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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その10

「……ん……こ……ここは……どこだ? でも、なんだか懐かしいな……」


 白しかない空間の中でふわふわと浮かんでいる小宮は、ぼーっと天井があるかもしれない場所を見ていた。

 すると、どこからか声が聞こえた。


ひかりちゃん、私のこと覚えてる?」


「お……お前は……鉄華丸……なのか?」


「そうだよ。私は鉄華丸。光ちゃんの一族が大切に使ってくれたおかげで付喪神つくもがみになれたんだよ」


「そう……だったな。しかし、どうして私はこんなところにいるのだ?」


「それはね。私の力を使いすぎたからだよ」


「私がお前の力を使いすぎた……だと?」


「うん、そうだよ。光ちゃんは自分の体力のほとんどを使って、小宮式剣術(さん)の型最終番を使ったんだよ」


「そう……だったな……。確かに私はあの時、お前の力を引き出すために最終番を使った。しかし、あの力はしばらく動けなくなるだけだったはずだぞ?」


「まあ、そうなんだけどね。なんか不思議なことが起こってるんだよ」


「不思議なこととはなんだ?」


「えーっとね、なんか根っこを足みたいに動かして移動してきた『ラッパスイセン』が光ちゃんを癒してくれてるんだよ」


「うーん……おそらくそれは、黒沢くろさわの仕業だな」


「黒沢って、すばるちゃんのこと?」


「ああ、そうだ。あいつは植物に自分の生命力を少し与える代わりに召喚した植物の花言葉を使えるようになる黒沢式植物召喚術の使い手だ」


「なるほど。じゃあ、光ちゃんの他にも高校時代の同級生がその国にいるんだね」


「まあ、そうだな……って、お前は私と共に行動していたはずだろ? どうしてみんなと共に行動していることを知らないんだ?」


「私はね、光ちゃんが私を使っている時にしか起きてないから、周りがどうなっているのかは全然分からないんだよ」


「なるほど。そういうことか」


「うん」


 二人は、しばらくの間、その空間で話をしていた。


 *


「……う……うーん……私は……生きて……いるのか?」


 小宮は目の前に『ラッパスイセン』がいることに気づくと、ゆっくりと立ち上がった。


「ありがとう……お前たちのおかげで私はまた戦うことができる。本当にありがとう」


 小宮がそう言うと彼女の周囲にいた『ラッパスイセン』たちは別の場所に移動し始めた。

 その直後、体長三十メートルほどの巨人が、まちを破壊し始めた。


「な……なんだあれは! あんなのが暴れたら、このまちは終わってしまうぞ!」


 しかし、どこからか飛んできた二本の黒い槍がそいつの両目を潰した。

 その直後、そいつは仰向けで倒れた。

 普通なら、多くの建物が壊れたりするのだが、今回はそれがなかった。


「こんなことができるのは黒沢くらいだが、まあ、被害が少ないのはいいことだ」


 小宮はそう言うと、まちに残っているモンスター化した人たちを倒すために、自分の近くに落ちていた赤い鞘に収められた刀をしっかり握った。


「これからもよろしく頼むぞ。『鉄華丸』」


 彼女は戦う巫女『小宮こみや ひかり』。黒く長い髪を赤い布紐で蝶々結びにしている黒い瞳の美女である。

 日々、おのれと向き合い、戦いの中で成長していく彼女は『紅蓮の巫女』の異名を持つにふさわしい存在である。


 *


 その頃……ビッグボード国上空では……。

 ここは『空中要塞 デスカウント』の中である。


「……リアちゃんに……リアちゃんに会いたいよ」


 黒髪ロングと赤い瞳が特徴的な美少女……いや美幼女『ロスト』はかせで手足を拘束された状態で壁に貼り付けられていた。


「どうして……どうして私がこんな目にわないといけないの? 私……何も悪いことなんてしてないのに」


 薄暗い部屋の中でボロボロの服を身にまとった幼女はかすかに震えながら泣いていた。

 悪魔型モンスターチルドレンの十番以内に入れないほどの実力を持つ彼女はモンスターチルドレン育成所から出た後……天使型モンスターチルドレンの十番以内に入れなかった『リア』という幼女と共に行動していた。

 しかし、数日後、二人はここに連れてこられた。

 そして、組織の研究に半ば強制的に加わることとなった。

 その研究とは普通の人間にもモンスターチルドレンと同等の力を与えることができる薬を作るために自分たちの血を組織に差し出すことだった……。

 しかし『五帝龍』の力と『あるもの』が込められている彼女たちの血液は、他の者の体内に入るとその体を喰らってしまうため、何倍にもうすめる必要があった。

 今のところ、確実に安全な薬はできていないが『長老会』の一人からもらった薬を元に今回の一件で使われている薬を完成させることに成功した。

 これにより、彼女たちは用済みになってしまったのである。


「……リアちゃん……今、どこにいるの? 会いたいよ」


 彼女がそう言うと、何者かが部屋に入ってきた。


「お前はもう用済みだ。今までご苦労だったな」


「あなたは誰? 私に何をする気なの? もう痛いのは嫌だよ」


「安心しろ。一瞬で終わらせてやる」


「……また何も教えてくれないんだね。ここの人たちはみんなそうだった。私が何をいても、何も教えてくれなかった。なのに、私の血を好きなだけ抜いていって。私をなんだと思ってるの?」


