えないが、それは赤かった。

 それは巨大な金属のかたまりをどうにかしようと、必死に押していた。

 すると、それに便乗するかのように、複数の小さな物体がそれの周囲に集まり始めた。


「もしかして、俺たちを助けようとしてくれているのか?」


「そうだ……。きっとそうに違いない!」


「よおし、みんな! あいつらに魔力を送るように他のやつらに伝えろ! この国を終わらせたくないならな!」


『おおー!!』


 まちの人たちは、そのことを拡散し始めた。

『ビッグボード国』の国民たちが一丸となって、国を守ろうとしている。

 その情報は、他の国々にも伝わった。

 それからは、すごかった。

 各国から集まった名のある魔法使いたちだけでなく、まだ魔力が少ない子どもたちも協力して、巨大な金属のかたまりを必死に押している存在たちに向けて、魔力を送り始めたのだから……。


「なあ、感じるか? 俺たちにたくさんの人の魔力が送られてくるのを」


 ナオトは、今までモンスター化した人たちを倒していた複数の存在たちに向けて、そう言った。

 全員が何か言うと、集中が途切れる恐れがあったため、代表としてミノリ(吸血鬼)がこう言った。(ここには飛べる者たちしかいない)


「ええ、感じるわよ。こんなにたくさんの魔力を感じたのは、生まれて初めてよ」


「だよな。やっぱりそう思うよな。じゃあ、そろそろそいつらにいいところを見せてやろうぜ!」


「ええ、そうね。やってやりましょう!」


 ミノリ(吸血鬼)がそう言うと、みんなは意識を集中し始めた。


『はぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』


 ミノリ(吸血鬼)たちの体からあふれ出るオーラは徐々にふくらんでいった。

 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)が到着するまで、みんなは必死にそれを押していた。


「……みんなー。おまたせー」


 アイと手を繋いだ状態で、こちらに飛んでやってきたシオリは、みんなに手を振りながら、そう言った。


「遅いわよ! シオリ! 今までどこに居たの? あんたの固有魔法で早くなんとかしなさい!」


 ミノリ(吸血鬼)がシオリにそう言うと、シオリは「ごめんなさーい」と言いながら、ミノリ(吸血鬼)のとなりまでやってきた。


「それじゃあ、あとは頼むぞ。シオリ!」


 ナオトがそう言うと、シオリは『空中要塞 デスカウント』に触れながら、こう言った。


「うん、分かったー」


 シオリは、ヒコヒコと白い耳を動かすと、固有魔法を使った。


「固有魔法『重力操作グラビティコントロール』」


 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)がそう言うと『空中要塞 デスカウント』は『ビッグボード国』ではなく、そこから少し離れた草原の上に、ヒュンと移動した。


「はい、おしまい」


 シオリ(白髪ロングの獣人ネコ)がそう言った直後、下にいる人たちの歓声が聞こえ始めた。


「これで一件落着だな」


 ナオトは、アイ(モンスターチルドレンの生みの親)に近づくと、そう言った。


「ええ、そうね。だけど、あなたにはここに来た本当の目的があるはずよ。だから、このあとのことは、私に任せなさい」


 アイは、ナオトがこちらに来た時から、ナオトの足に飛び移ったシオリ(白髪ロングの獣人ネコ)を見ながら、そう言った。


「そうか……。なら、頼んだぞ。アイ」


「ええ、任せておきなさい」


 彼は、彼女の言葉を聞き終わるとみんなと合流するために、自分の羽から作った自分の分身たちにみんなを探すよう、指示を出した。

 その他の存在たちは、一旦、アパートへと戻っていった。


「それで? あなたは、これからどうするの? アリサ」


 アイは、先ほどまでナオトたちと共に『空中要塞 デスカウント』を押していた赤いスーツと赤い武装と白髪ロングと水色の瞳が特徴的な美少女……魔導兵器『アリサ』にそう言った。


「そうですね……。目的はもう果たしたので、研究所に戻ろうと思います」


「そう……。なら、あなたのマスターである『ブラック・カルテット』にこう伝えてくれる? 妙な真似まねをしたら、命の保証はできないって」


 彼女の黒い瞳からは、確実に殺意が放たれていた。

 アリサは、その瞳に一瞬、恐怖をいだいた。この人だけは怒らせてはいけないと……。


「りょ、了解しました。それでは、私はこれで失礼します」


「そう……。じゃあ、気をつけてね」


「はい」


 アリサはそう言うと、マスターが待つ研究所へ戻っていった。


「さてと、そろそろ後始末をしましょうか」


 アイはそう言うと、『空中要塞 デスカウント』が落下する前につかまえた『漆黒の裏組織(アポカリプス)』の幹部四人と共に、地獄へ向かうことにした。

 ちなみに、まちの修復は『実像分身(チャイルド)』で作った自分に任せたそうだ……。

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