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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その14

 四月十八日……午前八時十五分……。

 この日、ビッグボード国内でモンスター化した人たちがまちや人を襲う事件が起こった。

 今から始まるのは、その事件のほんの一部である。


「まったく……もう少し温泉にからせてくれよ。というか、お前らはこの国のやつらなのか?」


 杉元は自分を取り囲んでいるモンスター化した人たちにそう言った。

 しかし、彼らは何も言わなかった。


「はぁ……まあ、いいや。とりあえずお前らがあたしの敵だってことは分かってるからな!」


 杉元はそう言うと、名槍『黒神槍こくじんそう』を覆っていた黒い布を取って、彼らの相手をすることにした。


「さあて……そんじゃあ、行くか!」


 黒く長い髪を白いひもでポニーテールにしている彼女はそう言うと、彼らを倒し始めた。


「あたしの槍がなんでこんなに切れ味がいいか教えてやろうか!」


 杉元はそう言いながら、彼らをぶっ飛ばしていた。


「この槍の先端は黒曜石っていう石からできてんだよ。まあ、お前らは知らないかもしれないが、あたしがいた世界では長野県あたりでよく見つかるんだよ」


 杉元はその槍を頭の上でクルクルと回した後、モンスター化した人を連続で三人倒した。


「でな、その石の切れ味は指をそれに少しだけ触れさせただけでも出血するくらいのものなんだよ。まあ、そういうわけでこの槍に触れたやつは大抵が血を見ることになるってわけだ!」


 杉元はさらにモンスター化した人を四人倒した。


「説明は以上だ。他に何か知りたいことはないか?」


 杉元は槍を肩にかけながら、そう言った。


 すると、どでかいハンマーを持った鬼が彼女の背後から攻撃した。


「おー、危ねえ、危ねえ。あと少し気づくのが遅れてたら、ペシャンコだったぜ」


 どうやら、杉元はそいつの頭の上に瞬時に移動していたおかげで難を逃れたらしい。


「ガウッ!!」


 そいつはそう言いながら、頭の上に乗っている彼女を潰そうとしたが、逆に手を少し切られてしまった。


「あらよっと……。ほら、かかってこいよ。ちょうどそいつらの相手をするのに飽きてたところなんだ」


 杉元はそいつの頭から飛び降り、着地した後、手招きをしながら、そう言った。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 体長十メートルくらいのそいつは鼓膜が破けそうな声で吠えた。

 そして、彼女を殺そうと前進し始めた。


「お前は確かに強い。そのパワーと体の大きさは誇っていいぞ。けどな……」


 杉元はそう言うと、深呼吸をした。

 そして、槍の先端をそいつに向けると、こう言った。


「あたしみたいなやつと戦う時は、スピードが重要になるから、それをどうにかした方がいいぞ」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 そいつはどでかいハンマーを彼女の脳天めがけて振り下ろした。

 しかし、その時には既に決着がついていた。


「杉元式激槍術……いちの型一番『黒雷の猛進』!!」


 いつのまにか、そいつの背後に立っていた彼女はそう叫びながら、槍の石突いしつきの部分を地面に当てた。

 その直後、そいつの体には雷が落ちたかのような黒いあざができていた。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 そいつはそう言うと、ゆっくりと膝から倒れた。


