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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その8

 ビッグボード国の裏路地……。


「へっへっへ。今回はうまくいってよかったぜ。しっかし、あんな恐ろしい薬をほいほい買っていくやつの気が知れねえぜ」


「じゃあ、教えてあげようか?」


「だ、誰だ!」


「……なあに、通りすがりの黒沢式植物召喚術の使い手さ」


 魔法使いか? いや、こんなおかしな格好をしている魔法使いなど聞いたことがないぞ。

 ま、まさか、こいつ……異世界人か?

 だとしたら、ヘタに刺激しない方がいいな。


「そうか、そうか。それで? 俺に何の用だ?」


「おじさんはさ。誰かに頼まれてやったの? それとも自分の意志でやってたの?」


「さ、さあ……なんのことだかさっぱりだ」


「そう……。それじゃあ、この二人のこと……覚えてる?」


 黒沢がそう言うと、その二人はどこからともなく裏路地に現れた。


「お、お前ら! なんでここに!」


「あれ? 今、この二人を見て、お前らって言わなかった? 三人は知り合いなのかな?」


 こ、ここは振り切るしかない。


「あ、ああ、そうだ。俺たちは、知り合……」


『嘘だっ!!』


「お前は俺たちに!」


「こう言いながら、薬を渡しただろう!」


『これは人の役に立てるようになる薬だから、安心して飲むといいよ……ってな!』


 くっ……! ここまでか!

 いや、待てよ……。俺がそう言ったという証拠がどこにある?

 それに気づいた彼は、黒沢にこう言った。


「なるほど。じゃあ、その証拠を見せてくれないか?」


 さぁ、どうだ! ぐうの音も出まい!

 慌てふためき、悩み、絶望しろ!

 しかし、彼が想像した結果にはならなかった。


「うん、いいよ。ちょっと待っててね」


「あ、ああ……」


 こ、こいつ……いったい何をしようと……。

 彼がそう思った直後、黒沢は力を使った。


「黒沢式植物召喚術……壱の型二十五番『イエローチューリップ』!」


 黒沢がそう言うと地面から黄色いチューリップが咲いた。

 な、なんだ! こいつは! 魔法使いか!


「チューリップさん、お願いできるかな?」


 黒沢が黄色いチューリップにそう言うと、黄色いチューリップは彼女の言葉に応えるかのようにトコトコと歩き始めた。

 彼の前で停止したそれは、黄色い光を放った。


「な、なんだ! 今のは!?」


 彼がそう言うと黒沢はこう言った。


「おじさんはもう、僕がこの国を出るまで本当のことしかしゃべれないよ」


「ふん、そんなのはったりだ。俺が本当のことを言うわけ」


 その時、彼の舌が勝手に動き始めた。


「すみませんでしたああああああああああ! 俺がそいつらに薬を売った張本人ですうううううう!」


 彼は自分がなぜ土下座をしながら、そんなことを言っているのかわからなかった。

 しかし、一つだけわかったことがあった。

 それは、先ほどの黄色いチューリップが自分に何かをしたということだった……。


「黄色いチューリップの花言葉は『正直』だからね。おじさんは僕を殺すか、この国から追い出すかのどちらかをしない限り、一生そのままだよ」


「なら、今すぐお前を殺してや……」


 その時、犬型のモンスターとハイエナ型のモンスターが指をポキポキと鳴らしながら、彼の前に立ちはだかった。


「お前に騙された俺たちも悪いが……」


「こうなることを知っていたお前は、もっと悪いってことを思い知らせてやる!」


「ま、待て! 俺はただ、命令されただけなんだ! だから、俺は悪くない!」


「なら、さっさとそいつの名前を言え!」


「さもないと、全身の骨を折るぞ!」


 彼は、蜘蛛くも歩きで後ろに下がりながら、こう言った。


「わ、わかった。今からあのお方の名前を言うから、許し」


 その時、彼の体に異変が起きた。


「ぐ……あ……がは! ううう……うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 彼は苦しそうな声をあげながら、その場で横になった。

