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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その12

「それにしても、このまちでいったい何が起こってるんだろうな」


「それは私にも分かりません。けど……」


「けど?」


「お父さんがあんな風になる前、少しだけ様子が変だった気がします」


「そうか。それはどんな風にだ?」


「うーんと、そうですね。少し立ちくらみというか一瞬ふらっとしていました」


「ふらっと……ねえ。それ以外でおかしなところはなかったか?」


「えーっと、そうですね。あとは、お父さんがふらっとした直後に周りの人もなんだかふらっとしていたんです」


「そうか……。それは妙だな」


「はい、私もそう思いました」


 集団催眠によるものなら、近くにそれを発動させてるやつがいるはずだが、今回はまち全体にその影響が出ているから、それは当てはまらないな……。

 ということは……。


「なあ、マーラ」


「なんですか?」


「その時、ふらっとしてたやつらって、みんな男じゃなかったか?」


「そういえば、そうですね。そうだったと思います」


「そうか。そういうことか……」


「何か分かったんですか?」


「ああ、少しだがな」


「それはいったい何ですか?」


「ああ、それはだな……」


 その時、モンスター化した人たちが二人を取り囲んだ。


「マーラ、その話は後だ。とにかく今は安全な場所に。まあ、囲まれてるからそれは無理だな。けど、できるだけ私の目の届く範囲にいるんだぞ?」


「は、はい! 分かりました! 気をつけてくださいね!」


「ああ、できるだけそうする……よ!」


 坂井はそう言うと同時に地面を思い切り蹴って走り始めた。


「おおおおおおおらああああああああああああ!!」


 坂井の拳は彼らを次々に吹っ飛ばしていった。


「何人来ようと! 今の私には! 勝てねえよ!」


 一人につき一発殴るという戦法。

 たまに蹴りも入れているが、それは拳だけに頼ってはいけないというわけではない。

 それは両足も含めて初めて成立するのが坂井式撲殺術だからである。


「マーラ、生きてるか!」


 坂井が彼女の方を向いた時、彼女はモンスター化した人に襲われかけていた。


「くっ……! 間に合えええええええええええ!!」


 坂井は急いでマーラのところへと向かった。そして、ある程度、距離を詰めたところで彼女はこう言った。


「坂井式撲殺術……壱の型三番『大地の雄叫び』!」


 彼女の拳から放たれた衝撃波はモンスター化した人を吹っ飛ばした。


「大丈夫か! マーラ!」


「は、はい……なんとか……」


「そうか。それはよかった」


 その時、坂井の背後にモンスター化した人が現れた。マーラはそれに気づくと叫んだ。


「ヒヨリお姉さん! 後ろ!」


「だあああああああああああああああああああ!!」


 坂井の拳は数十メートル離れたところまでそいつを吹っ飛ばした。


「ふぅー、ありがとな、マーラ。おかげで命拾いし」


「ヒヨリお姉さんのバカ!」


 マーラは坂井にそう言いながら、彼女に抱きついた。


「お、おい、まだ戦闘中だぞ?」


「でも、油断してたでしょ!」


「そ、それはまあ、そうだけどよ……」


「私を助けてくれたのは嬉しいけど、それでヒヨリお姉さんが傷つくのは見たくないよ!」


「あ、ああ」


「ああ、じゃないよ! お願いだから、私を一人にしないでよ! うえええええええん!!」


「お、おい! 泣くなって。私はここにいるだろ?」


「でも……! でもおおおおおおおおおおおお!!」


「お、おい! まだあいつらがいるんだぞ……って、あれ? あいつら、どこ行ったんだ?」


 先ほどまで二人を取り囲んでいたはずの彼らはいつのまにかどこかに移動していた。

 あいつら……もしかして……。


「うわあああああああああああああああああん!!」


「あー、よしよし。怖かったなー。大丈夫、大丈夫」


 坂井はそう言いながら、マーラの頭を撫で始めた。

 しばらくすると、マーラは泣き止んだ。しかし、彼女の目の下は赤くれていた。


「……うぐっ……ひんっ……ぐすっ……」


「……あー、その……なんだ。こ、今度から気をつけるから、もうそろそろ離れてくれないか?」


「……嫌だ」


「なんでだよ……。お前のお母さんを探すんじゃなかったのか?」


「でも、その前にヒヨリお姉さんがいなくなっちゃったら、私は……私は……!」


「はぁ……仕方ねえな」


 坂井はそう言うと、マーラをお姫様抱っこした。


「な、何するの! 下ろして!」


「それは無理だ。というか、最初からこうしてればあいつらに出くわさずに済んだ。そうだろ?」


「そ、それは……まあ、そうですけど……」


「だから、これから先は屋根を伝って行くぞ」


「え? ちょ、ちょっと待ってください! 私、心の準備がまだ……!」


「よっしゃ! それじゃあ、行くぞ!」


 坂井はそう言うと、マーラをお姫様抱っこしたまま地面を思い切り蹴った。


「きゃああああああああああああああああああ!!」


 今まで高いところにあまり行ったことがなかったマーラは驚きを露わにしていた……。


「やっほおおおおおおおい! やっぱりいいな! この感じ! なあ? マーラ」


「そ、そんなことないですから、早く下ろしてくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 しかし、坂井はその言葉を聞いていないフリをした。


「そうか、そうか。お前もそう思うか。私たち気が合うみたいだな」


「もうー! 私の話をちゃんと聞いてくださいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 坂井が屋根を伝って移動している間、マーラはずっと下ろしてほしいと言っていたが、坂井はまったく聞く耳を持たなかった……。

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