「……楽しかったぜ。お前との戦いは……。けど、あたしを倒すにはもっと修行が必要だったみたいだな」


 彼女は先ほどの黒い布を拾うと、その場から離れた。


 *


「はぁ……なーんか物足りねえな……。久しぶりに暴れられると思ったのに……がっかりだぜ……」


 彼女はそう言いながら、まちを歩いていた。

 すると……。


「ん? あれは……ガキか? なんでこんなところにいるんだ?」


 噴水の近くでシクシク泣いている幼女を見つけた。


「はぁ……しょうがねえ……。助けてやるか」


 杉元は頭をきながら、その子のところに行った。


「おい……大丈夫か? どっか痛むのか?」


 杉元はその子に話しかけたが、彼女は泣き続けている。


「おい、お前は生きてんのか? 死んでんのか?」


「……い……生きてる……よ……」


「そうか、そうか。なら、あたしの顔を見ろ」


「……どう……して?」


「質問は後だ。とりあえず今は、あたしの顔を見ろ」


「わ……分かった」


 その子はそう言うと、杉元に顔を見せた。

 黒いローブと赤髪ショートと黒い瞳が特徴的な美幼女は涙目だったが、その潤んだ黒い瞳は杉元の心をときめかした。


「なんだよ……結構、可愛いじゃねえか。うりうりー」


 杉元はそう言いながら、彼女の頭を撫でた。


「や、やめてください! というか、私を助けてください!」


「それは別にいいけどよ。その前に一ついいか?」


「は……はい。何ですか?」


 彼女がそう言うと、杉元は彼女にこう言った。


「なあ、このまちでいったい何があったんだ?」


「そ……それは……私にも分かりません」


「そうか……。なら、なんでお前はこんなところにいるんだ?」


「それは……その……家に大切なものを置いてきたからです」


「大切なもの?」


「はい。私にとってはすごく大切なものです」


「そうか……。なら、あたしと一緒にそれを取りに行かないか?」


「え? いいんですか?」


「ああ」


「そ、それじゃあ、その……よろしくお願いします!」


「おう、よろしくな。というか、お前の名前を教えてくれないか?」


「い、嫌です!」


「どうしてだ?」


「そ、その……私の名前は……あんまり人に教えちゃいけないってお母さんに言われてるから……」


「へえ、そうなのか。まあ、言いたくないなら、別にそれで構わねえよ」


「え? いいんですか?」


「ああ、もちろんだ」


「そ、そうですか。なら、この件が終わったら、言います。それでいいですか?」


「ああ、いいぞ。じゃあ、行くか」


「は……はい!」


 その子はそう言うと、杉元の手を握った。

 そして、家まで案内することにした。


 *


 杉元は先ほど出会った幼女と話をしながら、歩いている。


「それにしても、さっきまで平和そのものだった『まち』が一瞬でこうなっちまうとは……怖いものだな」


「お姉さんはこのまちの人なんですか?」


「いや、あたしはこの世界の住人じゃねえよ。こことは違う世界から来たんだ」


「そ、そうですか。じゃあ、このまちに来るのは初めてなんですね?」


「まあ、そうだな。けど、ここに来る前は『ナーラ』のまちにいたんだぞ」


「そう……ですか。ところで、お姉さんが持ってるそれは何ですか?」


「ん? あー、これか。これは『黒神槍こくじんそう』っていう槍でな。使いこなすのは結構難しい武器なんだよ」


「そうなんですか? じゃあ、お姉さんはそれで人を殺したりしたことがありますか?」


「そう……だな。まあ、殺したことがないって言ったら嘘になるかな。けど、それはあくまで自己防衛だ。あたしはお前みたいに可愛くないから、強くなるしかなかったんだよ」


「そう……ですか。えっと……その、ごめんなさい。私、つい、気になって……」


「いや、いいんだよ。あたしは別に気にしてなんか」


 その時、モンスター化した人たちが二人を取り囲んだ。


「はぁ……まったく……。お前らって、本当に空気読めねえよな!」


 杉元はそう言うと、名槍『黒神槍』を覆っていた黒い布を取って、彼らの相手をすることにした。


「お前は隠れてろ。ただし、あたしが危なくなっても絶対に助けようなんて思うなよ?」


「わ、わかりました。気をつけてくださいね」


「ああ、できるだけそうするよ!!」


 杉元はそう言うと、彼らを倒し始めた。


「どおおおおおりやああああああああああ!!」


 彼女の槍はモンスター化した人を次々に吹っ飛ばしていく。


「おいおい、お前らの力はこんなもんなのかよ!」


 彼女がそう言うと、彼女の頭上から『悪魔』が降臨した。