 まるで体の中を誰かにめちゃくちゃにされているかのような声をあげていた。

 そして、次の瞬間、彼の体はばらばらに弾けた。

 先ほどまでそこにいた人間の肉片が辺りに散らばる。


「お……おえええええええええええええええええ!」


 それを見た犬型のモンスターは壁際に胃袋の中のものをほとんどぶちまけていた。


「兄さん! しっかりしてよ!」


 それを見たハイエナ型のモンスターは彼の背中をさすっていた。


「うーん、どうやらこの国には、結構厄介なやつがいるみたいだね……」


 黒沢はそう言いながら、空を見上げていた……。


 *


「結局、俺たちは元に戻れないのでしょうか……」


「兄さん、弱音を吐くのはやめてよ」


「そうだね。君たちが元に戻れないなんてことはまだわからないもんね」


 福寿草の葉っぱの上でそんなことを話していた三人。


「…………」


「ん? どうしたの?」


 福寿草がなぜか急停止したのを不思議に思った黒沢は福寿草の葉っぱに触れながら、目を閉じた。

 数秒後、黒沢はゆっくりと目を開けた。


「なるほど。たしかに、これはまずいね」


「まずいって」


「どういうことですか?」


「まあ、あれだよ。この国にたくさんいるあの人たちよりももっとやばいのが来るってことだよ」


「あ、あいつらよりやばいのが!」


「ここに来る!」


 二人が慌てふためく中、黒沢だけはそれを備えるために策を練っていた。

 僕が力を使える回数はせいぜいあと二回ってところだろうね……。

 だとしたら、その二回でこの国全体を守れるくらいの植物を召喚しなくちゃいけないね。

 そう考えた黒沢はこの国の中心部にある大きなお城に向かうことにした。


「ねえ、二人とも。あの大きなお城の中に王様はいると思う?」


「それって……」


「ビッグボード城のことですか?」


「うん、そうだよ。それで、どうかな?」


「どうと言われましても……」


「俺たち、自分のことで精一杯だったのでそこまではわかりません」


「そっか。ありがとう。それじゃあ、君たちとはここでお別れだ」


「な、何言ってるんですか!」


「そうですよ! 俺たちが完全にモンスターになっていないと見抜くだけではなく、俺たちの国を救おうとしているのですから、俺たちはそんなあなたの役に立ちたいです!」


「君たち……。わかった。それじゃあ、僕と一緒についてきてもらえるかな?」


「はい!」


「もちろんです!」


「よおし、それじゃあ、しゅっぱーつ!」


『おおーー!!』


 こうして、黒沢たちは『ビッグボード城』へと向かったのであった……。


 *


 同時刻……ビッグボード国上空では……。


「……おい、起きろ」


 彼は彼女を殴った。

 薄暗い部屋の中で手足を拘束され、魔力も封じられている幼女を殴った。(壁に貼り付けられている)


「こ……こは?」


「ここか? ここはな『空中要塞 デスカウント』の中にある拷問室だ」


「私に何をする気……なの?」


 赤い短髪の男は、彼女の腹に蹴りを入れた。


「ぐっ……! ごほっ! ごほっ! ごほっ!」


「おい、誰が喋っていいって言った?」


「ご……ごめんなさい」


「ごめんで済むと思ってんのか! こらぁ!」


 彼はまた彼女の顔面を殴った。


「……うっ! …………!!」


「おい、その目はなんだ? 俺に逆らう気か?」


 彼の金色の瞳は彼女の反抗心を打ち消した。


「い……いえ、違います」


「そうか、そうか。なら、もう少し頑張ってみようか」


 ボロボロの服を着せられている彼女の名前は『リア』。一応、天使型モンスターチルドレンであるが、彼女の身に宿る力が強大すぎたが故に、十番以内に入れなかった存在である……。


「おら! おら! もっと俺を楽しませろ!」


 そう言いながら、彼女を殴っているのは『レッド・ネーム』。

 今回の事件の発端である『漆黒の裏組織(アポカリプス)』の幹部の一人である。


「お前みたいな出来損ないはな! 俺みたいなやつに痛ぶられる運命なんだよ!」


 私……このまま一生、ここにいなくちゃいけないのかな?

