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〇〇は『橙色に染まりし温泉』でまったりする? その7

 四月十八日……午前八時十五分……。

 この日、ビッグボード国内でモンスター化した人たちがまちや人を襲う事件が起こった。

 今から始まるのは、その事件のほんの一部である。


「もうー! なんで君たちは人が温泉に浸かってる時に襲撃してくるのかな!」


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ」


「ダメだ。何言ってるのか、さっぱりわからないや」


 黒沢くろさわ すばるはそんなことを言いながら、モンスター化した人たちの相手をしていた。

 身長百五十センチ。少し大きめの白いパーカーと青いジーンズとパンダのヘアピンと黒髪ショートと黒い瞳が特徴的な美少年……いや美少女(?)である。


「ナオトがこの国に来るはずだって聞いたから、ここまできたのに君たちみたいなのがいるなんて聞いてないよー」


 黒沢はナオトの高校時代の同級生であり、彼のことが好きだった。

 しかし、自分のことを【僕】と言っていたせいで、ほとんど女の子扱いされることなく、卒業してしまった。


「けど、本当にナオトがこの国にいるのなら、どこかで僕の戦いを見ているかもしれないってことだよね」


 彼……いや彼女は彼らの攻撃を華麗にかわしながら、そんなことを言った。


「よし、それじゃあ、今回は頑張っちゃうぞー!」


 彼女はそう言うと、彼らの攻撃を回避しながら、こう言った。


「黒沢式植物召喚術……いちの型一番『福寿草ふくじゅそう』!!」


 その直後、地面から全長五メートルほどの金色の花が姿を現した。

 彼女はその花の葉っぱに飛び乗ると「いっけー!」と言いながら、前方を指差した。

 すると、巨大な福寿草は根っこを足にして歩き始めた。

 それは、陸に上がったタコのような動きでモンスター化した人たちを次々と蹴散らしていった。


「うーん、まちがだいぶ壊されてるな……。よし、ここは僕の力の見せ所だね!」


 黒沢はそう言うと、まちを修復するために、また何かの植物を召喚した。


「黒沢式植物召喚術……いちの型五番『ラッパスイセン』!」


 すると、まちの地面から次々と黄色い花が咲き始めた。

 その花の中央にはラッパ状の副花冠ふくかかんがある。


「さぁ! 修復開始だよ!」


 黒沢がそう言うと、ラッパスイセンたちはトコトコと歩き始めた。

 そして、壊れた建物を再生し始めた。

 黒沢は、ただ花を召喚するわけではない。その花が持つ『花言葉』の力を能力として扱うことができるのである。

 つまり、今はラッパスイセンの花言葉である『再生』を扱っているのである。


「建物を直すのは、あの子たちに任せて大丈夫だけど、逃げ遅れた人たちやケガをした人たちをどうにかしないと、被害が拡大するだけだよね……」


 黒沢はそう考えたのち、また違う植物を召喚することにした。


「黒沢式植物召喚術……の型二十二番『カモミール』!」


 黒沢がそう言うと、まちの地面から次々とマーガレットに似た白い花が咲き始めた。

 その花はヨーロッパで愛用されているハーブであり、開花とともにリンゴのような香りを放つことから『大地のリンゴ』とも呼ばれている。


「カモミールさんたち! 逃げ遅れた人たちを安全なところまで誘導しつつ、ケガをした人たちの手当てをしてくれる?」


 カモミールたちは黒沢の言葉に応えるかのように、トコトコと歩き始めた。

 ちなみに、カモミールの花言葉は『癒し』である。


「はぁ……はぁ……や、やっぱり連続して出せるのは三種類が限界みたいだね。さすがにちょっと疲れちゃったよ」


 その直後、福寿草は彼女に自らの花びらを一枚分け与えた。(葉っぱを器用に使って)


「あっ、ありがとう。心配してくれたんだね」


「…………」


 福寿草の花言葉は『幸せを招く』。

 福寿草は、そのことを知らなかったが、それは今の彼女にとって、心の支えと言っても過言ではないものになった。


 *


「それにしても、この国は広いねー。まあ、僕たちの世界でいうところの『大分県』だから、広くて当然だよね」


 黒沢がそんなことを言いながら、辺りを見渡していると、モンスター化した人たちが合体し始めていることに気づいた。


「な、なにあれ……。どんどん大きくなってるんだけど」


 その巨人は体長三十メートルほどの大きさになると、まちを破壊し始めた。

 しかし、その直後、どこからともなく飛んできた黒い投げ槍がその巨人の両目を同時に貫いた。

 その直後、その巨人は仰向けで倒れ始めた。

 こ、こんな巨人が倒れたりしたら、まちは間違いなくペシャンコになっちゃうよね……。

 黒沢は、まちを守るために力を使うことにした。


「黒沢式植物召喚術……じゅうの型十六番『ヤマスゲ』!」


 黒沢がそう言うと、巨人が倒れてくる場所を囲むように地面からヤマスゲが次々と生え始めた。


「ヤマスゲさんたちー! この辺り一帯をあの巨人が倒れてきても大丈夫なようにしてくれるー?」


 紫色の小さな花が穂状すいじょうについているその花は、黒沢の言葉に応えるかのようにトコトコと歩き始めた。

 その後、巨人が落ちてくる前に紫色の光を放った。

 これは地面をとある状態にするためである。

 そして、その巨人は倒れた。

 しかし、地面は何の変化もなかった。

 これが『ヤマスゲ』の花言葉『忍耐』の効果である。あらゆるものを忍耐力のある状態にできるというすごい能力なのである!

