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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その28

「おい、しっかりしろ……。おい」


 頬を叩かれたショックで目を覚ました彼の目の前には白い猫耳と白髪ロングと黒い瞳と白いシッポが特徴的な美少女……いや美幼女がいた。


「……う……うーん……」


「やっとお目覚めか……。まったく、だらしねえな」


「……お、お前は……誰……だ?」


「ん? 私か? 私は超獣人族の『カナミ・ビーストクロー』だ。こう見えても、お前よりずっと年上だが、くれぐれも敬語は使うなよ?」


「……わ……分かった。けど、助けてくれて……ありがとな……」


「いいってことよ。というか、サイクロプスを倒すなんて、お前すげえな」


「いや……別に……すごくなんか……ねえよ。俺はまだまだだ」


「そうか……。けど、あとは私に任せろ。このまちにいるモンスター化したやつらは、私が全部倒す。だから、お前はもう少しここで休んでろ。分かったな?」


「ああ……分かった。けど、また会えたら、その時は手合わせしてくれないか?」


「ふん、まあ、考えといてやるよ。ただし、私は結構、強いぞ?」


「ああ……それは分かるよ……。お前の体の中から、とてつもない量のエネルギーを感じるからな」


「そうか……。じゃあ、私はそろそろ行くぞ。もう少し休めば動けるようになるだろうから、それまでは安静にしてろよ?」


「ああ……分かった……。じゃあ、またな……」


 彼はそう言うと、スウスウと寝息を立て始めた。


「……さてと、そんじゃあ、そろそろ行くか。おい、ガキ」


「は、はいっ!」


 物陰ものかげに隠れていた『リル』は、カナミのところまで駆け寄ってきた。

 その直後、カナミはリルの頭をそっと撫でた。


「いいか? 私はそいつを助けたわけじゃない。いい遊び相手になってくれそうだから、生かしただけだ。分かったな?」


「は、はい。分かりました」


 リルは目をクリクリさせながら、そう答えた。


「よし、じゃあ、そいつが目を覚ますまで手を握ってやれ。それが今のお前にできる唯一のことだ」


 カナミはそう言うと、一瞬でその場からいなくなった。

 どうやら、目にも留まらぬ速さでジャンプしたらしい。

 リルは、その一瞬の出来事に驚きをあらわにしていたが、彼女の手のぬくもりがまだ残っていることに気づくと、彼女に言われた通りのことをすることにした。


 *


 その頃……カナミは……。


「さてと……このまちの中にいるモンスター化したやつらを一度にぶっ飛ばすには、やっぱりあれしかないよな」


 カナミは、とある建物の屋根の上に着地すると、両目を閉じた状態で詠唱を唱え始めた。


「力。それすなわち、我が種族の象徴なり。拳。それすなわち、我が種族のほこりなり。獣のごとき容姿。それすなわち、我が種族の歴史そのものなり。我が種族は、この世界において、究極の生命体であり、同時にこの世界の真の王である。今、この時、その一族の血を引くわれに絶対不可避の一撃をるえる力を与え給え。さすれば、このまちに蔓延はびこまわしき者たちにさばきの鉄槌てっついを下さん!」


 カナミが、キッと目を見開くと、彼女の両手に白い光がものすごい勢いで集まり始めた。


「さぁ! 今こそ、その力で諸悪しょあくの根源をち滅ぼせ!」


 彼女の両手に集まった白い光は、彼女の顔くらい大きくなると、その輝きをした。

 彼女はそれを両手にまとわせたまま、拳を構えた。

 そして、このまちの地面に向かって、その白き輝きを放つ大いなる力を一気に放出した……。


「『浄化の光を纏いし両拳グロリアス・スマッシュ』!!」


 まちの地面に向かって、一気に放たれた白い光はモンスター化した人たちのところに行くと、彼らの動きを止めるほどの輝きを放ち始めた。

 それはどんな場所であろうと、必ずモンスター化した人たちのところへ行き、彼らの動きを封じるためにその輝きを放つのであった……。


「……はぁ……はぁ……はぁ……。ひ、久しぶりに使うと……つ、疲れるものだな……。これは……」


 カナミは息を切らしながら、その場に膝をついた。


「まったく……こんなことになるのなら……あんなやつに……回復魔法なんて……使うんじゃなかった……な」


 注:あんなやつとは、布田のことである。


「……でも、今のを使う前に……回復魔法を使ったぐらいじゃ……私の魔力は空っぽにならないことが分かったから……まあ……いい……か……」


 彼女はそう言うと、その場に倒れた。

 別に気を失ったわけではない。

 超獣人族は眠ることによって、魔力を一気に回復させることができるからである。

 その証拠に、彼女はスウスウと寝息を立てている。

 眠っている間は、空気中にある魔力で透明な壁を作るため、敵が来ても安心である……。


 *


 その頃……『空中要塞 デスカウント』では……。

 ナオト、グレー、リア、ロストの四人とアイ、アリサの二人がその中にある廊下で合流していた。

 六人は、制御ユニットがある制御室まで一緒に向かうことになり、今に至る。

 制御室……。


「さてと……それじゃあ、やりますか」


 ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)は、腕を組んだ状態で仁王立ちしている『ブラック・ダイヤモンド』という男に向かってそう言った。

 黒い軍服と白い手袋と左目にある獣の爪痕と赤い瞳と黒い長髪が特徴的な彼は、実は気弱である……。

 どうしてグレーがこんなところにいるんだ?

 いや、待てよ……。兄弟の中で一番、かしこいグレーがここにいるということは、赤い鎧をまとったこの少年がグレーに何か吹き込んだ可能性があるな。(この少年とはナオトのことである)

 というか、どうして『純潔の救世主(クリアセイバー)』がこんなところにいるんだ?

(アイのことである)

 彼がそんなことを考えていると、ナオトが口を開いた。


「なあ、ブラック。お前は、この部屋にある制御ユニットを守ってるんだろ?」


「あ、ああ、そうだ。しかし、俺はたとえ手足をがれようとも、ここを絶対に死守するぞ?」


「まあ、そうだろうな……。けど、俺はモンスター化した人たちを一刻も早く元に戻してやりたいんだよ。だから……俺は……お前を……倒す!」


 赤い鎧と赤い四枚の翼と先端がドリルになっているシッポと黄緑色の瞳が特徴的なナオトは、拳を構えながらそう言った。


「そうか……。ならば、俺は……全力でお前を止める!」


 彼は拳を構えながら、そう言った。

 はぁ……やっぱりこうなるのか……。

 けど、お父さんはここを絶対に死守しろって言ってたから、そうするしかないよな……。


「戦う前に、お前の名前を教えてくれないか?」


「ん? 俺か? 俺はナオト。『本田ほんだ 直人なおと』だ」


「ほう、『ケンカ戦国チャンピオンシップ』で『はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令』……『オメガ・レジェンド』とほぼ互角に渡り合ったという『鎖の悪魔』か」


 う、嘘だろ……。なんでこんなところにそんな人が来るんだよ……!!


「うーん、正しくは『漆黒の堕天使』……いや、今は『真紅の大天使』ってところかな。まあ、呼び方はどうでもいいから、さっさと始めようぜ」


「ああ、そうだな。早速、始めるとしよう」


 無理……絶対……無理……。勝てる気しないわ。


「よし、それじゃあ、行くぞ!」


「かかってこい! 二度と立ち上がれないようにしてやる!!」


 こうして、二人の戦いが始まったのであった……。

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