「おっと! 危ねえな。落ちてくるなら、ちゃんとそう言えよ! 死ぬかと思ったぞ!!」


 そいつは黒い体と金色の瞳と黒いコウモリ型の翼と黒い爪とサメのような鋭いきばが特徴的だった。


「なんだよ。あたしを殺しに来たのか?」


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!」


「はぁ……分かったよ。相手になってやるよ。けど、その前に」


 彼女が最後まで言い終わる前に、そいつはその場にいたモンスター化した人を倒してしまった。


「お……おいおい、仲間割れか? けど、あたしと戦いたくてウズウズしてるのは分かるぜ」


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル……」


「よおし……なら、やるか。お前となら、本気で戦えそうだからな!」


 杉元は槍を構えると、ニシッと笑った。

 その直後、その悪魔は彼女を殺そうと前進し始めた。


「いいね、いいね! お前みたいなやつは倒し甲斐があるぜ!」


 杉元は思い切り地面を蹴ると、そいつに向かって前進し始めた。


「おりゃあああああああああああああああああ!!」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 悪魔の鋭い爪と杉元の槍の硬度はほぼ同じだった。しかし、実力は杉元の方が上であった。


「そおおおおおおおおおれえええええええええ!!」


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 杉元の一撃が悪魔の右腕を切断した。


「お前みたいな悪魔なんかに負けるわけにはいかないからな! 手加減はできねえぞ!」


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!!」


「なんだよ。痛いのか? そうか、そうか。痛むのか。けど、さっきお前が倒したやつらだって、今のお前が感じているような痛みを感じてたんだぞ?」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 悪魔はそう言いながら、切断された右腕を左手で拾った。

 その後、切断部分にそれをくっつけると、右腕は完全に元通りになった。


「お……おいおい、そんなのありかよ。まったく……これは少しやばいかもしれないな……」


 その後、悪魔の反撃が始まった。激しい猛攻と迫り来る死の恐怖。

 そして、杉元の体力もそろそろ限界だった。

 なぜなら、杉元式激槍術を一回使用するのに、かなりの体力が必要だからだ。

 凡人なら、一度も使えないそれを彼女は先ほど使ってしまった。

 故に彼女は苦戦しているのである。


「はぁ……はぁ……はぁ……ま、まったく……お前すげえな。あたしとここまで渡り合えるやつなんて、そんなにいねえぞ」


 彼女の体には、いくつも切り傷があった。

 しかし、彼女はそれでも立っている。なぜなら、守りたい人が近くにいるから……。

 杉元はニシリと笑うと、槍の先端を悪魔に向けてこう言った。


「お前をここで倒しておかねえと、このまちのやつらがここに戻ってきた時、困るからな……。悪いが、そろそろ倒させてもらうぜ」


 悪魔は不思議に思った。この人間はもう立っていることさえ辛いはずなのに、なぜここまで自分に挑んでくるのかと……。

 しかし、彼には分からない。モンスター化する前なら、それを理解できたかもしれないが、今となっては不可能だ。

 なぜなら、人の気持ちが理解できるのなら、平気で仲間を傷つけたりしないからだ。


「そんじゃあ、今日一番の大技をお前に見せてやるよ。けどまあ、それを見切れるかどうかはお前次第だけどな!」


 杉元は意識を集中させると、悪魔の胸骨めがけて、それを放った。


「杉元式激槍術……の型一番『黒雷の猛突進』!」


 悪魔には彼女の動きが全く見えなかった。それどころか自分が技を受けたかどうかも分からなかった。

 自分の背後に立っている彼女の方を向いた悪魔は初めて自分の胸に大穴がいていることに気づいた。

 悪魔は彼女を殺そうと一歩前に進んだ。しかし、悪魔の命はもう既に尽きていた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 悪魔の断末魔は辺り一帯に響き渡った。

 悪魔がズシンと地面に倒れた直後、杉元は少し吐血した。

 そして、そのまま気を失ってしまった……。

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