 つまり、その花の力が発動している間は、永遠に耐え忍ぶのである。


「ヤマスゲさんたち、ありがとう! 助かったよ!」


 黒沢がそう言うと、ヤマスゲたちは左右にユラユラと揺れた。

 おそらく「どういたしまして」ということを伝えたかったのであろう。


「さてと、それじゃあ、あとはこの巨人を眠らせておかないとね……うっ……ま、参ったな……。少し休まないといけない……みたい……だ」


 黒沢はそう言うと、スリープモードになった。

 説明しよう。黒沢はスリープモードになると、早急に体力を回復させるために、五感をシャットアウトするのである。


「…………」


 福寿草は彼女が風邪をひかないように、葉っぱで寝袋を作った。

 まあ、彼女を葉っぱでクルクルと巻いただけなのだが。

 その直後、モンスター化した人たちがどこからともなく現れた。


「…………」


 福寿草は彼女のスリープモードが解除されるまで、その人たちを追い払っていた……。


「……う……うーん……あ……あれ? もしかして、僕、寝ちゃってた?」


 福寿草は彼女が起きると同時に葉っぱを元の状態に戻した。


「えーっと、何分くらい眠ってたのかな……」


「…………」


「そっか。十分くらいか……。思ったより寝てないな。まあ、いいか」


 黒沢はスッと立ち上がると背伸びをしながら、あくびをした。


「さてと……それじゃあ、ぼちぼち行こうか」


 彼女がそう言うと、福寿草はゆっくりと前に進み始めた。


「……しばらく力を使いたくないけど、これはそうも言っていられないね……」


 黒沢が目にしたのは、モンスター化した人たちの仲間割れであった。


「グルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!」


「ガルルルルルルルルルルルルルルルルルルルッ!」


 どうやら、この国を自分のものにしようとしているらしい。

 犬型のモンスターとハイエナ型のモンスターは二足歩行であったが、若干よろけていた。

 つまり、まだうまく歩けないのである。

 それに気づいた黒沢は福寿草に、こう言った。


「あの二人を僕の目の前に運んできてくれないかな?」


 福寿草は黒沢の声に応えるかのように、根っこをスルスルと動かしながら、彼らの足元にそれを忍ばせた。

 そして……。


「よし、今だ!」


「…………」


 福寿草は静かに二人を根っこで束縛すると、彼女のところまで移動させた。


「やあ、お二人さん。何か揉めているみたいだけど、僕でよければ話を聞くよ」


「グルルルルルルルッ!」


「ガルルルルルルルッ!」


「うーん、なんか警戒されてるみたいだね……。けど、ただの人間がなぜ植物を従えているのか不思議に思わないのかな……?」


「ワンワンワン!」


「ガウガウガウ!」


「うーん、やっぱりわからないや」


 その時、福寿草の花びらが黒沢の頭の上に落ちてきた。


「ん? なんか落ちてきたね。なんだろう」


 彼女は頭の上に乗っていた金色の花びらを取った。

 すると、そこには『おでこに貼ってね』と小さな文字で書かれていた。


「うーん、これを何に使うのかはよくわからないけど、とりあえずおでこに貼ればいいんだよね?」


「…………」


 福寿草は無言でうなずいた。


「よし、それじゃあ、貼ってみようかな。よっと」


 黒沢がおでこに金色の花びらを貼ると、二人が何を言ってるのかわかるようになった……。


「聞いてくださいよ! こいつ、弟のくせに俺に文句言うんです!」


「今、それ関係ないよね? いい加減、キレるよ?」


 うわー、なんでこの二人って、こんなに相性悪いのかな。

 まあ、僕にはあまり関係ないんだけどね……。


「文句って、どんな文句?」


「それはですね。弟が俺のこの姿をダサいと言ったことが事の発端です」


「全然違うよ。兄さんが俺のことを飢えた獣みたいな目で見るなとか言ったからでしょ?」


「なんだと! 俺はそんなこと言った覚えはないぞ!」


「それは兄さんの脳みそがノミサイズだからでしょ?」


「こ、このやろう! なんで俺がそんなこと言われなくちゃいけないんだよ!」


「兄さん、落ち着いて。俺はただ、事実を言ってるだけだよ」


「お、お前な……!」


「はい、ストップ。二人とも、とりあえず落ち着いて」


『けど!!』


「あのね。君たちは一つ重要なことを見落としているんだよ」


「それはいったい……」


「なんですか?」


「それはね……今は、君たちをそんな姿にしたやつの場所を突き止めるのが先ってことだよ」


「な、なるほど」


「たしかに、そうですね」


「はい、ということで今から君たちは自慢の鼻で君たちをそんな姿にしたやつのところまで僕を案内してもらうよ」


「そ、そんな!」


「こ、困ります!」


「なんで困るの? 君たちはモンスター化させられたんだよね?」


「い、いや、それは……」


「い、色々とわけがありましてね」


 なーんか怪しいな……。よし、一つ試してみるか。


「あのね。僕はその人の知人なんだよ。だから、探すのを手伝ってほしいんだけど……」


「そ、そうでしたか」


「な、なんかすみません」


「ううん、謝る必要なんてないよ。さあ、僕をその人の元に案内しておくれ」


「わかりました!」


「けど、その前にこれをほどいてください」


「あー、そうだったね。もう解放していいよー」


 黒沢がそう言うと、福寿草はそれに反応するかのように二人を解放した。


「それじゃあ、案内よろしくー」


「かしこまりました!」


「それでは、行きましょう」


「うん、そうだね」


 こうして、一行は共に彼らをモンスター化させた人物のところへ進み始めた……。

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