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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その13

 二人が移動していた時、突如として体長三十メートルほどの巨人が、まちを破壊し始めた。

 しかし、どこからともなく黒い槍が飛んできてそいつの両目を貫いたのを目撃した。


「い、今のはいったい……」


「さぁな。けど、なんとかなったみたいだから、先を急ぐぞ」


「はい!」


 彼女はマーラの母親を早く見つけるために屋根の上を伝っているが、本当はもっと安全にマーラを運びたいと思っている。


「なあ、マーラ。お前の母親ってどんなやつなんだ?」


「え? 私のお母さんですか?」


「ああ、パッと見で分かるくらいの情報でいいから教えてくれないか?」


「いいですよ。でも、一つ条件があります」


「なんだ?」


「一旦、どこかに下ろしてください」


「ああ、分かった」


 坂井は、とある建物の屋根の上に着地すると、マーラをそこに下ろした。


「ここでいいか?」


「はい! 大丈夫です!」


「じゃあ、話してくれ」


「はい! えーっとですね。髪は私と同じ金色で長さは腰くらいまであります。目は水色で服は……」


「シスター服……だろ?」


「ど、どうして分かったんですか?」


「それはな……ここから見えてるからだ」


「ど、どこですか!」


「ほら、あそこだ」


 坂井が指差した方向にいたのは、確かに彼女の母親だった。


「お、お母さ……」


「待て。様子がおかしい」


「そ、そうですか?」


「ああ、間違いない。あいつがこのまちをこんな風にしたやつの一人だ」


「そ、それってどういうことですか?」


「最近、教会から何か買わなかったか?」


「え、えっと、なんか悪魔に取り憑かれた時に飲めば悪魔が出ていくっていう薬をまちのみんなが買っていたような気がしますけど」


「そうか。なら、もうすぐその答えが分かるぞ」


「え? それってどういうことですか?」


「まあ、見てろよ」


「は、はい」


 マーラは自分の母親の方を見た。

 すると、モンスター化した人たちが彼女の指示に従っているかのように見えた。


「い、今のって……」


「ああ、そうだ。あいつらはお前の母親の指示通りに動いてるってことだ」


「そ、そんな……! じゃあ、お母さんは……!」


「ああ、このまちがどうしてこうなったのかを知ってると思うぞ」


「そんな……お母さんが……なんで……」


 坂井は頭を抱えるマーラを後ろから抱きしめると、こう言った。


「大丈夫だ。お前はここで待ってろ。私がなんとかするから」


 マーラは小さく震えながら、こう言った。


「うん……お願い……」


「よし、じゃあ、おとなしくしてろよ」


 坂井はそう言うとマーラの母親のところに行った。


「……あらよっと」


 坂井はマーラの母親の目の前に着地した。


「なあ、あんた。マーラ・グリーンウッドって名前に聞き覚えはないか?」


「どうして、今そんなことを聞くのかしら」


「質問に答えろ。あんたはあいつの母親なのか?」


「……ええ、そうよ。私はマーラ・グリーンウッドの母『リリー・グリーンウッド』よ」


「へえ、リリーね。いい名前じゃねえか」


「そう? 私はもっと大人っぽい名前の方がよかったのだけれど」


「文句言うなよ。名付け親に失礼だろ」


「名付け親……。そんな人、私にはいないわ」


「じゃあ、誰に付けてもらったんだよ」


「それは……あなたに言う必要はないわ!」


 リリーはそう言いながら、手刀で坂井の左目を貫こうとした。

 しかし、坂井はその手を左目に当たる前にギュッと握って止めた。


「おいおい、いきなり攻撃することないだろ? しかも、なんだ? この手は。まるで金属みたいだな」


「金属系魔法を知らないとなると、あなたもしかして異世界人?」


「ああ、そうだ。私は異世界人だ。でも、私から見れば、この世界のやつらは全員、異世界人だがな」


 坂井はそう言うと、リリーの手を握るのをやめた。


「あなたの目的は何? 私の命? それとも……」


「おいおい、そこは娘の心配をするところだろ? というか、あんたはこのまちのやつら……いや男どもに何をしたんだ?」


 リリーは拳を構えながら、こう言った。


「それをあなたに話す必要はないわ。もし、そのことについて知りたいのなら、私を倒してからにしなさい」


「ふん、まあ、そうなるよな。けど、こっちは最初からそのつもりだったから、むしろ感謝するよ。リリー・グリーンウッド」