「黙れ。モンスターチルドレンを全て抹殺しなければ、この世界はいずれ滅んでしまう。だから、俺はお前を殺す」


「……へえ、そうなんだ……。けど、私たちは好きでこうなったわけじゃないんだよ?」


「それがどうした。お前たちのせいでこの世界のパワーバランスは大きく崩れてしまった。それがどれほどのことなのかお前は……お前たちは理解しているのか?」


「そんなのわからないよ……。けど、今ここで私を殺すのはやめた方がいいよ」


「ふん、言いたいことはそれだけか? まあ、せいぜいあの世で悔やむといい。そして、おのれの罪を一生償え!」


 彼は炎魔法で彼女を殺そうとした。

 彼女はこのままここで死ぬのもいいと思った。

 しかし、リアちゃんに会いたいという気持ちが彼女の心を突き動かした。


「そうだ……私はまだ……死ぬわけにはいかない。リアちゃん……待っててね。今、行くから」


「ふん、バカめ。この部屋から出られるとでも思って」


「はぁああああああああああああああああああ!!」


 ロストは力任せにかせを壁から切り離した。


「な、なにぃ!?」


 彼は一瞬、その光景に目を奪われてしまったため、彼女の動きについていくことができなかった。


「だぁああああああああああああああああああ!!」


 ロストは彼を扉があるところまで吹っ飛ばした。


「ぐはぁ!?」


 彼が気を失うと、その扉が開かれた。


「や……やった。これでリアちゃんのところに行ける!」


 ロストはボロボロの服で彼女に会いに行くのは、みっともないと思った。

 その後、彼女は指をパチンと鳴らすと魔力制御用の白いワンピースを身にまとった。

 ロストはその場でクルリと一回転と、ニシッと笑った。


「待っててね、リアちゃん!」


 彼女はそう言うと、部屋から飛び出していった。


 *


「……破壊プログラムを実行します」


 特殊な素材でできている赤いスーツと赤い武装と白髪ロングと水色の瞳が特徴的な魔導兵器『アリサ』はそう言った。


「……ふっふっふっふっふ……ついにやったぞ。これで世界は私のものだ!」


 黒い短めの髪と黒縁眼鏡と白衣と左目の下にあるホクロが特徴的な魔法学者『ブラッド・カルテット』は色々な機械が置いてある部屋でそう言った。


「マスター、一つよろしいですか?」


「ああ、なんだ?」


「現在、『ビッグボード国』に異常かつ膨大な魔力を持った者たちがいますが、破壊プログラムを実行してもよろしいのですか?」


「な、なんだと! そんなやつらがそのまちにうじゃうじゃいるというのか!」


「はい、います。しかし、ほとんどが人間ではありません」


「な、なんだと! その国で今、何が起きているのだ!」


「その答えを知るためには、現地に行く必要があります。今から行きますか?」


「うーん、そうだな……。そんなやつらがいるところに行くとなると、いざという時のために色々と持っていかなければならないな……」


「マスター」


「ん? なんだ?」


「今、その国にいる人たち全員をデータ化してみたのですが、その中に一人だけ見覚えがある者がいました」


 アリサはモニターにその人物を映し出した。


「なんだ? この真っ赤な鎧をまとった少年は。いや、待てよ。ま、まさかこいつは!」


「はい、おそらく『ケンカ戦国チャンピオンシップ』で、あの『はぐれモンスターチルドレン討伐隊司令』『オメガ・レジェンド』と互角に渡り合った謎の少年『本田ほんだ 直人なおと』です」


「な、なぜやつがその国にいるのだ!」


「それは分かりません。しかし、彼は例のその大会でモンスターチルドレンをかばっていました。なので、少なくとも彼の近くにはモンスターチルドレンがいると思われます」


「な、なるほど。たしかにそうだな。しかし、やつは今、指名手配されていなかったか?」


「はい、されています。少し前までは『鎖の悪魔』という名前が手配書に書かれていましたが、今は『漆黒の堕天使』になっています」


「漆黒だと? どう見ても『真紅の大天使』じゃないか。本当にやつがあのナオトなのか?」


「はい、間違いありません。例の大会で彼がまとった鎧と今回の鎧の形状はほぼ一致していますので」


「ほぼか……。ということは、やつは以前よりもさらにパワーアップしているということか?」


「はい、間違いありません。今と前とでは、オーラがまるで違います。例えるなら、モンスターチルドレンと一つになった存在です」


「そ、そんなバカなことがあるか! モンスターチルドレンと人が一つになるだと? そんなことができるわけが」


「いえ、ある条件を満たしていれば、それは可能です」


「な、なんだと! それは本当か!」


「はい」


「で、では、その条件とやらは分かるか!」


「いえ、そこまでは分かりません。データが不足しているので」


「じゃあ、片っ端から集めろ! あと、ついでにモンスターチルドレン育成所の場所もだ!」


「それは前にもなさっているようですが、全て失敗していますよ」


「そ、そんなことは分かっている! しかし、挑戦し続けていれば、いつか必ず突破口が見つかる! 私はそれをやってきたからこそ、お前という魔導兵器を作ることができたのだ!」


「そうですか。では、やってみます。しかし、その際、破壊プログラムを実行できませんが構いませんか?」


「ああ、もちろんだ!」


「了解しました。では、モンスターチルドレンと人が一つになる方法についてのデータ収集とモンスターチルドレン育成所の現在地を検索します」


「ああ、頼んだぞ! アリサ!」


「マスター、今、集中しているので話しかけないでください」


「あ、ああ、そうか。それはすまなかったな」


「いえ、問題ありません。では、先ほど私が述べたものを実行します……」


 その後、アリサは先ほど自分が述べたことを実行したのであった……。

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