 けど、私を認めてくれる人なんて、この世にいない。

 なら、私はいったいどうすればいいの?

 彼女は、そんなことばかり考えていた。

 しかし、彼はそんな彼女に容赦などしない。

 ただただ、日頃の鬱憤うっぷんを晴らしたいだけなのだから。

 彼は真っ赤な鎧で顔以外を覆っている。

 だから、慢心していた。

 モンスターチルドレンをあなどっていた。


「……私は」


「あぁん?」


「私は……もう……ここにいるのは……飽きた」


「そうか、そうか。なら、ここよりもっといいところに連れてってやるよ」


「それ、本当?」


「ああ、本当だ。約束しよう」


「そう……なら……今すぐ私の前から消えて」


「はぁ? お前みたいな出来損ないが、この俺に命令するなんて、百億年早えんだよ!」


 彼が彼女の服を破ろうと手を伸ばしたその時、彼女は【覚醒】した。


「がぶっ……!」


「ぎゃああああああああああああああああああ!!」


 彼女は『フ○インディング ニモ』に出てくる『チョウチンアンコウ』のような長く鋭い歯で彼の右腕を噛みちぎった。

 彼はすぐに炎魔法で傷口を塞いだが、痛みはまだ残っていた。


「てめええええええええええええええええええ!!」


 壁に貼り付けられていた彼女は、もはや人ではなかった。

 彼が彼女の顔面を殴る前に、手刀で彼を豆腐のように切り刻んでいたのだから……。


「バ……カな。この俺が……お前みたいな……出来損ないに……負ける……なんて」


 彼女は、彼に背を向けたまま、こう言った。


「そんな出来損ないに負けたあなたは、私より出来損ないってことよ」


「く……そ……」


 彼はそう言うと、意識を失った。

 彼女が指をパチンと鳴らすと、白いワンピースが彼女の柔肌を包み込んだ。

 彼女が部屋の外に出ると、そこには銀色の鎧をまとった者たちがこちらに剣を向けていた。

 しかし、白髪ツインテールと金色の瞳が特徴的な美少女……いや美幼女『リア』は、全く動じなかった。

 それどころか、笑っていた。

 まるで目の前にいる彼らが自分より貧弱であるかのように……。


「か、かかれー!」


『うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 彼らは一斉に彼女に襲いかかった。

 しかし、彼女には彼らの動きが止まって見えた。


「……遅すぎる」


「ば、化け物め!」


 どうやら、彼女は一人で彼らを倒してしまったようだ。


「ねえ、一ついてもいい?」


「な、なんだ?」


「私と一緒にいた『ロスト』ちゃん……じゃなくて、悪魔型モンスターチルドレンがどこにいるのか知ってる?」


 リアは、仰向けで倒れている警備兵の一人の前で屈むとそう言った。


「もし、知っていたとしても、俺はお前のような化け物になど決して教えな……ぐあああああ!!」


 彼女は、彼が最後まで言い終わる前に彼の両目を指で潰した。


「バーカ。さっさと教えないから、そうなるのよ」


「き、貴様あああああああああああああああ!!」


「えいっ……」


 彼女は、彼の顔を手刀で真っ二つにした。


「うーん、やっぱりこうなるのか……」


 リアは、左手の人差し指と中指と右手についていた真っ赤な血が蒸発する様子を不思議そうに見ていた。


「モンスターチルドレンって、みんなこうなのかな? あっ、いけない。早く『ロスト』ちゃんを探さなくちゃ……」


 彼女は白い壁と白い床が特徴的な通路を進み始めた。

 この時、まだ誰も彼女が天使型モンスターチルドレンの中で最強であることを知らなかった。

 彼女が探している悪魔型モンスターチルドレンも悪魔型の中では最強であることも知らなかった……。

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