 坂井は拳を構えると、ニシッと笑った。


「なるほど。あなたも私と同じ拳で語り合うタイプなのね」


「ああ、そうだ。というか、この方が手っ取り早いだろう?」


「そうね。たしかにこの方がお互いのことをよく知ることができるものね」


「それじゃあ……そろそろ血祭り(パーティー)を始めようか!」


 こうして、ヒヨリ対リリーの戦いは始まった。


「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」


「はぁあああああああああああああああ!!」


 連打、連打……とにかく連打。とりあえず連打。

 拳と拳のぶつかり合いは時間の経過と共にその速さと重さを増していく。


「……す……すごい」


 それをとある建物の上から見ていたマーラは両者の戦いがどうなるのか予想しようとしていたが、現時点でそれをするのは不可能だということが分かった。


「私が勝ったら、私の質問に答えてもらうぞ!」


「では、私が勝ったら、このまちで起こったことを全て忘れてちょうだい」


「ああ! 望むところだ!!」


「くっ……!」


 リリーは数メートル後ろに下がるほどの一撃をくらったが、衝撃は金属系魔法でカッチカチにした両腕をクロスして和らげた。

 な、なんて威力なの……。見たところ魔法を使っているようには見えないけれど。

 もしかして、本当に魔法を使っていないというの?

 だったら、私はこのハンデを有効活用するのみよ!


「金属系魔法……『金属製の副腕(メタル・サブアーム)』!」


 リリーがそう言うと背中から金属製の腕が生えた。


「ちっ! 腕を増やしやがったか。まるで天津飯(て○しんはん)だな」


「さぁ、戦いはまだまだこれからよ!」


「ああ、そうだな!」


 ヒヨリ対リリーの戦いはさらに激しさを増していった。

 それから数十分後……。


「はぁ……はぁ……はぁ……。やっぱり四本腕はきついな」


「よ、ようやく決着が……つきそう……ね」


「はぁ? 何、言ってんだ。まだまだこれから、だろ? 戦いは」


 両者はさすがに疲れていた。だから、最後に、今持てる力の全てを目の前にいる女にぶつけることにした。


「そうね……。でも、これであなたとの戦いを終わらせるわ」


「奇遇だな。私もそう思ってたところだ」


 両者は微笑みを浮かべながら、拳を構えた。

 その後、数秒間、沈黙が流れた……。

 そして、その時はやってきた。


『はぁああああああああああああああああああ!!』


 両者はほぼ同時に相手に向かって走り始めた。


「金属系魔法……『金属の肉体(メタル・ボディ)』!!」


「坂井式撲殺術……の型一番『大地隆起拳』!!」


 リリーの四つの拳とヒヨリの右拳が重なったその時、両者は数メートル後ろに吹っ飛んだ。

 クルリと宙返りして着地した両者。

 ヒヨリは少しだけ吐血した。

 その後、リリーはかなり吐血した。

 両者は微笑み合うと、ほぼ同時にバタリと倒れた。


 *


 それからリリーが目を覚ましたのは、ヒヨリが目覚めてから数十分後だった。


「わ……私は……生きて……いるの?」


「ああ、生きてるよ。というか、あんたの娘に感謝しろよ。あんたにずっと回復魔法をかけてたのは、あいつなんだからよ」


「あの子が……私に……?」


「ああ。だよな? マーラ」


「う、うん……」


 マーラは地面に横になっているリリーに顔を見せた。


「マーラ……」


「お母さん……」


「ごめんなさい。私は……」


「ううん、もういいよ。お母さん、ずっと寝言で私やお父さんに謝ってたから」


「そう……」


「うん、それとね。このまちがどうしてこうなったのかも寝言で言ってたよ」


「そう……」


「まあ、あれだな。あんたもあんただが、このまちをこんな風にした諸悪の根源はこのまちにいるから、そいつをぶっ飛ばすまではこのまちから出られないってことだな」


「そう……ね。ところであなたの名前はなんていうのかしら」


「ん? あー、そういえば、まだ言ってなかったな。コホン、えー、私の名前は『坂井さかい 陽代里ひより』だ。あと、あんたはなかなかの腕だったぞ。できれば、また手合わせしてくれ」


「ええ……また……会えたら……ね……」


「お母さん!」


「大丈夫だって、気を失っただけだから」


「そ、そう……」


「ああ」


 さてと……これからどうしようかな?

 まあ、二人をまちの外に送り届けてから考えるか。

 ヒヨリはとりあえず、リリーが目を覚ますまで、その場で待機することにした……。

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