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○○はゲートをくぐるそうです 承

 俺はサナエがいると思われる方を向いた。その時、ここに来た時は、まったく動けなかったのに、今は普通に動けることに気づいた。

 それがなぜなのかは分からなかったが、まあ、耐性がついたということにしておこう。それよりも今は。

 その直後、サナエが俺の心を読んでいるかのように、こう言った。


「さて、本題に入りましょうか。ナオト」


 俺は少し驚いたが、そんなことをいちいち気にしている時間はないと思い、即座に返事をした。


「ああ、よろしく頼む」


「じゃあ、一つだけお願いを聞いてくれる?」


 サナエは急にそんなことを言った。なぜ、このタイミングでサナエがそんなことを言ったのかは、分からなかったが、断る理由もなかったため。


「ああ、いいぞ! 俺にできることなら、何でもしてやる!」


 俺は自信満々に答えた。するとサナエは。


「じ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 少し恥ずかしそうに言った。


「おう! どんと来い!!」


「……あの子たちを」


「あいつらを?」


「……たまにでいいから、ここに連れてきてほしいの。ダメ、かしら?」


 サナエの望みは【話し相手を連れてきてほしい】というものだった。

 確かに、ここには俺とサナエ以外、誰もいないし、俺がいない時……サナエはひとりぼっちだ。しかし、それは、まるで俺以外……ここにくるやつはいない、と言っているようだった。


「…………」


 俺は、どう声をかけたらいいか分からず、返答を躊躇ためらっていた。

 俺がここにくる前、サナエはたった一人で孤独や不安、恐怖などに押しつぶされないように必死で、ここのぬしとして生きてきた。

 そのせいで、存在すら視覚で認識できないほど薄くて、不確定なものになってしまったのかもしれない。

 そんなのありかよ! と、俺は心の中で叫んだ。こいつは、永遠に等しい時間の中で、たった一人でいつまでも同じ場所に、居座らなければならないのか!

 それは、つまり、外界との接触を完全に断つということなんだぞ? 俺なら絶対に脱走する。何がなんでも脱走する。

 だけど、サナエはその行為に至っていない。おそらく彼女は自分の意志でここにいることで他の誰かが傷つくのを未然に防いでいる。

 自分一人が犠牲になればそれでいい。そう、それはまるで。


「正解よ。私はあなたのやり方を真似まねして、今まで生きてきたわ。だから、今でもここにいられるのよ」


 俺がふと思ったことをサナエは口にした。

 やはり俺の考えていることが分かるようだ。なら、俺がどう答えるのかも知っているのだろう。

 俺はルート(恋愛シミュレーションゲームの)を決める時の集中力を遥かに上回るもので、この選択に至った。

 それは、単純に『じゃあ、ちょくちょく、あいつらもここに連れてきてやるよ!』というものではなく、もっと複雑なものだ。


「そうか……。じゃあ、言うぞ。それと一つだけ俺からもお願いしてもいいか?」


「ええ、いいわよ。でもそれじゃあ、お互いの要求の数が合わないわね……」


「それもそうだな……。じゃあ、お前が何かもう一つ俺に要求してくれよ」


「え? いいの?」


「ああ、いいぞ。ただし、俺にできる範囲にしてくれよ? 例えばそうだな……。金メダルがほしいとかはなしな」


 その時、サナエが何の前置きもなく、いきなり笑い始めた。

 どうやら俺の発言がとてもおかしかったらしい。その証拠に、まだクスクスと笑っている。少しバカにされた気がしたので。


「な、何がそんなにおかしいんだ?」


 俺は少し怒り気味で、そう言った。


「ご、ごめんなさい。ふふふ……つ、ついおかしくて」


「俺、そんなにおかしなこと言ったか?」


「だ、だって、あなたが金メダルを取るなんてありえないもの」


「そ、それは、ものの例えだ」


「でも、どう考えても無理だから、ふふふふ」


「そ、そんなの俺が一番よく分かってるよ」


「でも、金メダルって、ふふふふ」


 まったく……こいつ、俺で遊んでるな……。でもまあ、笑っているところを初めて見られた(?)から、よしとするか。


「しつこいぞ、サナエ……。それで? 俺にどんな要求をするんだ?」


 俺はいつまでも笑っているサナエに対し、そう言った。


「ああ、ごめんなさい。私、笑い出すと止まらないの」


「あー、それはもういいよ。それより今は、話を先に進めることを優先してくれ」


 俺はこの時、少し苛立いらだっていた。

 まあ、サナエにはお見通しだろうが……。

 さて、そろそろ話を進めよう。


「おい、サナエ。いい加減に……」


「はいはい、慌てない、慌てない、一休み、一休み」


「○休さんのセリフを使うな。というか、よく知ってるな」


「ここにいてもやることがないし、誰もこないから暇つぶしに、たまに観てるのよ。ちなみに、今まで見たアニメのタイトル数は……」


「いや、もういい。また今度にしてくれ……」


「あら、そう? 残念だわ」


「コホン……。それで? 結局、要求は何なんだ?」


「ああ、そうだったわね。すっかり忘れていたわ」


 俺はサナエがどんどん話を脱線させていくので不安を抱いた。

 こいつとこんなに話したのは初めてだが……ミノリでも、こうはならない。

 おそらく俺以外の誰かと話したことがないせいだろう。

 はぁ、先が思いやられるなあ。俺は心の中でため息をいた。

 次、話が脱線したら帰ろう、と俺は決心した。


「で? 俺に要求するのか? しないのか?」


 そろそろ俺の怒りゲージがマックスになるため、できるだけ俺が怒っていることがバレないようにそう言った。


「待って、今から要求するから」


「おう、わかった」


「私の要求……それは……」


「それは……?」


「あなたが、異世界で見て、聞いて、感じたことをちょくちょく私に報告にくること! あー、あと、記憶に関する異常は今回からなくしたから、毎日来てもいいわよ。……以上!」


 最後のはどこかで聞いたようなセリフだったが、気にせず。(ただの人間には興味ありません……から全てが始まった物語のセリフ)


「おう、分かった。じゃあ、俺も言おうかな」


 俺はそれに対する答えと俺の要求を言うために、深呼吸をした。


「俺とあいつらがここに来ることでお前が少しでも元気になるのなら、俺たちは毎日だって来てやるよ。で、俺の要求だが……。その……なんというか俺はお前に死んでほしくない……というか死ぬな! せめて俺がお前をここから解き放つ日まで生きてくれ!!」


「……あなたがそう言うのなら、私はその通りにするわ」


 その時のサナエは、なんとなくうれしそうな顔をしているような気がした。


「じゃあ、そろそろ彼女たちがあなたを怒った理由を話しましょう」


「い、いきなりだな」


「あなたが一番知りたかったことでしょう?」


「まあ、それはそうだが……今までのやり取りは、いったいなんだったんだ?」


 俺は疑問に思い、サナエにそういた。すると。


「ああ、あれはね……。うーん、やっぱりいいわ。そのうち話すから」


「そうか。じゃあ、頼む……」


「分かったわ。彼女たちが怒った理由、それは……」


 サナエの話の内容は次回、明らかになる……。

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